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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
4章 - 《涼を求めて》

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71. 連繋の指輪

「へえ、大聖堂の地下に〈迷宮地〉かあ……。いいねいいね、私も行ってみたい」


 閑散としている店内にカエデが増えたことで、実に客の半数以上が身内ばかりになってしまった『バンガード』の中で。〈ペルテバル地下宮殿〉に関する一通りの話を聞き終わったカエデは、そう漏らしてみせた。


「やっぱり、カエデも〈ペルテバル地下宮殿〉のことはご存じ無かったですか?」

「うん、全然知らなかった。まさか王宮と大聖堂の地下に、なんてねえ……」

「灯台もと暗し、とはこういうのを言うのかもしれんな」

「あ、その賞品のリスト見たい。見せて見せて」


 カエデにせがまれて、〈インベントリ〉から取り出して渡すと。

 テーブルの上に広げた報奨品のリストを、カエデと同様に興味があるのだろう、ユウジもまた横から乗り出すように読み入ってみせた。


「……思ったよりも、良いものがあるな」

「だよね。この辺の回復率上がるアクセとか欲しい」

「うむ、前衛としては価値が高いよな」


 機動性を重視した戦い方を好み、革鎧などといった軽装の防具を愛用するカエデではあるけれど。前衛の盾役を担うのに最も適した〈騎士〉の天恵を有する彼女にとって、もともと本来のスタンスは〈重戦士〉であるユウジと近いものがあるのだろう。

 ユウジがひとつひとつリストを検分していくのに合わせて、ユウジに近い目線でカエデも前衛同士ならではのコメントを返しているようだ。


「シグレは何か、リストの中に欲しいのあったの?」

「ありますね。〝連繋の指輪〟という、一対のリングなのですが」

「連繋の指輪……。んー、リストのどの辺?」

「あ、最後のほうですね。貢献度が結構沢山必要になるものなので」


 連繋の指輪を報奨として得るための必要貢献度は、一対分の2個で4,000。

 もし〈ペルテバル地下宮殿〉の地下1階だけで貯めるとするなら、実に魔物を4,000体も倒さなければならないことになる。

 容易でないことは想像に難くないが。……けれど、無理ということもないとシグレは考えていた。今朝の経験から、ソロで狩りをすることも不可能でないと思えるだけの手応えがあったからだ。時間だけはたっぷりとあるわけだし、毎日のように通っていれば決して無理なハードルでも無いだろう。

 無論、その為にもレイスを相手にソロで勝てるようになることは、絶対に必要な条件であると言ってもいい。


「なるほど、ペアリングなんだ。対になる指輪の装備者同士で、互いのHPとMPを繋いじゃう常時効果がある、と」

「……それって、シグレと組んだ相手は、MPが殆ど使い放題にならんか?」

「確かに、それも面白そうではあるのですが……。どちらかといえば自分にとって魅力的に思えるのは、副効果のほうでしょうか」


 〝連繋の指輪〟の主な効果は2つ。

 1つは、互いのHPとMPを繋ぎ合わせてしまうこと。装着者同士のHPは合算され、一緒のものとして扱われる。合算後のHPが1以上ある限りは二人とも戦闘不能にはならないし、これが0以下になった場合は二人同時に戦闘不能状態へと陥ることになる。

 また、MPも繋ぎ合わせてしまうため、最大MPやMP回復力に乏しい側は、対になる装着者のMPを有効的に利用することができるようになる。ユウジの指摘通り、MP回復力だけは馬鹿みたいに高いシグレと組んだ相手は、かなりMPを潤沢に利用できるようになるだろう。

 そしてもう1つ、副効果として。指輪の装着者のうち、ひとりでも〝羽持ち〟であるならば、もう片方の装着者に羽持ち特有の〝自動復活〟の恩恵を与えることができる。―――つまり、羽持ちではない同行者を、死から確実に守ることができるのだ。

 但し、メリットばかりではない。〝連繋の指輪〟はHPを共有化する関係上、敵から受けた攻撃によって生じる〝痛み〟さえも共有化してしまう。痛みだけであり、ダメージが二重で掛かるようになったりするわけではないが、突如生じた痛覚などにより詠唱が中断されたりする可能性があるらしい。

 また、こちらはメリットともデメリットともなり得るが、多くの能力上昇などのバフ効果、あるいは能力低下などのデバフ効果、それから状態異常なども共有されるようになってしまう。毒や麻痺などを与える攻撃を有する魔物からは、二重で被害を受ける可能性が生じるためリスクがより高まってしまうことになる。


「……良いことばかりある物じゃないんだねえ」

「だが、NPCを死から護れるというのは良いな。NPCの冒険者と組む機会というのは結構あるが、やはりどこか無理はさせられないと思ってしまうからな……」


 ―――そう、無理はさせられないのだ。

 もう二度と誰かを死の危険に遭わせてしまうことなど、あってはならない。


「この指輪は、やっぱりカグヤに?」

「そう考えています。彼女には色々と世話になっていますから。……とはいえ物が物ですから、あくまで断られなければ、ですが」

「あー……。指輪だもんね」


 純粋に、その効果目的でプレゼントしたいものではあるのだが。

 男から渡される指輪。それも双対になったペアリングであるとなれば、女性にはなかなか容易に受け取れない物であることもまた間違い無いだろう。

 カグヤを死の危険に遭わせたくないというのは、何ら彼女の同意を得たことではなく、言うなればシグレのただの我儘である。贈った所で断られる可能性もまた、充分にあると思われた。


「ま、そういうことなら協力するぞ? 俺もざっと見た感じ、あれば嬉しいアイテムというのはリストの中に幾つもあったからな。さっきも言ったが、魔法に長けるシグレが同行してくれれば心強いし、潜るなら毎日でも付き合うぜ?」

「もちろん私も付き合うよ? カグヤは私の友達でもあるから、護りたい気持ちはシグレと同じだけあるしね。……それに、夏場はあんまり街から遠い所に行きたくない。最近、狩りを終えた後なんかは、革鎧の中が汗で蒸れるようになってきちゃってさあ……」

「……正直、それは俺もある。陽射しの強い日はそれだけで、金属鎧というのは正直キツい。なるべくなら手頃な近場で済ませたいんだよなあ」

「ありがとうございます。暫くは足繁く通うと思いますから、是非都合が良い時は同行して頂けると嬉しいです」


 二人の嬉しい言葉に感謝し、シグレは頭を下げる。

 そうすると、左脇側からくいっと袖を引っ張られる感触があって。隣のユーリを見ると、彼女もまた優しい表情で微笑み掛けてくれた。


「……もちろん、私も手伝う」

「ありがとうございます、ユーリ」


 テーブルの脇で、ただ静かに頷いてみせることで応えてくれる黒鉄も含め、皆の優しさがとても有難く、嬉しい。

 ソロで通うことを当然のように覚悟していたシグレではあったけれど、どうやらその機会は案外少ないものになりそうだった。


「なんなら早速行くか? まだ昼だし、午後の予定が無ければだが」

「……う。午後は私、ちょっと先約があるんだよねえ」

「すみません。自分も今日の午後はちょっと、秘術師ギルドという所に行ってみたいと思っていますので。都合が空いていれば、明日からにしませんか?」


 〈ペルテバル地下宮殿〉の鬼門である、レイス・ウォリアー。

 ユウジの言葉通り、魔物のスキルによって対処されたのであれば。通用しない類のスペルは、何度用いてもレイス・ウォリアー相手では掻き消されてしまうだろう。

 しかし、レイスは霊体であるから物理攻撃はおそらく通用しない。例えユウジとカエデという頼もしい前衛が同行してくれるとしても、それにダメージを与えて倒す役割は、シグレとユーリだけで為さなければならないのだ。

 それを考えると〈ペルテバル地下宮殿〉の再探索に挑戦する前に、いちど秘術師ギルドを訪ねることでスペルのバリエーションを増やすことは優先度が高いように思えるのだ。

 以前ユーリから聞いた話に拠れば、秘術師ギルドに最初に登録する際には、多少の登録料を支払う代わりに〝封印された秘術書〟というのを4冊貰うことが出来る筈で。これを読み解くことで〈秘術師〉のスペルを身につけることができるという話だった。

 また、それとは別に〈ゴブリンの巣〉から獲得したことで、シグレは〝封印された秘術書〟を既に3冊有している。〝封印された秘術書〟の中からどんなスペルが得られるかは、実際に封印を読み解くまで判らないらしいが。合計7冊もあれば、今回の探索に有用なスペルも1つぐらいは期待できそうな気がする。


「俺は大丈夫だ。当面は用らしい用も入っていないしな。カエデは?」

「私も、明日ならオッケー。朝でも午後でもいいよ?」

「でしたら、朝から行きましょうか。……どうせ朝が一番暇ですよね?」

「はは、違いない。朝6時に必ず目が覚めるが、少し持て余してしまうしな」


 冒険者ギルドを初めとした主要施設を利用したり、街の外へ魔物を狩りにいくのであれば早朝の内からでも全く問題無いのだが。街中の大半の店などは、やはり朝9時や10時頃にならなければ開店しない。

 そのため、仕様として6時ちょうどに目が覚めてしまう割には、それから街が起き出すまでの時間までの間には、できることが案外限られてしまうのである。


「―――あ。ただ、大聖堂の司教であるライズさんから地下宮殿の進入許可を貰うのであれば。朝方は留守にしていることが多いらしいですから、許可を貰うのだけは今日のうちにやっておいたほうがいいかもしれません。時間は殆ど掛からないと思いますから」


 一応、進入許可をひとりでも有していれば、パーティ全員が入れるらしいが。

 カエデにしてもユウジにしても、それぞれ目的の報奨品があり、その貢献度目標を達成するまでは通うことになるのだろうから。ちゃんと正式に許可を貰っておくのに越したことは無いだろう。


「ん、判った。じゃあ夕方頃に、いちど行ってみよっかな」

「俺はどうせ暇だし、これから行ってみるとしよう。どうせならついでにソロ狩りを……と行きたい所なんだが。シグレの話を聞く限りじゃ、近接職のソロは絶望的なんだろうなあ」

「そうですね……。レイス対策が無いと、難しいと思います」


 純銀で作った武器が、本格的に通用するようであれば話は変わってくるだろうけれど、それを期待するにはまず黒鉄用の武器を作ってみなければ始まらない。


(さすがに明日では、黒鉄の武器は間に合わないだろうな……)


 今夜、風呂の際に話を詰めることになっているぐらいなのだから、さすがに無理があるだろう。

 明日の狩りでは、カエデが居るから《威嚇》でレイス・ウォリアーのタゲは取って貰えるだろうし、狩りにシグレが攻撃されたとしてもそのダメージは〈騎士〉であるカエデに引き受けて貰うことができる。

 二人の前衛に護られた安全の中で、まず自分のスペルの何が通用し、何が通用しないのか―――。今後、レイスと対峙しても問題無く対処できるよう、それをしっかりと検証する所から始めたい所だ。

お読み下さり、ありがとうございました。


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文字数(空白・改行含まない):4391字

行数:103

400字詰め原稿用紙:約11枚

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