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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《創り手の快楽》

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48. 添加

『ユーリ』


 然程遠くない席で、何かの錬金作業を行っているユーリに。一段落ついたのか、作業の合間で一息入れた彼女に、シグレは念話で話しかける。凄い集中力であるようで、話しかける瞬間までユーリは完全に没頭していたように見受けられた。


『あ……ごめんなさい、いまそっちへ』

『いえ、どうぞゆっくりで構いませんので』


 工房内が混雑しているわけでもなし。片付けは後で良いと判断したのだろう、ユーリはすぐに休憩スペースのシグレのほうへと歩いてくる。

 ユーリの手には、ひとつの小さなビーカーが携えられている。なんだろう、と疑問に思ったシグレの目の前の机に、ユーリはそのビーカーをコトンと置いた。何か……僅かに朱色が混ざった、透明度の高い結構な量の液体が、なみなみと入っているようだ。


『……疑問に思うなら、まず〝見て〟みるのがいい』

『判りました』


 ユーリに促されて、シグレはすぐにその正体を〝見て〟見る。



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 混合ゼル/品質60


  錬金特性が引き出された素材の混合物。

  エピレフが10個、コナミントが10個混ざっている。

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『エピレフと、コナミントですか』

『そう。……コナミントは、今日採取した?』

『ええ、カグヤに教えて貰って、少しだけですが採取しました。おそらく20個も無いぐらいだと思いますが……』

『それだけの数があれば、案外できることは多い。……写本のスペルは修得できたのね。おめでとう』

『ありがとうございます』


 フレンドであれば、相手のステータスを自由に見ることができる。

 シグレの〈秘術師〉としてのステータスを見れば、《固定化》のスペルが無事に修得できたことは一目瞭然だろう。


『……もう、使った?』

『ええ。先程、初めて作ったベリーポーションに使ってみました』

『見せて』


 端的な言葉でユーリに促されて、〈インベントリ〉から取り出す。

 その効果を見て、ユーリも『うん』と頷いた。


『ちゃんと品質の固定化ができている。……便利なスペルでしょう?』

『ええ、とても。ユーリが今の自分に〝大変有益な秘術書〟とまで言った理由が、よく理解できました』

『……ん、自分でもちゃんと判ってるみたいだけど、一応。ベリーポーションは、品質が自然に落ちてしまう欠点を持つからその価値が低いのであって、回復量自体は決して少ないものではない。寧ろ、日持ちする下手な下級のポーションよりもずっと高かったりする。HP回復量が120を超えるのが、中級のポーションのひとつの目安とされているから、このシグレの作った回復量〝91〟のポーションは、下の上ぐらいにはなる』

『なるほど……』


 回復量120がひとつの目安、か。

 シグレが作ったベリーポーション。その品質と回復量は、実は製作を終えた段階では『品質62=回復量93』であった。これが写本を読んだりして時間を過ごしているうちに、品質値が1低下してしまったことで、固定化した時点では『品質61=回復量91』になっている。

 つまり推測ではあるが、ベリーポーションの回復量は品質の150%相当である可能性が高い。だとするなら、品質を80で作れれば、回復量は120に達することができるだろうか。


『……中級相当のポーションなら、市場価格は回復量の3倍から4倍にはなる。最低限の120程度しか回復しないものであっても、1本400gitaなら充分に売れると思う』

『それはまた、随分と高いですね……』


 400gitaあれば、1日生活できる。


『……とはいえ、ベリーポーションというだけで冒険者からは何かと価値が低く見られがちな部分もある。例え《固定化》してあっても、売るなら相場よりは少し安くしたほうがいい』


 先入観というものもあるだろうし、それは仕方の無いことのように思えた。

 しかし、この世界では誰もが物品の詳細を〝見る〟ことができるから、生産品の価値を伝えることが容易であるというのはいい。商品に嘘の吐けない効果説明分が無条件に付いてくるようなものである。先入観が多少価値観を歪ませることがあるだろうが、その真の価値を誰でも容易に理解してくれるのだ。


『カグヤが言っていた。……シグレは今回作ったベリーポーションを、彼女の店で売るのでしょう?』

『無事に迷惑にならないものができれば、そうさせて頂くつもりです』

『なら、売値はその辺を目安にするといい。……最初は名前を売るぐらいのつもりで、安めにしたりするのもいいかもしれない』


 商品の詳細を見れば、そこには生産者の名前も付いてくる。

 安く売っていれば自然と良い印象が持たれるし、逆をしていれば悪い印象が付くのも避けられないということか。


『判りました。色々とありがとう、ユーリ』

『……ん。シグレの為になったのなら、嬉しい。―――それじゃ、早速だけど次は〝添加〟について説明したいと思う。今度は棚から大きいビーカーを2つ取ってきて、また好きな席に座って』

『このビーカーも使うのですか?』


 シグレの目の前に置かれた、エピレフとコナミントの混合液が入ったビーカーを指しながら、ユーリに問う。


『……うん。手始めに、それを添加して貰う』

『判りました』




    ◇




 壁際の棚から大きいビーカーを2つ、先程使用した席に運ぶ。ユーリの指示に従い、片方のビーカーを錬金台の中央に固定し、もう片方のビーカーを脇に置いた。


『……さっき、川で採ってきた質の良い水があると言っていた』

『ええ、出しますか?』

『ん、脇のビーカーに出して。1袋分でいい』


 カグヤが渓流で採ってくれた、水を詰めた革袋。彼女の好意に感謝しながら、脇に置いた大きいビーカーの中にその中身を注いでいく。



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 ミヒル渓流水/品質99


  【時間経過で品質劣化|(小)】

  ミヒル渓谷を流れる谷川の水。

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 ビーカーの中身を見て、その品質を確かめる。カグヤから受け取った時点での品質は102ぐらいであったように思うから、まだそれほど下がってはいないようだ。


『……ではまず、さっきのおさらいから。今度はベリーポーションを10個纏めて作る。やり方は材料を単に10倍にすればいいだけ。取り敢えず溶かすまでやってみて』

『判りました、やってみます。間違えたことをしようとしたら教えて下さい』

『うん。その時はちゃんと止める』


 制止することを約束してくれたユーリが横で見てくれるなら、何も恐れるものはない。先程の行程を思い出しながら、まず〈インベントリ〉からヒールベリーを10個取り出し、錬金台に固定した大きいビーカーの中に詰める。

 作業台の端に左手をあてがい〝意識〟して錬金特性を引き出し、その10個のヒールベリーを溶解させていく。1個でも10個でも、同時にやる分には掛かる時間は変わらないらしく、大して掛からないうちに総てのヒールベリーが液体と化した。

 ビーカー一杯に詰め込んだ10個の果実が、随分と少ない量の液体となってしまう辺りは、質量の保存というのを考えるとどうにも違和感を覚える所ではあるのだが。その辺は、深く考えたら負けなのだろう。


『……水を加える前に、添加要素を加える。さっきシグレに渡したビーカーに、赤い線の他に青い線が入っているのが判る?』

『判ります』


 ビーカーに刻まれる青い線の目盛りは、赤い線よりもずっと細かい。


『じゃあ、そっちのビーカーも錬金台に固定して。その後に青い線の1目盛り分だけを、いまシグレがヒールベリーを溶かした大きいビーカーに移して』


 内容物を移す方法についてユーリは言及しなかったけれど、さすがにもうシグレにもそれは理解出来る。〝意識〟すればいいだけだ。

 ユーリから受け取ったビーカーを固定し、その中身から1目盛り分だけを移す。


『添加したこの液体は、同個数のエピレフとコナミントを溶かして混ぜ合わせただけのもの。シグレにも問題無く作れるはず。……私が〝あの場所〟で育てているエピレフは、シグレも自由に採ってくれていいから』

『それは有難いですが……良いのですか? 希少なものでは?』

『……大丈夫。植栽地は他にも2箇所作ったけれど、品質はともかく繁殖には成功している。量産には何の問題も無い』


 確か、渓流沿いの樹林のあの一角は、木々にまで手を入れて結構大掛かりな環境の構築を行っているように思えたが。……他にもあと2箇所も作っているとは、彼女の行動力には感嘆させられるばかりだ。

 しかし、使って良いと許可を得ても、そのエピレフがこの『添加』によりどういった効果を生むのかはシグレにも判らない。まずはこれを完成させて、実際に確かめてみる他にはなさそうだ。


『添加が終わったら、あとは例によって水で希釈する。シグレが使っている大きいビーカーは、ポーション用の小瓶10本分を、ちょうど一度に作ることができるサイズになっている。……だからビーカーに入っている赤い線も10本入っている。ビーカーの赤い線の一番高い所まで、水を入れて希釈して』

『判りました。添加したものが入った分だけ、濃度が上がることになりますね?』

『……ベース素材の濃度を下げるわけにはいかないので、どうしてもこうなる。添加物を加えすぎると、効果はともかくとしてポーション自体の濃度や粘度が増しがちになるから、物理的に飲みづらくなったりもする。……覚えておくといいかも』

『なるほど、勉強になります』


 最初に作ったときには気付かなかったのだが、この水を加える希釈作業を行った時点で、ゆっくりとビーカーの中で内容物が勝手に渦を巻くように動き始めたのが見える。

 どうやら、この錬金台というものは攪拌まで自動で行ってくれるらしい。……本当に便利にできているな、これは。

 ビーカーの最も高い赤いラインまで水を注ぐ。自動攪拌が収まるのを待ち、ビーカーの中身のラインが正しく赤いラインよりも上に達していることを再確認する。

 〈インベントリ〉からポーション用の小瓶を10本取り出し、錬金台の上に総てを立てた状態で並べてから。まずは1本だけ、大きいビーカーから中身を移して小瓶を充填させた。


『……あはっ』


 シグレの傍に立つユーリから、不意に小さな声が漏れ聞こえた。


『ユーリ? どうしました?』

『あ、ごめんなさい。完全に初心者の作るような物じゃなくなってるな、って思っちゃって、つい。……ま、犯人は私なんだけどね』


 くすくすと、おかしそうに笑い続けるユーリ。

 彼女のその言葉の意味が、シグレには全く判らなかったのだけれど。



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 ベリーポーション(1個)/品質94


  【時間経過で品質劣化|(特大)】

  ヒールベリーを主要素材として作成した霊薬。

  飲用することで352程度のHPを回復する。

  錬金術師〝シグレ〟の製作品。

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 けれど、完成品を〝見た〟瞬間に。

 ―――ああ、と。その異常性は、シグレにも瞬時に理解できてしまった。

お読み下さりありがとうございました。


出張中の為、21日の夜まで留守にします。

感想・メッセージの返信や誤字修正などは帰宅後になるかもしれませんが、何卒ご容赦頂けましたら幸いです。


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文字数(空白・改行含む):4824字

文字数(空白・改行含まない):4605字

行数:158

400字詰め原稿用紙:約12枚

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