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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
4章 - 《涼を求めて》

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67. 銀の懐剣

 スケルトン・ウォリアーのうち1体を倒してしまえば、残るは《捕縛》のスペルで既に動きを封じているもう1体のみ。《捕縛》の効果はおよそ10秒程度、長くとも15秒程度しか持たないが、それでも秒単位でスペルの数々を発動可能なシグレからすれば充分な効果時間である。

 《眠りの霧》によって引き起こす睡眠とは異なり、攻撃の手を加えても拘束が解ける心配が無いのも良い。《衝撃波》と《霊撃》を連射して骸骨だけの軽い身体を部屋の壁際にまで弾き飛ばした後、再使用が可能になった《破魔矢》のスペルを打ち込むことで、あっさりともう1体のスケルトンも光の粒子へと変えることができた。


「種族が銀術師だからなのか、やっぱり《捕縛》は信頼性が高いなあ……」


 聖職者のスペルスロットを増やすのも悪くは無いのだが。種族的な補正が働くことで銀術師のスペルを最も有効に使いこなす事ができるのであれば、まずは銀術師のスペルを充実化させることに注力したほうがいいのかもしれないとも思わなくもない。

 とはいえ、時間だけはたっぷり有るのだ。別に効率的な最善手段を追い求める必要も、無いと言えば全く無い訳なのだけれど。


『種族による影響もあるのかもしれんが、今回は他の理由もあるかもしれん』

「黒鉄。ごめん、ゾンビドッグのほうは任せてしまって」

『無事倒したし、あの程度の相手であれば問題無い。体格的にも我の方が勝っているし、主人から治癒の支援まで受ければ負ける方が難しいというものだ。……ただ、屍肉に牙を立てるのだけは、あまり気持ちの良い物では無いが……』


 噛み付くことは魔犬である黒鉄の主要な攻撃方法であるから、ある程度仕方が無い所ではあるのだろうけれど。確かに……腐った肉に噛み付くというのは、嫌なものだろうなとシグレにも思えた。


「……それで、他の理由って?」

『アンデッドや悪魔系ような不浄な魔物を狩る際に、特別に〝銀〟で誂えた武器というのは有用だと聞いたことがある。銀には魔を払う効果があるとか……確か、そんな話だったか」

「なるほどねえ……」


 銀は柔らかい金属であるから、武器の材料とするのにあまり適しているようには思えないし、金ほど高価ではないにしても、一応貴金属なのだから鉄などを材料にするのに比べれば随分と高く付くのも間違い無い。それなのに敢えて武器の材料とするとなれば、見合うだけの何かしらの付加効果といった価値があるということなのだろう。

 それなら確かに、銀のロープで相手を絡め取る《捕縛》が、スケルトン・ウォリアーをあっさり封じ込めてしまったのにも、多少の影響があるのかもしれないと思えた。アンデッド相手に《眠りの霧》や《目眩まし》のようなスペルはあまり効果が無さそうに思えるし、ここ〈ペルテバル地下宮殿〉では相手を無力化する主力として使っていくのが良さそうだ。


『この部屋から、3方に道が分かれているようだが……』

『……どの方向にも魔物の反応はあるね。少し待って』


 正方形に近い小部屋の四方からは、どちらへも廊下が続いている。一方はシグレ達がいま来た道だから、新しい未知は三方。そのいずれの方向にも、然程遠くない距離に複数体ずつ魔物の反応があった。さすがは魔物が増えているだけのことはある。

 《気配探知》で捉えることができる範囲内であれば、《千里眼》で視界を飛ばして確認することができる。左側の廊下の向こうは大部屋になっているようで、部屋の中に10体を超えようかという骸骨戦士達が詰めていた。先程のものと同じ剣と盾を携えている者も居れば、矢筒を背負い長弓を携えている者も居る。数だけでも相手にするのは憚られるというのに、遠距離攻撃手段まで備わっている魔物達を相手にしたいとは思えなかった。

 正面の廊下の先は、再び小部屋になっていてゾンビドッグが4体。黒鉄と戦っている様子を見る感じでは、屍肉の割になかなか素早く動く魔物であったので、4体を同時に相手をするのは少し厳しいかもしれない。

 最後の、右側の廊下の先には―――。


「……あれが、レイスか」


 《千里眼》で視界を飛ばした先、革鎧を身につけて両手剣を持つ戦士と、長い杖を携えたローブに身を包む魔術師と思わしき魔物が2体並んでいる。ともすれば冒険者ではないか―――と見間違いそうになるぐらい、シルエットだけで言えば冒険者ギルドにそのまま居てもおかしくない風貌ではあるのだが。

 しかし2体の魔物はどちらも、一目見てはっきりと魔物と判るだけの特徴を備えている。手も、足も、頭も。武器も防具も、あらゆるものが総て(うっす)らとしか見確かめることができず、その姿には半分ほど背景が透けて見える。―――つまり、半透明なのだ。


『右側の先には、レイスが2体居るみたいだけれど』

『……我は殆ど戦力外になるな。我の牙も身体も、亡霊系の魔物にはおそらく通用するまいよ。せいぜい目の前で機敏に動いて、攪乱するぐらいか』

『だよねえ……』


 《魔物鑑定》に拠れば、魔物の名前はレイス・ウォリアーとレイス・マジシャン。レベルはどちらも6と、地下1階の魔物では最も高い部類に当たる。ライズさんから話を聞いた時には〝レイス〟という単一種類の魔物なのかと思っていたが、どうやらゴブリンやスケルトンなどと同じように、役割に応じて個別化される魔物であるようだ。

 ライズさんの説明に拠れば、攻撃スペルは通用するという話だったろうか。だが、普段から黒鉄に助けられている部分が多いシグレからすれば、黒鉄を攻撃の戦力として扱えないというのは大変厳しいことであるように思えた。

 先程、黒鉄の話に出たように……もしかすると、銀製の武器であれば通用するのかもしれないが。噛み付きが主な攻撃手段である黒鉄の牙を、まさか銀と交換できるわけもないだろうし。


「……ん?」


 別に、攻撃手段を牙に頼る必要は無いのか。

 噛み付きが黒鉄にとって最もやりやすく強力な攻撃手段と言うだけであって、別のやや扱いにくい手段であっても、それ以外に手が無ければ黒鉄は使うことを躊躇わないだろう。

 昔―――病室で見たテレビ番組で、どこかの〝忍者村〟のようなテーマパークの特集を見たとき。そこで飼われている犬たちが〝忍犬〟という体で頭巾を被らされ、背中に脇差ほどのサイズの刀を背負わされている()を見たことがある。もちろんそれは玩具の刀であるだろうし、実際には使えるはずもないのだが。

 黒鉄であれば、あるいは―――?


『黒鉄。例えば、この場に銀製の武器があったら、使える?』

『……む? そうだな、銀の武器が霊体の魔物に通用するかは、実際に試してみねば判らぬ所ではあるが……。都合良く銀の武器があれば、他に手も思い浮かばぬし、咥えてでも扱ってみるだろうな』

『なら、試しにやるだけはやってみようか―――』


 有用なスペル《捕縛》を有する戦闘職の天恵である〈銀術師〉には、銀を加工するためのスペルもあるようで、シグレはそれをゲーム開始時から有していた。

 その名も《銀加工》と直球の名前をしたスペルで、効果を持続させてMPを払い続けている間は、術者の〝意識〟する通りに銀を加工できるという何とも便利なスペルである。〈鍛冶職人〉には役に立つだろうと思いつつも、今まで本格的にこのスペルを活用したことはなく、専ら部屋で暇つぶしをする際に〝10ギータ銀貨〟を加工して玩ぶことにしか使ったことがないスペルではあるのだが。

 ―――そう、材料となる〝銀〟なら有るのだ。幸い、当座の生活費には困っていないのだから、多少の銀貨を犠牲にすることぐらいなら然したる問題でもない。

 シグレが〈インベントリ〉から200gitaを、試しに(全部1ギータ銀貨で)と意識しながら取り出してみると。果たして、シグレの右手の手のひら一杯に乗るほどの、沢山の1ギータ銀貨を取り出すことができた。

 纏まった重さを感じる量ではあるが、武器の材料とするにはまだまだ心許ない。膝を付き、取り出した小銭を地面に於いてから。あと800gita分の1ギータ銀貨を取り出し、地面にちょっとした出っ張りを作るほどの小銭の山を形成する。


「遍く銀よ。常に我の望む儘たれ―――《銀加工》」


 これがもし現実世界であれば、貨幣損傷等取締法で問題になったりするんだろうなとも思ったりしながら。短い詠唱と共に《銀加工》のスペルを行使し、まずはその沢山の1ギータ銀貨を一塊の銀へと変えてゆく。

 普段手遊びに用いている10ギータ銀貨に比べると、1ギータ銀貨は不純物が多く、銀の含有量が悪い為に《銀加工》のスペルでは加工しづらい。それでも工芸品を作ろうというわけでなし、不格好な武器を誂えるぐらいならば充分だった。

 拙いながらも、何とか懐剣程度のサイズで刀剣の形状を整える。柄の部分までもが銀で出来上がってしまったので、このまま金属の柄を歯で直接噛み締めて扱うのは黒鉄も嫌だろう。シグレは〈インベントリ〉から中身が入っていない水袋をひとつ取り出し、口を閉める部分に使われている革紐を抜き取り、柄の部分へ水袋をそのまま被せて革紐できつく縛ってみた。


『どう、かな? 使えそう?』

『……うむ。あり合わせにしては良い出来だ。試しに使ってみるには充分だろう』


 シグレが渡した懐剣を黒鉄は試しに口に咥えてみたあと、満足げに頷いた。

 もしこの武器がレイスに対して有用であれば、改めてカグヤに注文し、ちゃんとした一品を誂えるのが良いだろう。


『両手剣を持ったレイスと、杖を持った魔術師風のレイスが居る。怖いのは魔術師のほうだと思うから、何とかスペルを撃たせないように頼んでもいい? 戦士を上手く無力化できたら、自分も魔術師の殲滅を手伝うから』

『了解した。慣れぬ武器で致命傷を負わせるのは難しいだろうが……。主人を狙ってスペルを行使させないよう、相手の気を引きつけるぐらいなら出来よう』


 なんとも頼もしい黒鉄の言葉に、シグレは頷く。

 何事も経験だ。銀の武器が効くのかどうかも含めて、実際に戦ってみなければ判らない部分というのは多い。今後もこの〈迷宮地〉と付き合うためには、いつ対峙しても恐れることなく対処できるよう、自分たちなりの攻略法を確立しなければならない。

お読み下さり、ありがとうございました。


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文字数(空白・改行含む):4218字

文字数(空白・改行含まない):4108字

行数:76

400字詰め原稿用紙:約11枚

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