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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
5章 - 《忙しき日々に新たなり》

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95. 評価

 地下二階に降りてから結構な戦闘数をこなしたが、やはり昨日に比べると今日の探索はかなりの速度で進めることができた。ユウジとスコーネさんというレベルの高い二人が居ることもあり、元々近接戦に限れば敵を圧倒できる実力がこちらにはある。

 例外は物理耐性が高くHPも極めて多い〝動く甲冑〟ことホロウぐらいのものだが、それとて倒すのに時間が掛かるだけでユウジ達であれば苦戦するようなこともない。スコーネさんやナナキに《炎纏》でも掛けておけば、手数多く繰り出される攻撃に逐一追加される魔法ダメージにより、そのタフなHPも削り落としていくことは充分可能だった。

 シグレとユーリ、シノの三人は敵の後衛を排除して、前衛が目の前に集中でき戦いやすい状況を作り出すだけで良い。《衝撃波》や《霊撃》といった無詠唱で行使でき、弾き飛ばすことにより相手の詠唱を中断させることが容易なシグレとユーリ。そして詠唱の隙を晒した相手を、1体ずつではあるものの確実に闇討ちで葬り去っていくシノ。後衛戦は後衛戦で、相手を制することが可能なだけの充分なものが揃っていた。

 人数が多いことの有利性は大きく、数多くの魔物と同時に対峙しても安定して戦闘を進めることができる。唯一困ったことと言えば、付与魔術である《理力付与》や《小活力》、そして消費の大きい《炎纏》などを多数の味方に小まめに掛け直して維持しなければならないため、シグレもユーリもMP管理が非常に大変なことぐらいだろうか。

 レベルの差と装備の恩恵によりシグレのほうがMPの回復は早いのだが、反面大火力スペルである《業火》で大きくMPを消費する機会も有るため、楽というわけでもない。最大MPに対する現在MPの割合を示すバーは目まぐるしく乱高下を繰り返し、初めてシグレはより高いMP回復力が欲しいと痛感することになった。

 だが、MP量と各スペルの再使用時間を綿密に監視しつつ、かつ戦況を常に把握して適切なスペルを行使する―――そうした全体を見渡した上で行動できる後衛ならではの戦い方というものは、忙しなく頭を働かせる必要があるものの、同時に楽しく遣り甲斐があるものでもあった。


「済まないな、シグレ達に面倒ばかり押しつけちまって」

「いえ、好きでやっていますから」


 だからユウジの言葉にそう応えるのも、正直な気持ちからだ。


「寧ろ、こちらこそすみません。痛い思いを前衛にばかりさせてしまって」

「それこそ、私達が好きでやってることだからねえ」


 シグレの言葉に、こちらは《庇護》のスキルでシグレやユーリを常に護ってくれているカエデが応えた。

 各々が担うべき事こそ違っても、前衛と後衛が互いに助け合っているという図式は結局の所間違い無いのだ。シグレやユーリのような術師のみであれば、何体かの前衛が同時に押しかけてくればそれだけで耐えようがないし、逆にユウジやスコーネさんのようなレベルの高い前衛ばかりであったとしても、適切に術師を交えた魔物の集団と当たれば苦戦は免れ得ないだろう。


「シグレ様、宝箱に取り掛かりましょう」

「ん、そうだね。了解」


 八咫が地図に宝箱の位置も記してくれるため、探索ついでに回収していくことも忘れない。天恵のひとつに〈盗賊〉を取得しているシノと共に大部屋の脇に設置されている二個の宝箱の傍に寄り、その仕掛けを丁寧に改めていく。

 〈斥候〉の天恵はユーリとナナキも有しているため、宝箱の罠を解除できる面子は7人中4人も居たりするのだが。ナナキは《庇護》でシノを護っているため、罠の解除に参加するとシノの分と二重でダメージを負うことになってしまう。ユーリもまた《庇護》でカエデに護られている都合上、同じくカエデに護られているシグレと共に参加しては二重で被害を押しつけてしまう。そのことから、宝箱に近寄って対処に当たるのは自然とシグレとシノの二人の役割になっていた。

 やはり宝箱の解錠や罠解除は〈盗賊〉の本分であるからだろう、シグレのそれに比べるとシノはより細かく緻密にその構造を探り当てることができ、主だった作業は任せてシグレは彼女のサポート役に回る。

 元々手先が器用で、丁寧な作業が持ち味のシノの性分とも合っているのか、シグレよりもずっと安定した手つきで彼女は仕掛けを解いていく。地下二階に降りてから既に10個以上の宝箱を開封しているにも拘わらず、罠を発動させてしまったのはただの一度きりで、罠解除の成功率は実に9割を超えていた。


「シグレ様、こちらを」

「ありがとう、シノ」


 今回も問題無く宝箱は開封され、シノが中に入っていた〝封印された秘術書〟を手渡してくれる。秘術書は〈秘術師〉専用のアイテムであるため、手に入った分はシグレとユーリが貰って構わないということで全員の同意を得ていた。

 秘術書は宝箱からそれなりに出やすいアイテムである上、術師系の魔物を倒せばドロップとして得られることも少なくない。レイス・マジシャンとハッグ、術師系の魔物が2種類存在する〈ペルテバル地下宮殿〉はそういった意味でも秘術書を獲得しやすく、籠っているだけでスペルの選択幅が拡がるのは有難いことだった。


「良い仕事をするな、君は」

「シグレ様のメイドたるもの、このぐらい当然です」


 安全が確保された報を受けて、仲間達が全員宝箱の傍に集まってくる。一仕事を終えたシノにスコーネさんがそう声を掛けると、シノは即座にそんな風に答えて見せたりもした。

 自分とは違いシノは苦手なことが無いというぐらい何でもできるタイプなので、彼女が自分を立ててくれるのは嬉しくもあるが、シグレとしては同時に彼女の主人としては自分が色々と足りていないなあとも実感するばかりであった。


「ところで、こちらはスコーネ様に縁ある品ではありませんか?」

「ふむ? 指輪のようだが―――なるほど、うちの家紋が入っているな」


 透明度の高いリーフグリーンの色味を湛えた、淡い輝きを放つ宝石が飾られた指輪。その台座には、確かにスコーネさんに纏わる家紋―――即ち、旧王家の紋章が刻まれているようだ。

 精巧な紋様で、台座という狭い領域にかなり小さく刻まれているにも拘わらず、一瞬でそれに気付いたシノの観察力には驚かされるばかりだ。


「何かしらの品が手に入るかもしれないと、多少期待している面もあったが。宮殿自体から手に入るのではなく、よもや宝箱から見つかるとは……」


 溜息混じりにそう告げるスコーネさんの言葉に、シグレもまた内心で頷かずには居られなかった。

 この世界に於ける〈迷宮地〉の宝箱というのは、一体どこから中身が紛れ込んでいるのだろう。


「とはいえ、由緒ある品かもしれん。こちらは私が頂いても良いかね?」


 スコーネさんが指輪の所有を求めるのは、妥当であり当然のことだろう。

 しかしアイテム自体への執着こそ無いけれど、その言葉にシグレもすぐに頷くわけにはいかなかった。


「……すみません。地下宮殿に入る許可を頂く際に、司教の方とひとつ約束を交わしておりまして。旧王家の遺品と思われる品を発見した場合は、届けることになっているのです」

「ああ―――なるほど、そういう事情ならライズに渡して貰って構わない。その上で私は、ライズから受け取ることにしよう」


 名前を知っていることから察するに、スコーネさんにライズさんと既に面識があることが窺える。そうして貰えるなら、シグレとしても義理を通せるので有難かった。


「これひとつ発見できただけでも、今日君に同行させて貰った甲斐があったというものだ。ありがとう、近いうちに礼をしなければな」

「スコーネさんに手伝って頂いたお陰で、大変に助かっていますから。礼をする必要があるとするなら、寧ろこちらのほうだと思うのですが」

「そうかね? 力になれているなら嬉しいが」


 実際、他の皆よりレベルが飛び抜けて高い、ユウジと同格の強さを持つスコーネさんが協力していることで、地下二階の中央の部屋ももうそれほど遠くはない。

 宝箱の配置されている部屋が思ったよりも多かったこともあり、寄り道でかなり時間を食ってしまったが。今日の内に辿り着けるかは微妙かもしれないが、問題無く探索を進められれば遅くとも明日には到着することが可能だろう。


「忙しい日もあるが、暇をしている日もある。私で良ければ、君の探索などに時折混ぜて貰っても構わないかね? こうして実戦の中で身体を動かさねば、少しずつ衰えていくような気がしてな」

「願ってもないことです、自分たちでも宜しいようでしたら是非」

「有難い。では、そういう時には念話で連絡を入れることにしよう」


 偶にでも参加して貰えるなら、こちらこそ有難い限りだ。スコーネさんが差し出してきた手を、シグレはすぐに握り返す。それは力強く、洗練された戦士の手だった。


「探索のことといい、家のことといい。君とは何かと付き合いが長くなりそうだ」

「付き合うだけの価値が、自分にあればいいのですが」

「これでも人を見る目はあるほうだと自負しているが?」


 妹のナナキといい、シノといい。シグレの回りには矢鱈と過剰評価をしたがる人達が、少しばかり多すぎるような気がするが。

 自分などを少しでも評価頂けるのであれば。寄せられるその信頼に、なるべく裏切らないで済む自分で在るよう努力し続けたいものだ。

お読み下さり、ありがとうございました。


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文字数(空白・改行含む):3851字

文字数(空白・改行含まない):3742字

行数:78

400字詰め原稿用紙:約10枚

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