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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
2章 - 《冒険者の日々》

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28. 〈迷宮地〉の報酬

 ハンマーが振り下ろされ、宝箱の蓋の部分が破壊される。それと同時に、箱の中から射ち出されてくる四本の(ボルト)。けれど予めそれを察していたユウジは、箱が開く方向の逆側に立っていたために被害から免れた。

 一応、矢が自分の側へ飛来してもいいように、ユウジは盾で可能な限り自分の身体を覆い隠していたようだったけれど。結果としてその必要なく無く安全に対処ができたようで、シグレは安堵の息を吐いた。


「罠の内容は合っていたな。それから、矢が飛んでいく方向についても」

『見事だ、主人』

「迂闊さの汚名も、幾らかは返上できたでしょうか……」


 矢が飛んでくることが判っていたのは、シグレがそれを〈斥候〉のスキルで事前に見抜いていたからだ。箱の内側に小型のクロスボウのようなものが仕込まれており、開いたり蓋を破壊したりすると箱の前面に向けて4本の短く太い矢が射出される仕掛けになっていた。

 ツールが無い為に解除を試みることはできなかったが、《罠解除》のスキルを活用して罠の内容を調査するだけなら問題無い。レベルが低いので、自分の調査結果が合っているかどうかはいまいち自信が無かったが……正しく看破できていたことが裏付けられ、開ける前からすっかり失ってしまった自信を、幾らかシグレも取り戻せた気がする。

 ユウジもまた絶妙な力加減で箱を破壊してくれたようで、宝箱の中に入っていた品には、どれも破損の痕跡が全く見られなかった。早速、中に入っていた物品の詳細を、ひとつひとつ〝意識〟して確認していく。



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 学び得る克己の抗輪/品質65


   物理防御値:0 / 魔法防御値:8

   〔獲得経験値+2%〕〔HP回復率+3〕


   耐魔の意匠が施された鉄製の腕輪。

   魔法防御値が増加する。

-

 思慮深きセーウ/品質60


   物理防御値:0 / 魔法防御値:8

   〔MP回復率+2〕


   耐魔のルーンが刻まれた軍手。

   魔法防御値が増加する。

-

 疾駆の宝石/品質50


   〈付与術師〉が扱える宝石素材。

   既存の装備品に『敏捷増加』を付与する。

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 精神の宝石/品質50


   〈付与術師〉が扱える宝石素材。

   既存の装備品に『最大MP増加』を付与する。

-

 封印された秘術書(2個)


   〈秘術師〉が解読可能な秘術書。

   ランダムな1種類の秘術が記されている。

-

 コランダル(2個)/品質42-42


  薬樹の根を煎じて作成されたポーション。

  飲用することで126程度のHPを回復する。

-

 赤杏晶(2個)/品質63-64


  魔物【メロトーリド】から剥ぎ取った赤い水晶。希少素材。

  導具製作や細工、付与の材料などに用いる。

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「残念ながら、武器などは入っていないようですね」

「このサイズの宝箱じゃ、初めから期待できないさ。刀や弓が入った宝箱はかなり大きくなるし、槍やポールアクスといった竿状武器が入ってる宝箱であれば、殆ど棺桶みたいなサイズになる」

「な、なるほど……」


 当たり前だけれど、箱のサイズよりも大きい武器が中に入っていることは有り得ない。だから、武器が入っているような宝箱であれば、開ける前から何となく察することができてしまうというわけか。

 今回のサイズ程度の箱であれば、期待できるのはナイフや懐剣といった小型の武器ぐらいであり、脇差でギリギリ入るかどうかといった所だろう。


「我儘を言うようで申し訳ないんだが……。シグレ、この二つの防具、両方俺が貰うわけにはいかないか?」

「あ、はい。構いませんので、どうぞ」

「すまん、恩に着る。HPやMPの回復率が上がる防具ってのは案外貴重でなあ……。俺みたいな戦い方をする場合は、HPの回復率は生存能力に直結しちまうし」


 敵の攻撃による被ダメージを最小限に抑えながら、的確に反撃を加えていくユウジのスタイル。確かに、そうした戦い方をする場合には、HPの自然回復速度を高める装備はとても有効に働くだろう。

 逆に、シグレにはHP回復率なんてものは全く無用なので、譲ることには全く躊躇もなかった。MP回復率増加のオプションが付いている軍手の方であれば、まだ多少は興味もあったが。別に現時点でのMP回復速度に不満があるわけでもないので、そちらもユウジが欲しいのであれば譲るのは問題無い。


「そういえば、近接職の人はMPが自然回復しないのですよね」

「デフォルトのMP回復率が0だからな……。街で休息したり、あるいは街の外であっても野営を行って休息を取れば回復させることも可能ではあるが、基本的には全く回復しないものと思っていい。―――だからこそ、少しでもMP回復率を上げてくれる装備というのは有難いんだ。全く回復しないのと、ゆっくりでも少しずつ回復してくれるのでは全然違う」

「なるほど……それは確かにそうでしょうね」


 装備品でMP回復率が2上がれば、1分間に最大MPの2%を自然回復させることができる。例えMPを使い切っても、50分掛ければ全快できることになる。この差は意外と馬鹿にできない。


「MPを回復させるポーションなどは使わないのですか?」

「使うこともあるが、ポーション類自体安いものではないからな……。少なくとも、ちょっとしたソロ狩りなんかで気軽には使えない。俺は生産職が〈木工職人〉だから、自作することもできねえし」

「ポーションって、幾らぐらいするものなのです?」

「む、そうだな……。MPが40ぐらい回復するもので、単価が80ぐらいか」


 思ったよりも、高くはない。やろうと思えば、シグレの所持金でも結構な個数を買い込むことはできるだろう。

 しかし、1日の生活費が食事もコミで400程度であることを考えると、決して安い金額とも言えない。狩りの最中に5本飲めば、それだけで1日の生活費が飛ぶ。ユウジの言う通り、ソロ狩りなどで気軽に使える金額では無いようにも思えた。

 近いうちに、ポーションの自作などに手を出してみるのも良いかもしれない。もし材料を自力で揃えることができるようであれば、多めに作ってユウジやカエデに譲れば喜んで貰えるだろう。〈重戦士〉と〈騎士〉、どちらも味方を護るために敵の真正面に立つ役割が求められる彼らには、HPやMPを回復するポーションの存在は不可欠なものだろうから。


「宝箱の中にある『封印された秘術書』というのは、2個とも自分が頂いてしまって構いませんか?」


 ユウジが率先して防具を2つ選んだのだから、シグレのほうからも2品は希望して良いだろう。そう思っての提案だったのだが、シグレの言葉にユウジは少し困ったような笑みを浮かべてみせた。


「残りは全部、シグレのものだ」

「―――そういうわけには」

「勘違いするな、価値が釣り合っていないんだよ。おそらく残りのものを全部合わせても、俺が貰った防具のうち、片方分の価値にも見合うかどうか……というぐらいにしかならん」


 ユウジが選んだ『腕輪』と『軍手』。その2つには、それぞれオプション効果が付随している。そういった逸品は〈迷宮地〉の、特に金宝箱以外ではなかなか手に入れることができず、価値が高いらしい。

 特に『回復率増加』のように、ボーナスを得ることの恩恵が大きいオプション効果が付加されているものは高値が付くのが当然なのだそうで。価値としては本当に他の物と釣り合っていないのだと、ユウジは説明してくれた。


「だから、とりあえず残りのアイテムはシグレが全部貰ってくれ」

「そういうことでしたら……有難く頂きます」

「俺の経験からして、この迷宮地の中にはあと2~3個は宝箱があると思う。それらの宝箱の中身も、全部シグレのものにしてくれ。そのぐらいじゃないと、全く釣り合わん」

「……幾ら何でも、それはやり過ぎでは?


 ユウジの提案に、シグレは思わず苦笑する。

 価値があるとは言っても、宝箱の中から出て来たたった2品の為に、他の宝箱の中身まで諦めようというのは些かやりすぎのようにも思えるからだ。


「ボスの金宝箱と違って、他のはあんまり良い物が出ないんだよ……。そこそこの金額になる宝石類が入ってれば当たりなほうで、酷いときには鉄製や木製の、普通の武具が入ってるだけだしな」

「……なるほど」

「だから、少なくともシグレの取り分が『多すぎる』ということは無いので、遠慮しないでくれると有難い。……この辺の交渉で変に遠慮されると、今後シグレと組むのが遣りづらくなる。そういうのは、お互いにあまり良くないだろう?」

「む―――」


 そういう言い方は、少し卑怯だと思った。

 思ったが―――確かに、ユウジと一緒に狩りがし辛くなるようなことは、シグレとしても望むことではない。今回の〈迷宮地〉での狩りを通じて、彼の頼もしさを実感として理解しているだけに尚更だ。


「判りました、ではそれで交渉成立ということで」

「よし、じゃあ残りのゴブリン共も殲滅しに行くとするか」


 シグレ達の傍で休憩モードに入っていた黒鉄が、話が終わったことを察してすっくと立ち上がる。

 ボスのゴブリンを倒したからと言って、狩りが終わったわけではない。洞窟内のゴブリンをなるべく多く殲滅した方がギルドの報酬額は高くなるだろうし、他の宝箱を捜すという目標もできた。まだまだここからも、頑張らないといけない。

 それに正直言ってボス戦よりも、その前の雑魚ラッシュのほうが余程苦戦したのだから。もうこの〈迷宮地〉の中にゴブリン・シャーマンやウォーチーフは居ないのかもしれないが、油断をする気にはなれなかった。黒鉄自身も望んだことであったとはいえ、使い魔を容易く見殺しにするような〈召喚術師〉ではありたくない。

 もっと、パーティの中に於いて自分ができる戦い方を経験しておかなければならない。ユウジという熟練の〈重戦士〉と、黒鉄という相棒の隣で、ゲームとしての経験値ではない戦訓を、今回の探索で学べるだけ学んでおきたいと思った。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。


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文字数(空白・改行含む):4223字

文字数(空白・改行含まない):4020字

行数:119

400字詰め原稿用紙:約11枚

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