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そうだ。神を殺そう。



「ううううううう。暑い」


 板張りのフローリングの上。あたしは、ごろんと俯せになる。お、冷たい。ひんやりとした感触が伝わってくる。だが、それも数瞬。しばらくたつと、あたしの熱がフローリングに伝わり、ぬるくなる。


「ううううう。暑いよぉ。何であたしがこんな目に」


 ブツブツと独り言を言う。恨めしげに、壁に掛けられた温度計へと視線を向ける。そして見てしまう。無情な数字を。


「ゲぇ!! 38度!? さっきから二度も上がってるじゃない!! どういうことよ!!」


 思わず、叫び声を出す。

 と。


「まあ、夏ですから」


 横から返事が返ってくる。若干、呆れたような声。

 あたしは恨めしげに、声の主を見る。


 そこにいたのは女の子。十代中頃。白磁の肌に、金色の髪。超のつく美少女。そんな彼女は、何故かアニメ調のメイド服を着ている。


 その少女、何を隠そうその正体は先週捕獲した邪神だ。美少年だと思って捕獲したのに、その正体はなぜか美少女。むかついたから首チョンパでもしようかと思ったんだけど、必死に命乞いをしてくるから助けてあげたのだ(うん。あたしってば、まじかんだい。海のように広く深い心の持ち主だ。エッヘン。)


「いや、自分で自分のことを寛大とか言ったりしませんよ。本当に寛大な人は」


 少女邪神が何やら抗議してくる。


「うっさいわね! どこへなりとも好きなところに行けば! あんたがいると、そのぶん部屋の温度が上がるのよ! 唯でさえ暑いのに」


「行けませんよ。この首輪のせいで」


 そう言って少女邪神は、首にはまった首輪を指さす。


「ううううううう。熱いいいぃ」


 思わず呻き声を出してしまう。そうだった。隷属の首輪を掛けてるんだった。あの首輪を一旦つけてしまうと、ご主人様から離れられなくなるんだった。しかもあの首輪。設定が無茶苦茶なのである。前に使った時はもうちょっと融通が利いたはずなのに、何故かこの少女邪神についている首輪は設定が変更不可。

 あたしから1メートル以上離れることが出来ないという謎の鬼畜設定なのだ。一度、あやめに解除してもらおうかと思ったのだが、あっさりと断られた。


「ううううううう。暑いよぉ。あやめの部屋にはクーラーあるのに! なんで入れないのよ!」


 そう、入れないのだ。夏は暑い。当たり前だ。

だが、いつもなら、あやめの部屋に無断で侵入。涼むことが出来るのだ(ちなみにあたしの部屋にクーラーはない。三年前に故障して、それっきり。お金もないので放置している)。

 しかし。しかしである。今夏は違った。なんと、あやめの奴。部屋に鍵をかけたのだ。


「なんでって言われましても……入れないのは自業自得では?」


 少女邪神の呆れたような指摘。


「ううううううぅ。いいじゃない。あやめのパソコンを弄っただけじゃない。ちょっとだけ」


 そもそも、パスワードを設定してないあやめが悪い。あたし悪くない。


「ちょっとって……随分と好き勝手やってたような……」


「ううううう。だって。だって」


 ゴロゴロとフローリングを転がる。あ、ちょっとだけ冷たい。

 と、ゴロゴロしている中。あたしは、それに気づいた。


「あ!」


 思わず、少女邪神を指さす。


「へ? 何ですか?」


 キョトンとした様子の少女邪神。どうやら、自分の状態に気付いてない様だ。


「うんにゃ。何にも。ただちょっと、大胆な下着だな~って」


「きゃ!」


 少女邪神が、慌ててスカートの裾を押さえる。


「眼福、眼福。邪神ちゃんマジ天使」


 取り敢えずそう言って、サムズアップしておく。


「えええん。セクハラですよ、お姉さま。こんな恰好……」


 そう言って少女邪神は、スカートの裾を引っ張る。彼女の着ているメイド服。黒と白を基調としたその服は、超絶ミニ。股下1センチという異様な短さだ。

 このメイド服。何処から出てきたのかというと、あやめのクローゼットだ。あやめがメイド服を出すときにちらっと見えたけど、そのクローゼットには何やら不穏な雰囲気の服飾がけっこう収納されていた。


「良いじゃない。それなら、美少年に間違えられることも無いし」


「いや。普通は間違えませんからね。普通は。しかも、それ。私がもし男の子だったらどうなってたんです?」


「どうって、そりゃ。食べるに決まってるじゃない」


「ひぃ!」


 何故か、泣きそうな顔で一歩後退する邪神。


 うーむ。そんなに怖いものだろうか? あたしって。


「っていうか、あんた。女っぽい見かけをしなさいよ! 髪もショートだし! 胸も平らだし!」


「そんな理不尽な……」


「理不尽じゃないわよ!! あたしが美少年と間違えるじゃない!!」


 やることも無く熱いので、八つ当たりだ。しかし暑い。


「そんなこと言われまし……あ、そう言えば」


 と。少女邪神は何かに気付いたようだ。


「私って、神でした」


 次の瞬間。少女邪神の姿がぶれる。ブレは一瞬。すぐに元に戻る。

 だが。


「ジーサス! 神はいた!」


 あたしは思わず。叫び声を出す。

 少女邪神の格好が変化していたからだ。髪が腰までのロングになっている。そして何より。そう、何よりも。そのおっぱいが大きくなっている。具体的にはGカップぐらい。


「邪神ちゃんマジ神様!」


 邪神を褒める。


「いや。それほどでも。これでも私、三大邪神の一柱ですから」


 少女邪神の頬が赤くなる。どうやら褒められて、照れているようだ。


「あたしの胸もお願いね!」


 そうお願いしてみる。


「え? えっと?」


 困った様子の邪神。


「え?」


 困った顔をされても、こちらも困る。早く胸を大きくしてくれないと。これで大草原のあたしにもチャンスが巡る可能性があるのだ。


「えーと? 無理ですよ。お姉さまのそのバストサイズは。はるかな至高神によってそう決定されているので。一ミリも成長しませんし、出来ません」


 邪神の返答。


「はい? 今なんと?」


 思わず、問い返してしまう。


「ですから。お姉さまのバストサイズは変更できません。神の定めた運命がそうなっているので」


「ジーサス! 神を殺そう!」


 そうだ。神を殺そう。まずは、目の前にいるこの邪神から。そうだ。こいつから殺そう。平たい胸族の仲間だと思っていたのに自分だけ巨乳になって。許せるものか!


「へ? あのぉ? お姉さま? え、え、ちょ? まさか!?」


 何やら少女邪神は焦っているようだ。これから死ぬだけだというのに、何を焦る必要があるんだろうか? 不思議だ。


「殺せ、殺せ。皆殺しだ。もしもそのものが善人なら、神の創りたもう天国に召されるであろう。善人が天国に行くのに何に問題があろうか? もしもそのものが悪人なら、そいつは地獄に落ちるだろう。悪人が地獄に行くのに、いったい何の問題があろうか?」


 くけけけけ。という、妙な笑い声が漏れる。


「いや! おかしいですから! お姉さま! キリスト教に喧嘩を売ってますよ! その台詞! あいつらすぐ名誉棄損とか言って裁判起こすんですから! 作者が危険でデインジャーです!」


 少女邪神が、何やら必死になって叫んでいる。


「くけけけけけけけけけ」


「ヒイイイイイイィ!!」




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