7.
その華奢な腕の中に僕を抱きしめたまま、彼女は立ち上がった。
僕が落っこちてしまわないようにぎゅっと、彼女は僕を腕の中に閉じ込める。
いささか力が入りすぎているような気がするのは僕を大切に思うあまりか、――それとも彼女が僕にすがっているからか。
彼女は僕を大事そうに抱えて、僕の隣の部屋――303号室のドアに鍵を差し込んだ。ちらっと見えたのは、猫の尻尾を模したふわふわのキーホルダー。彼女は本当に猫が好きみたいだ。僕だって負けちゃいないけど。
そして彼女は無造作にノブをまわし、扉を開く。
もちろん、人間だった時の僕には決して開かれなかった扉だ。そりゃ、どうしたってどきどきしてしまう。一人暮らしの女の子の部屋に入るのなんてはじめて、ってほどにはウブでもないけど、久方ぶりなことは確かだ。
もちろん彼女は緊張なんかしないで(自分の部屋なんだから当たり前だ)、あっけなく扉を開いて中に駆け込んでいく。
扉が開かれた瞬間、僕はあっけにとられてしまった。
同じアパートの部屋なんだから、基本的な作りは僕の部屋と全く同じのはずだ。それなのに、部屋というものは主人の違いでこんなにも雰囲気が変わるものなのか。
彼女の部屋は、ひとことで言うならスタイリッシュだった。まるで、オシャレな雑誌からそのまま出てきたような風景。もちろん、僕はそんな雑誌は読んだこともないけど。
もともとの白い壁と、木の幹や枝の色をそのまま生かしたような茶色(確か、ナチュラルウッドとかいうやつだ)と、葉っぱを思わせるようなグリーン。部屋のほとんどがそれだけの色で構成されている。カラフルな色が氾濫する現代社会で、こういうシンプルな色使いは心を安らがせる。……なんて思わず評論家みたいなこと言っちゃうくらい、完璧にコーディネートされた部屋だった。とてもじゃないけど、床にまで雑誌やらお菓子やらが散乱している僕の部屋とは比べられない。
「どうしたの、きょろきょろして。あたしの部屋が珍しい?」
あっけにとられている僕を顔の近くまで持ち上げて、彼女は想像していたよりも少し低い、穏やかで耳に心地いい声でそんなことを聞いてくる。ちょこん、と小さく首を傾げたりして。
その姿はもう本当に、ほっとさせるような、硬く凝った心を優しくときほぐすような。
そう、何よりも彼女自身が、この部屋の雰囲気にぴったりと似合っているのだった。




