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Tetla;Pot  作者: 椎名乃奈
始まりと終わりのプロローグ
2/2

001


【1943年1月12日】


 アメリカ合衆国ニューヨーク州、マディソン街。


 寒々としたにび色の空の下。2000もの人間が喪服を着て、マディソン街を歩いている。目的は、皆同じであった。それは、とある一人の老人の葬儀の為であった。


「なんでも、ホテルの一室で孤独死していたんだそうだ。亡くなった翌日に、メイドさんが発見したんだとさ」

「他人とあまり関わろうとしなかったって言うしな」

「違うだろ? 周りの人間が、あまり関わろうとしなかったんだろ?」

「あれ、そうなのか? まあ、どっちにしろあと少しでも社会や人間と上手く付き合えれば、かの〝エジソン〟よりも有名になっていただろうな」

「それは違いねえな」

「かつて、天才科学者と言われても、やっぱり歳には勝てないものなんだな」


 喪服を来た中年の男性達は、そんな会話をしていた。


 同年、1月7日。86歳になる高齢の老人が、マンハッタンにあるニューヨークにあるホテルの一室でひっそりと亡くなっているのを翌朝、メイドが見つけた。86年と言う生涯を全うしたのにも拘らず、最後を看取った者は誰一人としていなかった。


 ニューヨーカー・ホテル。


「FBIだ。亡くなった老人の部屋を捜索させて欲しい」


 FBIの手帳を受け付けで掲示するその男の背後には、何人もの捜査官が段ボール箱を抱え、待機していた。


「一体、何事ですか!?」


 フロントマンは、驚きを隠せないでいた。


「我々は、生前の老人に遺品の整理を頼まれている。あまり時間が無い。とにかく、我々と共に来て貰おう」


 FBIを名乗る男はフロントマンを急かし、老人が孤独死していた部屋まで案内をさせ、その扉の鍵を開けさせた。


「協力感謝する」


 FBIを名乗る男はフロントマンへと敬礼をし、フロントマンを持ち場へと帰す。部下と思われる捜査官達は、ダンボールを抱えたまま、部屋の中へと次々に入って行く。ただ、一人はその部屋の扉の前で待機し、何者も近づけぬよう見張りをしていた。


「手当たり次第探せ。どんな些細な情報でも構わない。第三者の手に渡らぬよう全てを持ち帰れ、良いな!!」

「はっ!!」


 その男の声に、より一層気が引き締まる。


 ちょっとしたメモから何てことの無い落書きに至るまで、その全てを段ボールの中へと押収していく。しかし、本当の目当てはそれらでは無かった。では、なぜ目的で無い物であっても押収していくのか――それは、老人の僅かな思考さえも残さぬようにしたかったからだ。


「金庫を発見しました!」

「早急に、開錠しろ」

「はっ!」


 ホテルの一室に置かれていた小さな金庫は、ダイヤル式の金庫であった。通常、ダイヤル式は決められた決められた回数を右若しくわ左に回し、決められた数字で止め、反対へと再び回すのが通常の解錠方法であった。


 しかし、あまり悠長な時間が無い彼らが取った手段は、ドリルでこじ開けると言う強引な方法であった。


「開きました」

「どけっ!」


 部下を押し退け、我先にと金庫の中身を確認する。金庫の中には、無数の書類が乱雑に入れられていた。その書類を手に取り、ペラペラと捲り内容を確認すると、複雑な数式や図面が描かれているは、理解出来る。しかし、それを理解することが出来ない。


「これが、噂のレポート……か」


 この書類を手に入れることこそが、FBIの本当の目的であった。金庫に入れられていた書類だけを他の押収品と区別しやすくするために、茶封筒へと入れ替える。


「あの、聞いても宜しいでしょうか?」


 若い捜査官が問い掛ける。


「何だ?」

「ここまで大掛かりな捜査が必要だったのでしょうか?」

「お前みたいな若い奴には、これの価値は分からんだろうな」


 男は、茶封筒を見遣りながら言う。


「価値……ですか? その書類には、そんな重要なことが書かれているのですか?」

「重要な書類であることには違いない。だが、正確には違う。この書類を書いた人物が死んでしまったからこそ、この書類に必要以上の価値が生まれた」

「その書類を書いた人物とは、一体……?」

「そうだな。一言で言うなら――エジソンを超えた天才だ」


 ▶ ▶ ▶


 一方、教会堂では亡くなった老人の知人男性により、弔辞が述べられていた。


「――あなたは言わば、先駆者とも言うべき存在でした。あなたを失ったことは、誠に惜しまれ、そして、余りある痛恨の極みです。あなたの残された輝かしい功績の数々は、永久に我々の知恵として語られることでしょう」


 その時のことだった。


「な、なんだ、あれは……」


 葬儀の参列者がざわつき始める。弔辞を読んでいた男性も、その光景を目の当たりにしてか、弔辞を読む口が思わず止まる。そして、しばし息を飲みその光景を見守っていた。


「神に、祝福されている……のか?」


 誰かが、思わずそう口にしていた。


 それは、太陽光が天窓を貫いて老人の棺をまるで包み込むかのように、指し込んでいたのだ。まるで、神から天国へと受け入れられているかのように。


 この老人の名を――ニコラ・テスラと言う。


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