ダンジョンに飛ばされたら美少年がいたので、捕獲してみる
ピン!
警察署から解放され、無事に帰宅したあたし。
当然だが、あたしが警察署で女性物の下着の匂いを嗅いでいたことは家族にも伝わっていて、随分怒られた。
そんなあたしが、夕食を食べ終わった後に自分の部屋で寝転がって『小説を読もう』でスコッパーをしていると、突然第六感が警告してくる。
この感じ。多分また異世界召喚だ。
これで、本日三回目(転移を含めれば、今日一日で四回目!)。
一日で三回も四回も召喚されるとか、回数が多すぎて涙なくしてはいられない。
閑話休題
それはそうと、あたしは急いで部屋を出ると、隣にある妹の部屋へ向かう。
「入るわよ。あやめ」
因みに、この台詞を言い終わる前に、あたしは妹の部屋に入っていて、ドアも閉め終わっている。
いつも通り、妹はそこにいた。
昼前と同様、パソコンの前に座って、街を造る的なシミュレーションゲームをやっている。
普段無口なあやめは何も言ってこない。だが、あやめが生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、気配だけで妹が何を言いたいのかは分かる。
その意味するところは、
『入る前にノックぐらいしてよ』
、だ。
よかった。
怒ってないみたい。
あやめの使用済みパンティーを持っていたことについて、怒ってるんじゃないかとチョットだけ心配してたんだけど……。
どうやら、杞憂だったみたいだ。
妹の横に立つと、そのローブの端を掴む。
ふー。
やれやれ。
これで一安心。あたしの準備は万端。
いつでも来い、異世界人共。異世界からホイホイ他人を呼び寄せることの危険を、その魂に刻み込んでくれるわ。
ふははははははははははははは。
と、待つこと10分。
何も起きない。
15分が過ぎた。
何にも起こらない。
20分経過。
やっぱり何も起きない。
あやめは何も言わない。だけど、ずっと一緒に過ごしているだけあって、その背中を見るだけで、何を言いたいのかは分かる。
その心は、
『いつまで私の服を掴んでるの?蒼姉』
、だ。
無言の抗議を、華麗にスルー。
暇になったので、時間潰しに妹がやっているゲームの進捗状況を覗き見る。
矢鱈と精巧なグラフィックだ。それに、傍で見る分では自由度もかなり高そう。それに何より、よくよく考えたら妹は電子ゲームが嫌いだった。そんなあやめが熱中してるぐらいだし、きっと面白いんだろう。
後であたしもやってみよう。
「何てゲーム?これ」
首を傾げるあやめ。妹が生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、今のあたしにはその首の角度(以下略
その心は、
『ゲームじゃないよ。世界を造るのが面白そうだったから、私もやってみただけ』
だ。
世界を創造って……。
チートだチートだと思っていたけど、そんな無茶苦茶な。
と、あたしが呆れていると、視界の端に突如現れる鏡。高さが2メートル程はあるその鏡は、出現したかと思うとあたし達の方へと向かってくる。
ぶつかる!
だが、そうはならず、あたしと妹は鏡の中へと吸い込まれることになった。
「げ!マズ!」
異世界到着後、周囲の確認をしたあたしは、開口一番そう呟く。
あたし達が飛ばされた先、そこにいたのは大量の人間。人、人、人。全周に渡ってウジャウジャと人間がいる。多分全部で1万人ぐらい。
それらの人間が、巨大な洞窟のような空間に入れられている。
ただし、彼らは召喚主ではない。
ほとんどの人間が、スマフォやケータイを取り出しは、焦った様子でてあれこれ操作していることから考えて、こいつらもまた地球系世界から飛ばされた被召喚者だ。
「大量召喚モノは、めんどくささが増すから嫌いなのに……」
もう帰ろっかな。
そう思ってあやめを見る。
だが、横では、あやめが首をふっている。妹が生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、今のあたし(以下略
その意味は、
『今回は面白くなるよ。蒼姉』
だ。
ジーサス。
神は死んだ。
あたしに世界間移動魔法は使えない。つまり、一旦飛ばされたら最後、何とか協力者を現地調達するか、あやめに戻してもらうしかない。
そうして、現在、世界間移動が出来る現地協力者の当てはなく、あやめも暫く帰る気はないみたいだ。
と言うことはつまり、何とか課題をクリアするまでは、帰れそうにないってこと。
【これで全ての参加者が揃ったみたいだね】
唐突に、声が聞こえてくる。
声の主を見やると、そこには立体映像のようなものが浮かんでいた。
おおお!
その立体映像は美少年だ!
いいね!
美少年!
白石の肌に金色のふんわりした髪。あたしが、今迄に会ったことが無いほどの美少年だ。
戻らなくて良かった!
「グッジョブ!あやめ」
そう小声で伝えると、首を傾げる妹。あたしは、妹が生まれたときから一緒にいるから、それだけで何が言いたいのかが分かる。
その心は、
『気にしないで』
だ。
【今回ここに集まってもらったのは、全部で10000人。これから皆には、僕の作ったダンジョンを攻略してもらう。ダンジョンの階層数はたったの三。簡単に攻略できるよ】
そう言って、皮肉気な笑みを浮かべる美少年。
【ダンジョン攻略者は、元の地球っていう世界に戻してあげる。また、神である僕が一つだけ願いを叶えよう。ただし、ダンジョン攻略者の締め切りは、先着10人まで。それ以降はこのダンジョンで一生を過ごしてもらうから、そのつもりで頑張ってね】
そう言いたいことだけを一方的に伝えて、現れたときと同様に、唐突に消滅する立体映像。
みんな、不安そうに周りを見るものの、自分から行動を起こそうとはしない。どうやら皆、状況が掴めなくて様子見をしているようだ。
これはチャンス。
何と言っても相手は美少年。
願いを叶えるということは、ダンジョンを攻略すればあの美少年に会えるということだ。
ぐふふふふふふふふふふふふ。
美少年に会ったら、そいつを捕まえてお持ち帰りしよう。
ふへへへへへへへへへへへへへへへへ。
そうして、あんなことや、こんなことをやるんだ……。
横であやめが若干引いているけど、そんなものは無視。
何と言っても相手は美少年なんだから!
しかし、あの美少年に出会えるのは先着10人のみ。
周りの連中がもたもたしている間に、急がないといけない。
あたしは、あやめの首根っこを掴むと、ダンジョン入口へと進んで行く。
「ギャ!グギャ!」
「ギャ!ギャ!ギャ!」
「ギャ!ギギ!グギャ!」
ダンジョンに入って最初に遭遇したのはゴブリンの群れ。数は50匹ほど。
あの美少年神は、簡単に攻略できると言っていた。だけど、第一階層の最初に遭遇するモンスターの数を考えるに、初手から殺しに来てるとしか思えない。
でも、この状況は好都合。
この様子では、他の参加者たちは暫くの間前進できずに、最初から足止めを食らうだろう。まあ、参加者の数が10000人もいるんだから、何人か犠牲にすれば強引に突破できるんだろうけど。
あたしはあやめを前に掲げると、そのままゴブリン達を蹴散らしながら突き進んでいく。
「ふははははははははは!待ってなさい!美少年!」
おお!
あれは!
ボス部屋だ!やっと見つけた!
まだ、第一階層なのに、やたらと見つけづらい場所にボス部屋をるなんて!あの美少年神、顔はともかく性格はかなり悪そうだ。
ふははははははははは。出会ったら、たっぷりと躾けてやらないといけないな!これは!
それはそうと、
「どりゃああああ!」
あやめを盾にした状態で扉を突き破ると、ボス部屋に進入。
そこにいたのはミノタウルス。
えー。
ミノさんと言えば、低階層ボスの定番。だけど、ここはもうちょっと変化が欲しかった。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げると、戦斧を構えて突進してくるミノさん。
甘い!
そんなナマクラでは、あたしのあやめは破れないぞ!
あやめと戦斧が激突。
当然だが、叩き折られたのは戦斧の方。ミノさんの戦斧は余りにナマクラすぎて、あたしに反動の欠片すら及ばない。
と言うか、反動が全くないというのは流石におかしい。きっと、あやめが機転を利かせて、慣性制御系のスキルを発動したんだろう。
それはそうと。あたしはそのままあやめを構えて突き進んで行き、ミノさんの懐に入る。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
あやめが接触した部分から、ミノさんの体は灰になっていく。絶叫を上げて倒れ伏すミノさん。
倒れたときには、ミノさんの体は既に灰化が全身に及んでいたらしく、倒れた衝撃でバラバラになって砕け散っていく。
あやめの持つ常時発動スキル、『呪われた身体』。
このスキルの効果は凶悪の一言に尽き、神や物理法則すら灰にする。このトンデモスキルを前に、ミノさん如きが抗しえる訳もなし。
「ふっ!虚しいものね。勝利と言うのは」
あたしはそう言って、あやめを掴んでいる右手とは別の手で、額の汗を拭く。
微かに首を傾げる妹。
その角度からすると、
『何もしなかったよね。蒼姉は』
と言いたいんだろう。
だが、そんなものは見なかったことにして、いつも通り華麗にスルー。
あたしは、あやめを構え直すと、次の階層へと続く階段へと進む。
イザ!征かん!
美少年をこの手に!