121. アタッカー
色々と面倒が片付きましたので、当面は投稿頻度が上がると思います。
それから、ベルと共に数戦を経るうちに彼女と共に戦う上での相互の理解と連携はすぐに得ることができ、以降にこなした十数戦に於いては非常に安定した中で魔物を殲滅することが出来た。
周囲に活用する仲間が居なかったために判らない部分が多かった大鎌という大型武器の癖についても、シグレなりに理解ができた気がする。例えば、その武器の厳めしい形状とあからさまな印象から、充分に活かすには高い[筋力]が求められそうに思える〝大鎌〟だけれど、実際にこれを振り回すのであれば[筋力]以上に[敏捷]こそが重要なステータスとなるのだろうと。今ではそのように、シグレは認識を改めている。
大鎌は斬撃武器ではあるが、振るう上でのモーションはハンマーや斧のそれに近い。無論、鈍器などに比べれば圧倒的に柄が長いので―――どちらかといえば長柄の穂先に斧頭が付けられたハルバードなどのほうが、より近いと言えるだろうか。
つまり、肝要なのは武器の穂先部分にその重量が密集していることなのだ。斧やハンマーのように、先端部の重量に任せて武器を大きく振るう必要があり、重量バランスによって容易かつ大量に稼がれる遠心力によって、その一撃は〝武器攻撃力〟として示される値を遙かに超えたダメージを叩き出す。
武器自体の重量がそれなりにあるので[筋力]の値も相応に必要ではあるようだが、一度武器に勢いを乗せてしまえばそれだけで振るえてしまうから、案外その要求値は高くないようだ。全身で武器に勢いを乗せ、体全体で振り回すだけ。寧ろある程度の武器サイズと重量があるにも関わらず、肩と腕の力だけで巧みに操らなければならない長剣などよりも、そこに要求される[筋力]の値は低いと言えるのかもしれなかった。
代わりに[敏捷]のステータスは他の武器以上に求められる。素速く自分自身の身体を走らせ、その機動力で体重ごと勢いに乗せて得物を振るわなければ、大鎌の殺傷力を生かし切れないのだ。
大鎌は魔物の側面から、しかし槍のように一点に威力を集めて対象を刺し穿つ。スケルトン・ウォリアーの多くは盾を装備しているが、これはベル相手に殆ど機能することがない。剣のように、迫り来る軌道さえ読めさえすれば刃面のどこを防いでも攻撃を食い止められる武器と異なり、一点から穿ちくる大鎌の攻撃を防ぐのは極めて難しいからだ。槍のように正面から来るのであればともかく、側面からの刺突攻撃を盾で防ぐというのは余程熟達した戦士でも難しいだろう。
しかし大鎌は刺突武器による攻撃とは異なり、確かな刃を伴った斬撃武器でもある。カエデの使うような片手で扱うショートスピア、あるいはナナキの用いる細剣のように刺突を中心として戦う細身の剣などは、スケルトンのように骨だけで組成された魔物に対して有効的なダメージを与えにくいものだが。―――けれど、ベルの大鎌はその限りではない。
使い手の機動力と武器の遠心力を乗せた刃面は、突き刺した傍から魔物の身体を切り裂き、破壊する。さすがにユウジの装備する片手用とは思えないサイズの大型剣のように、鈍器さながらの衝撃力を以て魔物を叩き斬る武器ほど効率は良くないかもしれないが。それでもベルの繰り出す一撃一撃は充分過ぎる程に、スケルトンを初めとした魔物のHPを奪うことが可能なようだった。
―――無論、弱点が無いわけではない。大鎌はその性質上、小技のようなものが一切行えないのだ。常に威力を乗せて大振りするしかなく、何かにつけて小さくない隙を生じる。かといって武器を使って敵の攻撃をガードしようとするのにも無理があり、故に機動力を活かしたヒット&アウェイ戦術で立ち回るしか無く、前衛として魔物と相対し続けることが出来ないのだ。
魔物を殲滅する力はそのレベルに分不相応な程あっても、魔物を抑える力という意味ではベルの能力は遊撃役であるシノにさえ劣るだろう。後衛のシグレやユーリを護るために敵と対峙し続ける能力はなく、盾役はユウジやカエデに丸投げするしかない。
だが、普段地下二階をパーティ狩りしているシグレ達にとって、火力を担ってくれそうなベルの存在は願ってもないものでもある。既に盾役は充分過ぎる程に揃っており、逆に火力面に於いては不足を感じることもしばしばあるからだ。
シグレ達のパーティの中ではユウジのレベルが最も高く、次点でカエデが高い。シグレ自身を含めた他の面子は全員、多すぎる天恵を抱えているが為に似たり寄ったりの低レベルであり、ユウジとカエデの二人だけレベルが突出していると言っていい。
そしてカエデの天恵の〈騎士〉に関しては言わずもがな盾役の為の天恵であるし、ユウジの〈重戦士〉もどちらかといえばその傾向が強い。盾で敵の攻撃を防いだ際に繰り出せる強烈なカウンター攻撃こそ有してはいるものの、それはあくまで盾役としての副次的なものと言って良いだろう。
高レベルの二人が防御に傾倒しているが為に、どうしても火力面で劣る面があるのだ。―――それこそレベル3に過ぎないシグレがパーティの中心的火力を担えてしまう程に。
「―――やあッ!」
低身長を活かし、低い軌道で横薙ぎに広く振るわれた大鎌の一撃が、突進してきたゾンビドッグの身体を勢いもそのままに的確に迎え撃ち、貫くと共に一撃でそのHPバーを消し飛ばす。ゾンビドッグのレベルがこの迷宮で最も低い〝4〟であるとはいえ、格上の魔物を即死させるほどのポテンシャルを秘めているのだから恐ろしい。
(何とも、頼りになるなあ)
ひとたび二人の連携が正しく機能するようにさえなれば、ベルの力は頼もしい限りであった。スケルトン・ウォリアーでもゾンビドッグでも、彼女の大鎌はその脅威を容易く刈り取ってしまう。シグレはただ彼女の手に余るであろうレイス系の魔物の殲滅に専念していればよく、楽なものだ。
そもそも〈ペルテバル地下宮殿〉の一階に於いては、そのレイスさえあまり個体数は多くない。出る魔物の七割か八割ほどが、スケルトン・ウォリアーとゾンビドッグなのだ。そういう意味でも、このフロアは彼女が思うままに無双できる独擅場であると言って良かった。
「魔力を支配する〝銀〟よ、彼の魔物を捕えよ―――《捕縛》!」
銀のロープが現われ、最後の一体であるスケルトン・ウォリアーの身体を瞬く間に絡め取る。
《捕縛》のスペルは成功率が高いが持続時間は短く、数秒程度しか魔物の動きを封じることができない。しかしベルという高火力の前衛がいる今となっては、僅かに数秒の拘束でも充分な意味を持っている。
動けないスケルトン・ウォリアーに引っかけられたベルの大鎌が、その首を刎ねる。骨だけで出来たスケルトンであっても頭蓋というパーツは重要であるらしく、胴体から頭を刎ね落とせばそれは致命傷となる。
ゾンビドッグよりもタフなスケルトン・ウォリアーを倒すには、通常であればベルは3発ほど攻撃をヒットさせる必要があるが。シグレが《捕縛》で拘束したり《衝撃破》で敵を転倒させたりすれば、ベルはそれを一撃の下に屠ることができた。
「―――《軽傷治癒》」
「んっ……。ありがとう、シグレ」
治療の呪文で三割ほど減少していたベルのHPを回復させる。
高速での移動を軸にしながら戦う彼女は賢明に魔物が繰り出す攻撃を躱してはいるものの、それでも幾つかの攻撃―――特にスケルトン・ウォリアーの剣先は彼女を捉えることも間々ある。
突撃を迎え撃たれれば、勢いが乗るために迎撃の威力は増大する。まして彼女はその機動力を活かすためか、革鎧や胸甲のひとつさえ身につけていないものだから、刃を受けるたびに一割か二割はHPを削ぎ落とされる。
彼女自身《騎士》の天恵を有している為に素のHPや防御力は低くなく、更に大鎌への付与でHPなどを底上げされていてそうなのだから、その被ダメージは決して小さい値ではないだろう。
(防御系の付与を付けた、服や装飾品を作っておかないとな)
現在彼女が身につけている服はシグレと同様、殆ど防御性能を持たないただの服である。
機動力を殺さずに済む範囲内で、なるべく彼女のHPや防御力を補強できる装備を準備することができれば、それは何より彼女の力となるだろう。
「宝箱を開けますので、暫く休んでいて頂けますか」
「ええ、判ったわ」
魔物を掃討した部屋に存在する宝箱は2つ。解錠に失敗し、罠が発動した際に二人纏めて被害を受けることがないよう、ベルは少し離れた場所で床に座り休息する。彼女の《庇護》がシグレを護るので、二人一緒に被害を受けることは彼女にとって二重のダメージとなるからだ。
毎日のように地下迷宮に潜っているお陰で、すっかり慣れてしまった宝箱の鍵開け作業。普段サポートに付いてくれるシノが居ないので、いつも以上の慎重さを以てシグレはその作業に臨む。
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堅牢の宝石/品質50
〈付与術師〉が扱える宝石素材。
既存の装備品に『強靱増加』を付与する。
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精強の宝石/品質50
〈付与術師〉が扱える宝石素材。
既存の装備品に『最大HP増加』を付与する。
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封印された秘術書(1個)
〈秘術師〉が解読可能な秘術書。
ランダムな1種類の秘術が記されている。
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(―――お誂え向き、だな)
まるで狙い澄ましたかのように都合良く宝箱の中から出現した宝石達を前にして、小さく破顔しながらシグレはそれらの報酬を〈インベントリ〉の中へと収めていった。
お読み下さり、ありがとうございました。
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