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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
8章 - 《聖騎士の忠節》
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139. 付与生産・伍

月曜日にPCがご臨終されました。原因はCPUのようです。

HDD自体には問題無かったため、差し当たり旧PCにHDDだけ付け替えることで対処しておりますが、OSがXPに戻ったせいか色々と違和感が……。

 カグヤが冷静さを取り戻すまでには暫くの時間が必要だったものの、シグレさんは一度部屋を出て二人分の温かい飲み物を淹れてきて下さった後、カグヤを追い出すこともせずにただ同じ部屋の中に置いていて下さった。

 テーブルの上で何かの書き物を始めたのは、おそらく秘術書の写本を製作しておられるのだろう。地下の〈迷宮地〉に籠っていた間に随分と溜まってしまったらしく、シグレさんもユーリさんも最近では手空きの時間さえあれば、生産か写本作りのどちらかをしておられることが多かった。


「―――そういえば、カグヤにひとつ確認して頂きたいことがあったのですが」

「あ、は、はい。何でしょう?」

「えっと……。持ち歩いているアイテムを確認したい時などに〈インベントリ〉を開く時には、何と言うか……〝インベントリを開こう〟と意識すれば、視界の中にそれを表示することができますよね?」

「……? 確かに、出来ますが……」


 〈インベントリ〉に収めているアイテムを確認したい時には。そう意識すれば、中身を見ることができる。

 それは何と言うか、当たり前の事過ぎて。今更改めて言われるのは、何だか少し変な気分がした。


「それと同じ要領で〈ストレージ〉というのを開くことができないかどうか、一度確認してみて頂けると有難いのですが」

「は、はあ……」


 〈ストレージ〉については、以前にカエデから教わってカグヤも知っていた。

 何でもカエデが言うには、〝羽持ち〟の人だけが持つことができる、携帯倉庫のようなものであるらしい。40枠しかアイテムを収納することができない〈インベントリ〉とは異なり、〈ストレージ〉の中には無尽蔵にアイテムを収めることができるのだとか。


(そういうのがあれば、生産の時に便利だろうな……)


 話を聞き、カグヤも二度や三度はそう思ったことがある。

 何しろ、総ての素材や器具を常日頃から持ち歩くことが出来るわけだから。その便利さが容易に想像出来るだけに、羨ましくも思えたのだ。


「―――あ、あれ?」


 期待も何もせずに、シグレさんに言われた通り〈ストレージ〉というものを意識してみると。果たしてカグヤの視界の中に、今まで一度も見たことが無いものが表示される。

 〈インベントリ〉のものとは全く異なり、品名と数量が整然とリスト化されている。初めて閲覧する〈ストレージ〉の一覧には、既に膨大な量のアイテムが貯蔵されていることが判った。


「ある程度予想はしていましたが。……その反応から察しますに、やはり〈ストレージ〉のほうも利用することができるようですね」

「そ、そうみたいです……。ただ、既に〈ストレージ〉に中身が詰まっているのが不思議なのですが」

「……中身が?」


 そちらのほうが以外だったらしく、シグレさんが訝しげな声を上げる。

 けれど、カグヤが〈ストレージ〉内に収納されているアイテムを順に読み上げていくと、すぐにシグレさんも得心したかのように頷いてみせた。


「どうやら、中身は自分の〈ストレージ〉と同じもののようですね」

「シグレさんの……?」

「ええ。カグヤから以前頂いた、ピッケルのセットも入っているでしょう?」


 シグレさんにそう言われて〈ストレージ〉の中を確認してみると、確かに〝唐鋼のピッケルセット〟というアイテムが入っていることが判る。

 忘れもしない。それは〈迷宮地〉であるゴブリンの巣へ一緒に鉱石の採掘に行った際、カグヤがシグレさんにプレゼントした品だった。

 試しに取り出そうと意識してみるけれど、上手くいかなくて。カグヤが少し苦戦していると、シグレさんから「一度〈インベントリ〉に移すと良いですよ」との助言を頂戴して。果たしてその通りにしてみると、〈ストレージ〉の一覧からアイテムの名前が消滅して〈インベントリ〉に移り、そこからカグヤの右手の内へと、まさしくあの時にカグヤがプレゼントした大小のピッケルを取り出すことができた。


「し、シグレさん。これは、マズいのではないでしょうか?」

「まずい? 何がでしょう?」

「だって、これってつまり……私はシグレさんのアイテムを何でも、勝手に取り出すことができちゃうってことですよね?」


 幾らでもアイテムを収納することができる携帯倉庫。そんなに便利なものがあるのなら、現金を除く殆どの財産は、おそらく殆ど収納してしまうに違いない。

 事実、シグレさんの〈ストレージ〉の中には、それこそ夥しい量のアイテムが詰まっている。カグヤの知っている名前のアイテムもあれば知らないものもあるけれど、判る分だけをざっと換算しても、決して小さくない額に相当する財産であることは間違い無い。


「別に構いません。取られて困るようなものも大してありませんし……ああ、寧ろ却って良いかも知れません。使いたい素材などが〈ストレージ〉の中にあれば、積極的に使って頂いて構いませんよ」

「い、いえ、それはさすがに……」

「品質が時間経過で劣化しない鉱石素材などは、どうしても使うのを後回しにしがちな所もありますから。カグヤが使って下さるのでしたら、そのほうが有難いです。いちいち個別に受け渡したりしないで良いようになるので、楽で良いですね」


 〝連繋の指輪〟は、装着者であるカグヤとシグレさんが同じエリアに居る時にだけ効果を発揮する。

 都市エリアである〈陽都ホミス〉内に留まっている間はずっと効果を発揮することになるので、充分に離れていても〈ストレージ〉を仲介すれば互いにアイテムを受け渡しできることになる。

 お店にならべる商品などは、カグヤが生産した後にシグレさんのほうで付与を施して頂くことになっているが、工房で生産した端から〈ストレージ〉の中に入れて念話でシグレさんに伝えれば、それだけで受け渡しが完了するわけで。確かにそれは、ちょっと便利かも知れない。


「カグヤ。〈ストレージ〉の中から〝精強の宝石〟を1個取り出して下さい」

「あ、はい」


 言われる通りに、途中〈インベントリ〉を仲介して宝石素材を取り出す。

 ……事前に聞いていたとはいえ、表示されているその宝石素材の所持個数が本当に〝252個〟と記されていたのを見て、内心で軽く引いたりもした。


「では、今度はカグヤの番です。実際にやってみましょう」


 シグレさんはそう告げて、1本の長剣をカグヤに向けて手渡す。

 それは、付与の実演用に最初にお渡しした3本のうちの1本だった。


「私が付与を行う、ということですね?」

「はい。遣り方は先程お見せした通りです。失敗しても全く構いませんので、取り敢えず〈付与術士〉の生産を行うことができるのかどうかだけ、実際に確認してみましょう」

「……わ、判りました」


 本来は見えないはずの〝エーテル〟が、カグヤにははっきりと見えた。

 その理由が、生産の天恵さえもを指輪が共有させている為に、シグレさんの持つ〈錬金術師〉の天恵をカグヤが利用できているからなのであれば。成功するか失敗するかは別として、生産行為自体を行うことは可能なはずである。


(最初は確か『喚起』から―――)


 心の裡で強く意識しながら、カグヤが〝精強の宝石〟を指先で突いてみると。

 果たして―――小突いた部分から、弾けるように〝エーテル〟の靄が溢れた。


(……ほ、ホントにできそう)


 『喚起』自体が可能なのであれば、おそらくはそれ以降の工程も問題無く行うことができるだろうか。

 そう思い、シグレさんのほうをちらと見遣ると。シグレさんはただ、小さく頷くことでカグヤに応えてみせた。

 カグヤが〝意識〟さえすれば、エーテルはすぐに糸の形状へと変化していく。先程シグレさんが見せてくれた妙技は、未だカグヤの目に焼き付いている。それに比べれば、たった1本だけのエーテルを武器に巻き付けることぐらい、それほど難しいことではないはずだ。


「時間は掛かっても大丈夫ですから、ゆっくりと」

「はい」


 剣の先端にエーテル糸の視点を貼り付けて、まずは深呼吸をひとつ。

 それから、シグレさんのアドバイス通りにゆっくりと糸を巻いていく。

 慣れない作業であるためか、自分の指先が思いのほか震えてしまうようで、なかなか思う通りにはいかなかったりもするけれど。

 それでも―――この剣は間違いなくカグヤ自身が拵えた物であり、その形状は寸分違わずに把握できている。そのことが幸いしてか、幾つものミスを経ながらも初めてにしては予想以上に上手く作業を終えることができた。


「上出来……だと思います。カグヤ、仕上げを」

「やってみます」


 最後の『定着』を〝意識〟すると。カグヤの視界にエーテルの光が溢れ、やがてそれらが剣の中へと吸い込まれていく。

 最初にシグレさんが実演して下さったときよりも、エーテルの光が随分と弱い物であるように感じられたのは。自分なりには良くできた自負こそあっても、シグレさんの腕前にはまだまだ遠く及ばないものであったことの証左なのだと思えた。



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 ショートソード/品質44


   物理攻撃値:14

   《最大HP+44》


   扱いが容易な片手用の長剣。

   鍛冶職人〝カグヤ〟の製作品。

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 事実、それを裏付けるように付与値はだいぶ下がってしまっている上、それ以上に武器の品質にはかなりのダメージが入ってしまっている。

 それでも―――。


(凄い……)


 カグヤの心には不思議な達成感ばかりが溢れている。

 本来であれば、出来ないはずのことが出来た。シグレさんの天恵と指輪のお陰であるのだとしても―――小さくない喜びが、カグヤの心の裡で静かに響いていた。

お読み下さり、ありがとうございました。


PCを換えたことで辞書が別物になってしまった為、正直大変に難儀しております。

暫くの間、特に誤字などが酷いことになるかもしれません。すみません。

早くATOKに戻りたい……。


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文字数(空白・改行含む):4071字

文字数(空白・改行含まない):3897字

行数:119

400字詰め原稿用紙:約10枚

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