今日も今日とて、異世界召喚を神回避!
ピン!
自分の部屋でくつろいでいると、突然あたしの第六感(笑)が発動する。
「あ、これはヤバイ感じだ」
この感じ。多分また異世界召喚だ。
「ええいっ!毎度毎度、あたしを呼びつけて!たまには他の奴も呼びなさいよ!」
あたしが初めて異世界召喚されたのは中学1年の時。それ以来の10年間で、異世界召喚された回数は100回を超える。
余りにも頻繁に召喚されるせいで、最近では異世界召喚を第六感で事前に察知できるようになってしまった。
「異世界人共ときたら!」
自分で問題を解決できないからと言って、ホイホイ人を呼び過ぎなのよ!しかも、何で毎回、あたしをピンポイントで呼びつけるのか?
地球には、70億もの人間が住んでいるのだ。他の連中だって、たまには不幸になれば良いのに!
ピピン!!
「ゲ!」
今度のは近い。もう時間が無い。多分、あと20秒ぐらい。
あたしは急いで部屋を出ると、隣の妹の部屋に直行。
「入るわよ。あやめ」
因みに、この台詞を言い終わる前に、あたしは妹の部屋に入っていて、ドアも閉め終わっている。
いつも通り、妹はそこにいた。
パソコンの前に座って、何やら街を造る的なシミュレーションゲームをやっている。
大人しいあやめは何も言ってこない。だが、あやめが生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、気配だけで妹が何を言いたいのかは分かる。
『そういうことは入る前に言ってよ』
、だ。
だが、そんな気配は無視。
妹の横に立つと、そのローブの端を掴む。
ローブ。そう、ローブである。
あやめは、ローブを普段着にしている。現代日本人ならば、コスプレをするとき以外にはローブを着る機会などないはずなのだが、何故かこの妹はローブが普段着で全身をすっぽりと包んでいる。ついでに、フードを目深に被っているせいで、表情も窺えない。
こんな恰好を妹がしているのは、肌を他人に見られるのが怖いかららしい。正直、人見知りにもほどがあると思うが、口には出さない。……前にそれを指摘したら酷い目に遭ったから。
そんな妹のローブを掴んでから、待つこと暫し。
あたし達のいる床部分が発光し、魔法陣を描く。そうして、その魔法陣は明滅を繰り返すと、最後に一際大きな閃光を放ちあたし達を飲み込む。
眩しいなあ……
そんな呑気なことを考えながら、あたしは光の流れに身を任せる。
あたしの横では、妹から不満げな感じが放出されている。あやめが生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、(以下略
『毎回毎回、私を巻き込むのはやめてよ』
、だ。
ふふふふふふふ。
「不幸は分かち合うべきよ。姉妹なんだから」
光の渦が流れ去った後、気が付くとあたしは真っ白な空間にいた。横にはあやめ。所在無げに立っている。
そうして、そんなあたし達の目の前には、いかにも神様と言った風貌の白髭な老人が一人。
「ありゃ?何で二人?儂は一人しか呼んでおらん筈じゃが?」
そんなことをブツブツ呟きながら、首を捻る老人。
「ま、よかろう」
しばらく放置していたら、勝手に一人で納得したようだ。
「儂は神である。そなた等には、儂が管理する世界で魔王を」
「だが断る」
「な、な、な、」
いきなり断られるとは思っていなかったのか、驚愕した様子の老人。
利いてる。利いてる。
軽いジャブのつもりだったけど、予想外に効果があったようだ。
神様だけに、自分の考えに反論されるという事態に遭遇した経験が少ないのだろう。
そうして、そんな神に情けをかけるあたしではない。
老人に追い打ちをかける。
「自分の世界の問題は、自分たちで解決させるべきでしょう?異世界人だの神だのが出しゃばって、事態が好転するとは思えません」
魔王を倒すのか、魔王になるのか。どっちかは聞いていないけど、ここは断るのが正解。魔王とかいうフレーズが出てきて、碌なことになった試しがない。
……と言うか、メンドイ。
「な、な、な、」
口をパクパクさせて、「な」を連発する老人。
「『な』って何ですか?神様語ですか?残念なことに、浅学非才な人間のあたしに、神様語は分からないのですが?」
「な、な、な、」
老人の顔が真っ赤になる。
神は何も言っていないが、異世界召喚を繰り返して、人生経験が豊富なあたしには分かる。
「怒ってる。怒ってる」
横で、あやめが首を傾げている。妹が生まれたときから一緒に暮らしていることもあって、(以下略
『それって、人生経験が並の人間でも普通に分かるような……』
、だ。
……チャンとあたしのボケを拾ってくれて有り難う。これが母さんとかユートだと、華麗に放置されるんだよなあ。
あやめ。アンタだけだよ。あたしの味方になってくれるのは。
あやめが首を傾ける。
おお!この角度は!
『それほどでもないよ』
、だ。
あやめにしては珍しいことに、微妙に照れてるのが分かる。
という感じで馬鹿をやっていたら、やっと神(自称)が正気に戻ったらしい。
「小娘共!天罰じゃ!儂の言うことが聞けんと言うのなら!」
そう言って、何処からか取り出した杖を向けてくる老人。
ふははははははははは。
馬鹿め!
無駄なことを!
こんなこともあろうかと、あたしの準備は万全。
横に立っていたあやめの首根っこを掴むと、前に掲げる。
「あやめ展開!果たしてそんな玩具で、このあやめを貫けるかな!」
あたしのそんな挑発に、老人は一瞬面食らったものの、すぐに正気を取り戻す。
「馬鹿め!そんなモノが人質になる訳が無かろう!まとめて貫いてくれる!」
老人のそんな宣言に合わせて、杖の先へと光が収束していく。そうして、限界を超えて収束された光は、その力を開放される。
あたし達へと向かって。
光の奔流が、あたしの周りで乱舞する。だが、それは一瞬。
あやめに直撃した光は、何の効果を及ぼすこともなくあっさりと霧散していく。
そうして、霧散した光は、再びゆっくりと収束していく。あやめの方へと。
「へ?」
間抜け顔をする老人。
意味が分からないらしい。だが、さすがに腐っても神と言うことか。次の瞬間には、事態の危険性に気付いたようだ。
慌てて防壁を展開する。
だが、もう遅い。
神が放った光の奔流は、一旦散り散りにされ、そうして再度収束しているのだ。あやめの眼前で。
その光の収束具合は、先程神が放ったモノよりも、はるかに高い。
「待て!待て!マテエエエエッ!!」
当然だが、待てと言われて待つバカはいない。
再度、光の奔流が視界を覆う。先程と違うのは、流れの向き。今度の荒れ狂う光の渦は、老人へと向かって行く。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
老人の絶叫が聞こえてくる。
『鏡面障壁』
それは、あやめの持つ常時発動スキルだ。その効果は、単純。魔法攻撃・神聖攻撃を無効化し、10倍にして返すというもの。
10倍返しとか米帝様じゃあるまいし、と思わないこともない。だけど、あやめが味方である分には結構便利である。魔法攻撃をしてきた敵は、大体これだけで勝手に自滅するから、あたしはノンビリ見物できる。
と言うか、あたしにも使えたら便利なんだけど。……一々あやめと一緒に行動する必要が無くなるし。
と、そんなことを考えていると、
「きいざ、まああら、ただでぃはすまざんぞ」
老人が怨嗟の声を上げる。
どうやら、まだ死んでなかったらしい。
普通はあれで死ぬんだけど。神を名乗るだけあって、頑丈な奴だ。
あたしはあやめを盾にしたまま、老人へと近づいて行く。
「ぐの、こむぞめどもめがああああ!」
老人は息も絶え絶えだけど、威勢だけはいい。
そんな神に、あやめをグシグシと押し当てていく。
「あぎゃああああああああああああああああああああ!!」
絶叫を上げてのたうち回る神。
神の癖に『ギャアギャア』騒ぐなんて、見苦しい。もう少し、神らしい威厳とかは無いのだろうか?
「ぐぎゃああああああああああああああああ!!」
ま、しょうがないか。
あたしは、神とあやめが接触している部分を見やる。そこを起点として、神の体は腐食し砂へと変換され始めていた。
『呪われた身体』
これもまた、あやめの持つ常時発動スキルだ。
このスキルの効果は凶悪の一言に尽きる。物質、生物、悪魔に神、或は物理法則ですら、触れたもの全てを腐食させることが出来るというもの。
こんなふざけた効果なのに、あやめが普通に生活できているのは、普段はスキルの効果をオフにしているから。また、現在のあたしが無事なのは、効果対象を任意に選択できるようになっているから……らしい。
あたしは専門家でもなんでもないので、良く分からないけど。
触れたものを何でも腐食させる、等と言う理不尽なスキルを持った妹を掴む行為には、ちょっと危険な感じがする。でも、まあ、現に今のところ、あたしには危険が及んでいない訳だから放置している。
大体、この妹は素のスペックが高すぎるのだ。あやめがその気になれば、いつでもあたしを殺すことが出来る。あやめの気紛れで、あたしまで砂に変えられるかもしれない、等と言うのは無用な心配だ。
と、そんなことを考えていたら、思わず手の力が緩くなっていたのだろう。
「ぎざまらあ!がみにざからっで!だだでずみとをみってりにが!」
神の奴が、何か生意気なことを言い始めた。なので、もう少し強めにあやめに押し当てる。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
その絶叫を最後に、灰になって消え去る自称神。
神の体があったあたりには、コロンと赤い宝石のようなものが落ちる。
「ふう。悪は滅びた」
あたしはそう言って、あやめを放すと額の汗を拭く。
微かに首を傾げる妹。
その角度からすると、
『何もしなかったよね。蒼姉は』
と言いたいんだろう。
だけど、爽やかな笑顔を浮かべて、華麗にスルー。
神が落した宝石を拾うと、あやめに渡す。
不思議そうな気配を発するあやめ。
その意味は、
『蒼姉が使えば良いのに』
だ。
「いらないわよ。神を倒したのはあんただし」
それに、神核結晶なんてあたしには使い道が無い。
それどころか、神核結晶なんて持ってたら、面倒な宗教屋連中の注意を引いて、メンドイことに巻き込まれるだろう。何と言っても、そいつは、神が死んだときに落とすドロップアイテムなのだから。
宗教屋と関わるなんて、そんなの御免。
あたしはチートな妹と違って、普通の人間なのだ。
命のリスクがあるような危険なことには、首を突っ込まないようにしている。
などと考えていたら、妹が微妙に首を傾げるのが視界の端に入る。
あれは、
『あたしは危険に晒されて良いの?』
だ。
「ふははははははははは。何言ってんの。あんたに危険なんてないでしょ。チートバグキャラなのに」
また首を傾げるあやめ。
アレ?
何だろう?
へんな角度だ。
落ち込んでる訳じゃない。
それに、怒ってる風でもない……。
うーん。
何だかヤバイ感じの角度なんだけど……今一、どうヤバイのかが分からない。
うん。
こういうときは、取り敢えず謝っておくのが一番。
「ごめんごめん。さっきのは冗談だって。そんなことよりも戻ろう」
こくりと頷く妹。
そうして、あやめが軽く手を振ると、そこはもう妹の部屋。
転移魔法を使った形跡も一切ないのに、いきなり場面展開してるなんて、相変わらず無茶苦茶なチートさだ。
異世界の連中は、何で毎回あたしを異世界召喚しようとするのか?
あの神にしても、あたしじゃなくて妹にすれば良かったのに。
あやめが勇者をやるなら、魔王なんてパンチ一発で改心させられるだろう。逆に魔王をやれば、最初の1秒で人類は滅亡して魔物の天下になる筈だ。
どう考えても、人選を間違えてるんだよなあ……。
ま、いっか。
向こうには向こうの事情があるんだろう。
そんなことよりも、
「やれやれ。今回もまた、面倒な異世界召喚を神回避できたよ。ありがとね。あやめ」
、そうお礼を言っておく。多分この妹は、お礼なんてなくても気にしないだろう。だけど、それだとあたしの気分が宜しくない。
そんなあたしを見て、首を傾げるあやめ。
その心は、
『気にしなくて良い』
、だ。
……出来た妹だ。
こんなあやめなら、魔王でも勇者でも頼めば幾らでもやってくれるだろうに……。召喚者たちときたら、やっぱり人選を間違っているとしか思えない。