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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
2章 - 《冒険者の日々》

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23. 魔犬召喚

 〈召喚術師〉の初期スペルの中に、明らかに便利そうなものが含まれていることは、実はかなり初期の頃からシグレは把握していた。それを今まで使わずにいたのは、まずソロ狩りをする時に使ってみて、どのようなものなのか試してみようと思っていたからだ。

 カエデと一緒の狩りは、互いの役割が完成されすぎて召喚魔法を使う必要性を感じなかったが。今回は、ユウジという頼もしい前衛が居るとは言え、後衛の自分を護るには彼の手に余る状況も充分に有り得る。そういった意味では、確かに活用してみるのもアリかも知れない。




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〈召喚術師〉Lv.1

  - スペルスロット:4枠

  - パッシブスキル:1種


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《魔犬召喚》 - 消費60

魔犬を1体召喚して使役する。召喚中、術者は1分間に20ずつMPを消費する。

HPが0以下になったり、召喚状態の維持を止めると消滅する。


《大鴉召喚》 - 消費60

大鴉を1体召喚して使役する。召喚中、術者は1分間に20ずつMPを消費する。

HPが0以下になったり、召喚状態の維持を止めると消滅する。


《短転移》 - 消費30

術者自身、あるいは触れている対象の人や物体ひとつを、10メートル以内の任意の場所に転移させる。


《蘇生召喚》 - 消費30

消滅中の使い魔1体を、全快状態で再召喚する。


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《使役者Ⅰ》 - パッシブ

魅力+20%、召喚獣を1体まで使い魔として契約可能、MP回復率+5


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 ただ、召喚魔法は発動時のMP消費はともかくとして、維持中に払い続けることになるMPの代償が案外安くないのだ。このことも、今まで便利だろうとは思いつつ使おうと考えなかった理由のひとつでもあった。

 MP回復率50を誇るシグレは、1分間にMPが64だけ自然回復させることが可能であるため、例え現在〈召喚術師〉のスペルスロットに入っている両方を召喚しっぱなしであっても、MPが減少に転じることはない。しかし、片方を召喚する毎に自然回復量が3割以上削られるというのは、決して軽い負担ではない筈だ。

 そのことをユウジに告げると、彼の口からは明瞭な答えが返ってきた。


『召喚したら〈使い魔〉として契約すればいい』

『使い魔……ですか?』

『たまに一緒に狩りをする知り合いに、〈召喚術師〉をシングルクラスでやってるヤツが居るんだがな。前に聞いた話によれば、使い魔に登録すれば維持コストが一切掛からなくなるらしい』

『ほほう』


 仲間がひとり、無料で増えるようなものだろうか。それはとても便利そうだ。

 もちろん魔犬にしても大鴉にしても、プレイヤー程強くはないのだろうけれど。


『使い魔に登録しておける上限数はなかなか増えないが、その範囲内であれば常時召喚中を連れて歩くことができる。街中で獣を連れ歩くヤツを見たことはないか?』

『……無いですね、多分』

『そうか。見かけるときは結構見かけるし、冒険者ギルドにも使い魔を連れてくるヤツは居る。それほど珍しいというわけでもないんだがな』


 魔犬を連れた冒険者とかも居るわけか。……見てみたいな。

 入院生活に囚われていては、ペットなどに触れる機会があろう筈も無いだけに。動物などはテレビでしか見ることが無く、少し憧れに近い感情があった。

 こちらの世界でだけとはいえ、自分も飼えるかもしれないのか。


『まだ召喚魔法は使ったことがないのですが、今回試してみても構いませんか?』

『もちろんだ。戦力は大いに越したことはないからな』




    ◇




 街道を少しだけ戻り《気配探知》に反応する魔物が無くなったことを確認する。先程の位置ではウリッゴと思われる魔物が数体《気配探知》に引っかかっていたから、念を入れてのことだ。ウリッゴは積極的に人を襲う魔物ではないが、襲われることも無いことはない。

 杖を自分の前に翳し、魔法に集中する。実は〈召喚術師〉のスペルを使用する際に杖は必要ないのだが、その辺は気にしてはいけない。


「我が望みに応え、昏き深淵の闇より出でよ―――《魔犬召喚》!」


 5秒の詠唱時間を掛けてスペルを唱えると。シグレの目の前に光の粒子が集まり、やがて一匹の犬の姿を形成した。ちょうど倒された魔物が消滅する瞬間を、逆再生するかのような演出だった。

 召喚された魔犬は、体長が120cmぐらいだろうか。大型犬の中でもかなり大きめの部類に入るのは間違い無いが、犬として常識外れというほどのサイズでも無いようだ。

 周囲を何度かキョロキョロと見回してから、敵が存在しないことを確認したからだろうか。魔犬は自然と〝伏せ〟の体勢を取り、シグレに向けて(こうべ)を垂れてみせた。


(……ヤバい、可愛い)


 毛並みは綺麗に真っ黒で、風格を湛えた凛とした表情。体格も牙も、いかにも獰猛さを思わせるものであったが。地面に座り込んで頭を下げるその格好を見て、シグレは軽く胸がときめいた。

 頼もしくもあり、可愛くもある。この子を、現在1枠までしか許されていない使い魔とすることに、最早シグレには何の躊躇いも無かった。



------------------------------------------------------------------------------------

  使い魔として契約すると、以下の恩恵を総て得られます。


   ・召喚獣の維持にMPを消費しなくなる。

   ・召喚獣と念話で意思の疎通が可能になる。

   ・召喚獣が独自の経験値を獲得し、レベルアップする。

    (※主人やパーティメンバーの経験値獲得量を減少させない)

   ・HPが0以下になり消滅した召喚獣を《蘇生召喚》で復活できる。


  契約は自由に破棄が可能ですが、契約解消時には召喚獣が永久に消滅します。


 -

  ―――召喚獣『魔犬』を使い魔として契約しますか?

  契約する場合には、召喚獣に『名前』を与えて下さい。


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 魔犬を使い魔として登録しようと〝意識〟してみると、すぐに確認のウィンドウが表示された。

 意志の疎通ができるというのは、何気にとても有難い。会話ができるだけでも普通に嬉しいし、ペットの世話などしたことがないシグレには、何か不足が有れば魔犬の側から直接言ってくれるほうが適切に対処できるだろう。

 経験値を獲得して一緒に成長が可能というのも、嬉しい要素だ。おそらくは自分よりもずっと速い速度でレベルが上がっていくのだろうな……と思うと、少々複雑な気もするが。自分だけでなく、使い魔の成長もまた楽しめるというのは二重に美味しい。

 ただ―――困ったことも、ひとつだけある。


『……どうした、シグレ? 使い魔としてこいつと契約しないのか?』

『いえ、契約は勿論します。しますが、その―――名前が決まらなくて』


 自分のキャラクターの名前を決めるときにも、一瞬思ったことだけれど。ゲームでキャラクターに名前を付けたりするときには、結構悩んでしまったりする方なのだ。

 しかし、こればかりはユウジに頼るわけにもいかない。自分の使い魔とする以上、その名前ぐらいはちゃんと自分自身で考え、決めるのは当然のことだと思う。


(折角、毛並みがこんなに綺麗な黒なんだから。それに(ちな)んだ名前が良いか)


 どうせなら、風格に見合った格好良い名前を付けてやりたい。

 ユウジの呆れ顔を余所に、雨の中考え込むこと十数分。


「―――黒鉄(クロガネ)


 魔犬の瞳がシグレを見据える。

 シグレもまた、静かにその瞳を見つめ返した。


「使い魔として契約する。君の名前は『黒鉄』。―――名前に納得がいかなければ、もう一度考え直すぐらいはするけれど?」

『―――斯様に熟慮してくれた名に、不満などあるものか』


 帰ってきた言葉は、もちろんユウジのものではない。

 頭の中にはっきりと聞こえた『念話』の正体が誰からのものであるのかは、考えるまでもなかった。


『契約に応じ、使い魔としてお仕えする。この身を以て万難を排し、主人を護り、忠実な牙となろう。―――願わくば主人もまた、我の良き導き手たらんことを』

「頑張ります。よろしく頼むね、黒鉄」


 シグレが頭を優しく撫でると、目を細めて黒鉄はそれを受け容れてくれる。

 針金のように尖った黒い毛並みは、触れてみると柔らくて心地良かった。

お読み下さり、ありがとうございました。


-

文字数(空白・改行含む):3679字

文字数(空白・改行含まない):3481字

行数:126

400字詰め原稿用紙:約9枚

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