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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
1章 - 《イヴェリナの夜は深く》
18/148

18. 夜は深く

 公衆浴場を出ると外はもうすっかり暗くなっていた。

 夜足が少しだけ早い季節感は、なるほど現実と同じ『4月』を思わせる。

 〈イヴェリナ〉の街並みは石畳の街路に石造り・煉瓦造りの家々が立ち並んでおり、異国情緒という意味では大変趣があって良いのだが、緑に乏しく無彩色に近い単色の濃淡で纏めらている趣があり、やや色褪せた印象も受ける。街を出ないことには自然らしい自然があまりなくて季節を意識しづらい部分があり、ゲーム内での〝季節〟を思った瞬間は今が初めてだった。


 少し長湯をしすぎてのぼせた頭は、『松ノ湯』から冒険者ギルドまでの道を歩きながら冷ました。あの後、湯に浸かりながら「このあとギルドの二階で食事をしよう」という話になったからだ。

 「知り合いがいたら紹介するから」とカエデは事前に言ってくれていたのだけれど、生憎とその場に見知った顔は見当たらなかったようだ。夜の頃合いとあってギルドの二階自体はなかなか繁盛していただけに、カエデは少し残念そうだった。

 大人数で利用するような大きめのテーブルは埋まっているようだったので、二人掛けのテーブルでカエデと談笑しながら食事の時を過ごした。シグレはホウレン草ベースのニョッキパスタを注文し、カエデは様々な具材を交えた焼きそばのようなものを頼んでいたようだ。注文から十数分ほどでテーブルに届いた料理は、いかにも大衆食堂で供されるような大雑把な料理ではあったけれど、野菜の濃厚さと甘味がよく出ていて、癖になりそうなほど美味しかった。

 もともとシグレは食が細いほうなので、食べきるまでには結構な時間が必要であったし、食べ終わった後も温かい紅茶を片手にカエデと何でも無いような会話を楽しんだ。お風呂でも散々聞いた普段のカエデの話についてシグレが食い入るように聞き込むと、苦笑しながらもカエデは色々な話をしてくれた。

 カエデとは、まだ会って半日しか経っていないのに随分と打ち解け合えた気がする。彼女の竹を割ったような性格と物言いは、元々それほど言葉数が多いわけではないシグレにとっては居心地が良い相手だった。それに、カエデの傍に居るとシグレのほうも彼女につられて自然と饒舌にさせられてしまうようだ。


「シグレはさ、明日はどうするの?」

「明日、ですか?」

「うん、明日って言っても〝こっちの世界〟での明日だけれど。良かったら、シグレの行きたい場所があるならどこへでも案内するし、お金を稼いでおきたいなら狩りを手伝うよ?」


 面倒見の良い、親切なカエデの言葉がシグレには堪らなく嬉しかった。

 しかし、嬉しかったが―――同時に、甘えてはいけないなと戒める気持ちが芽生えた。カエデは頼られることを良しとしてくれるようだし、そうしたい気持ちも少なからず有るのが本音ではあるけれど。

 もし明日もカエデに頼ってしまえば、そのままずるずるとこちらの世界に順応するまで自分はカエデに頼りっぱなしになってしまう気がした。そう思ったから、酷く惜しいとは思いながらもシグレはその好意を辞退した。


「少し、自分の戦闘クラスの施設とかも回ってみようと思いますので」

「私もつきあうのにー」

「さすがに、それに付き合わせるのは……」


 〈騎士〉であり〈槍士〉であるカエデと共通する戦闘職は無いので、シグレがどこを訪ねるにしても彼女は暇を持て余してしまうだろう。それはあまり良いことでは無い。

 それに、カエデにはシグレよりも先んじて過ごした一ヶ月があり、こちらの世界に於ける相応の日常というものが形成されていることは想像に難くなかった。

 折角仲良くなれたので共に居たい気持ちはあるし、カエデもまた自分と一緒に居ようとしてくれること自体は非常にシグレにとっても嬉しいことではあったが。そのせいでカエデが今まで過ごしていた日常を失うようなことは、あって欲しく無かった。


「ん、しょうがないかー。じゃあ、もし何かあればいつでも念話で呼んでね? シグレが呼んでくれるなら、いつでも駆けつけるからさ!」

「ええ、その時は是非」


 カエデから差し出された手のひらを、シグレは堅く握りしめた。

 自分もまた、カエデに必要とされるときに求められ、呼ばれるようで在りたい。

 明日からも頑張ろう、とカエデの笑顔を前にシグレは決意をひとつ固めた。




    ◇




 ギルドの前でカエデと別れてから、ふらふらと夜道を歩く。

 頭の中が何だか温かくて、ふわふわとした気分だった。酒類は一切飲んでいない筈だったが、酒場独特の陽気と酒気にあてられたりでもしたのだろうか。妙に気分が高揚していて心地良く、まだ冬の面影を残した微かな冷たさを孕んだ空気が頬を撫でていくのが気持ちいい。

 カエデは途中から少量ではあるものの酒を嗜んでいたようだったし、いっそ本当に酒に付き合ってみるのも良かっただろうか。試してみたことがないので、自分が飲める人間なのかどうかはシグレ自身にもまだ判らないことではあったが。

 未成年であるとはいえ、ゲームの中での飲酒を咎める法など有るわけで無し。軽く試してみるぐらいなら、吐いたり記憶を無くしたりといったコメディによくある惨事に繋がるようなことも無いだろう。次の機会があれば、試してみるのも面白そうだ。




 ―――世界の名前が〈イヴェリナ〉で、街の名前は〈陽都ホミス〉。

 今日の朝にはまだ、遠い異国のような目でしか見られなかった街並みにも、今では少なからず親近感のようなものを覚える。これからの未来、きっと少なくない時間をこの場所で過ごすのだと思うと嬉しかった。

 宿の場所は地図に記録してあるから迷うことがないし、落ち着かない気分の儘でもどちらに進めば宿に着けるのかが直感的に理解出来るから、シグレは最短のルートから道ひとつ違えることもない。

 意識して視界の隅に表示させた時計は『21時34分』を示している。この時間ともなるとさすがに街の中からは大半の灯りが落とされ、辺りは静かなものだった。街路を歩く人影自体はまばらにあるし、女性ひとりで歩いている人の姿もよく見るから、ここはきっと治安が良い街なのだろう。

 不意に空を見上げると、綺麗な月が浮かんでいた。


 そこには病室の窓から見上げる星空よりも、ずっと深い黒で塗り満たされた夜の帳が広がっていた。

 冬を思わせる低くて近い夜空と、夏を思わせる澄んだ星の瞬きが相俟って、シグレはいま自分がどんな時と場所に立っていたか判らなくなる。

 〈イヴェリナ〉の夜は深く、油断すると呑み込まれそうだ。赤く燃える遠くの星と、青く燃える近くの星。二つの幻想が廻る透徹な世界に呑まれて、自分はいまここに居るのかも知れない。

 この世界にシグレが来てから、僅かに1日。たった一日の中で感じた、幾つもの心の機微を思い返し、酔いしれながら。夢の世界の住人となった自分が過ごす、これからの未来(さき)のことへと、シグレは瞼を閉じて思いを馳せた。




                - 1章《イヴェリナの夜は深く》了

 


ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

楽しめるものになっていましたら幸いです。



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 シグレ/銀術師


  □戦闘職Lv.1 (exp - 39%)

  □生産職Lv.1 (exp - 0%)


   最大HP:8 / 最大MP:128

   筋力: 2 強靱: 2 敏捷: 5 反応:12

   知恵:44 意志:21 魅力:42 加護:28

--

  武器:樫の杖|(物攻4)

     丸木弓|(物攻8)

  身体:旅人の衣服|(物防2/魔防2)

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【聖職者】


  《衝撃波》:敵単体に衝撃ダメージを与えて、ノックバックさせる。

 《軽傷治癒》:味方単体のHPを小回復させる。

   《浄化》:対象の人や物に付着した、好ましくない毒性や汚染を取り除く。

   《防腐》:12時間、対象物の品質の自然低下速度を大幅に遅らせる。

--

【巫覡術師】


  《破魔矢》:弓が必要。破魔矢を生成して敵単体を射つ。死霊系特効。

--

【秘術師】

--

【伝承術師】


  《魔力矢》:杖が必要。敵単体に必ず命中する魔力の矢を発射する。

        術者の〈戦闘職〉Lv合計に応じて矢の数が増す。

 《眠りの霧》:杖が必要。誘眠の霧を発生させ、範囲内の魔物を眠らせる。

--

【星術師】

--

【精霊術師】


   《霊撃》:片手空きが必要。衝撃ダメージを与えてノックバックさせる。

   《狐火》:片手空きが必要。単体に炎上ダメージを与えて怯ませる。

--

【召喚術師】

--

【銀術師】


   《捕縛》:敵単体を銀のロープで捕縛して短時間行動不能にする。

--

【付与術師】


 《理力付与》:10分間、味方の装備武器1つの物理攻撃力を増加させる。

--

【斥候】

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〔passive〕


聖   《安息Ⅰ》 - 魅力+20%、MP回復率+5、スペル再使用時間-10%

巫   《祀神Ⅰ》 - 魅力+20%、MP回復率+5、加護+20%

秘 《英知の火Ⅰ》 - 知恵+20%、MP回復率+5、秘術書利用が可能

伝  《伝承者Ⅰ》 - 知恵+20%、MP回復率+5、魔法防御+10%

星   《天耀Ⅰ》 - 魅力+20%、MP回復率+5、反応+10%、暗視能力

精 《精霊憑きⅠ》 - 魅力+20%、MP回復率+5、全属性防御+10%

召  《使役者Ⅰ》 - 魅力+20%、MP回復率+5、使い魔契約上限1

銀   《涙銀Ⅰ》 - 知恵+20%、MP回復率+10、銀の契りが可能

付  《強化術Ⅰ》 - 知恵+20%、MP回復率+5、全身体能力値+5%


斥 《偵察術Ⅰ》 - 反応+20%、情報の共有化が可能

斥 《気配探知》 - 周囲の気配を自動探知し、生体の存在と位置を知る。

斥  《千里眼》 - 意識すれば一定範囲内の離れた位置を視ることができる。

斥   《隠密》 - 気配を消して行動したり、痕跡を隠蔽できる。

斥 《地図製作》 - 各種情報を含めた地図を自動生成する。

斥 《魔物鑑定》 - 魔物の名前とレベル、弱点などを察知する。

斥  《罠感知》 - 周囲の罠を自動探知し、詳細位置と内容を知る。

斥  《罠解除》 - フロアやオブジェクトに仕掛けられた罠の解除を試みる。

斥   《解錠》 - 扉や箱に掛けられた鍵を開ける。


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 〈鍛冶職人〉Lv.1 - 鍛冶素材の追加獲得率+30%

 〈木工職人〉Lv.1 - 木工素材の追加獲得率+30%

 〈縫製職人〉Lv.1 - 縫製素材の追加獲得率+30%

 〈皮革職人〉Lv.1 - 皮革素材の追加獲得率+30%

  〈細工師〉Lv.1 - 細工素材の追加獲得率+30%

 〈導具職人〉Lv.1 - 導具素材の追加獲得率+30%

 〈付与術士〉Lv.1 - 付与素材の追加獲得率+30%

 〈錬金術師〉Lv.1 - 錬金素材の追加獲得率+30%

   〈薬師〉Lv.1 - 調薬素材の追加獲得率+30%

  〈調理師〉Lv.1 - 調理素材の追加獲得率+30%

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〔Inventory & Storage〕


  初心者用ポーション[30]


  上下肌着[5]

  旅人の衣服[4]


  ウリッゴの隠し牙[8]

  ウリッゴの崩石[4]


  6,592 gita


------------------------------------------------------------------------------------



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文字数(空白・改行含む):2899字

文字数(空白・改行含まない):2788字

行数:60

400字詰め原稿用紙:約7枚

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