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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
1章 - 《イヴェリナの夜は深く》
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12. 初めての戦闘

 ギルドカードを見せると街の門は簡単に通過することができた。

 採取にしろ狩猟にしろ、冒険者ギルドの依頼の殆どは街の外に出ないことには始まらないから、あちらも慣れたものなのだろう。門を通過する際に脇目に見た、荷馬車に乗った行商の人などは結構時間を掛けて荷を改められたりしているみたいだったので、ランクが低くとも冒険者という肩書きがあれば、この街だけでも気軽に出入りできそうなのは素直に有難いと思った。


「ホントは私達のほうが、あの行商人のひとよりもずっと沢山の荷物を持ってるかもしれないのにね?」

「……確かに。そういえばそうですね」


 可笑しそうにからからと笑うカエデに釣られて、シグレも軽く吹き出してしまう。

 プレイヤーである私達は、NPCの人達とは違って〈ストレージ〉を有している。ストレージの中には際限なくアイテムを収納することができるのだとキャラメイクの際に深見さんも言っていたから、荷馬車に積まれる沢山の商品よりずっと多くのものを、私達はやろうと思えば身ひとつで運ぶことができるかもしれない。


「一応NPCの方にも〈インベントリ〉はあるんですよね?」

「うん、だから40種類までなら気軽に持ち歩けるかな」


 ストレージとは異なり、インベントリには100個×40種類までしかアイテムを収納しておくことができない。おそらくは行商人の人も、インベントリ一杯に運搬する商品を詰め込んだ上で、更に入りきらない商品をあれだけ荷馬車に積んでいたのだろうか。

 行商人が門を通過する際にはもしかして、衛兵の人はインベントリの中身までチェックしていたということだろうか。必ず40種類までしか入らないと決まっているのだから、やろうと思えば改められないことも無いだろうけれど……たぶん、それは凄く大変な作業だ。だとすると行商の人が門であんなに長時間の足止めを被るのも頷ける気がする。


「あ、そうだ。今日狩る予定の魔物は〝ウリッゴ〟っていうさっき屋台で食べた魔物なんだけど、これを討伐する常設依頼がギルドには出てるんだ。〈准六等冒険者〉の依頼票なんだけど、見た?」

「いえ、さすがに自分のランク外の依頼票までは見てませんね」

「シグレはまだ当然〈初等冒険者〉だろうから、そうだよねえ。でも私が〈六等冒険者〉だから一緒にパーティを組んでればギルドで依頼達成の報告は可能だし、ちゃんとシグレのランク評価にもなる。だからギルドで報告するために必要な討伐数の〝10匹〟は最低でも狩りたいかな」

「なるほど、ではそれが最初の目標ですね」


 多めに討伐する分には受け付けてくれるとのことだったから、目標数さえ達成してしまえばあとはのんびりと狩りを続けることができる。

 別にランクを急いで上げるつもりはないから、多めに討伐をこなして評価を稼いでおきたいわけでは無いのだけれど。多めに討伐すればそれだけ報酬も出るはずなので、金欠状態を脱する為にも余裕があれば多めに狩ってから報告してしまいたい。


「―――お」

「うん?」

「敵の反応です。斜め右手側……あちらの方向、少し先に魔物の気配があります」


 指さしながら、具体的な方角をカエデに示す。〈斥候〉のクラスのスキル《気配探知》が魔物の存在を捉えていた。

 街道から逸れるその方向には樹木が生い茂る林があり、視線が通らないので直接見確かめることはできない。シグレは同じく〈斥候〉のスキルである《千里眼》を活用し、気配を探知した辺りの景色を〝視て〟確かめる。

 ―――そこには猪に似た形状の魔物が、2匹連れ歩いていた。


「ウリッゴのようです。2匹居るみたいですが、どうしますか?」


 《魔物鑑定》も〈斥候〉のクラススキルなので、初めて見た魔物であってもそれが間違い無く〝ウリッゴ〟であるのだとシグレには確信を持って理解出来た。

 できれば最初は安全に、単体を相手にしたかった所だが……。


「2匹ぐらいなら私が相手できるから問題無いよ。一応《庇護》のスキルを掛けておくから、もしシグレが攻撃されてもダメージは私の方に来る。目の前に魔物が来ても畏れないでいいからね」

「大変有難いです。自分では耐えられないでしょうから」

「あと、できれば〈斥候〉のマップを私にも共有して貰えないかな。確かできる筈だから」

「おっと、了解です」


 そうする為の方法は判る。〝意識〟すればいい。

 《気配探知》で捕えた魔物の位置はマップにも表示される。共有していれば、具体的な方向を指し示さずともカエデに正確な位置を伝えることができるだろう。


「まだ《気配探知》の有効範囲があまり広くないのかな、それほど離れてないみたいだね。私は〈槍士〉の攻撃スキルの《突撃》で一気に攻め込むから、シグレは好きに援護してくれればいいから」

「判りました。ちなみに《突撃》というのはどういう攻撃スキルです?」

「文字通り敵に突撃してダメージを与える攻撃スキルだね。MPを消費しない上に威力も高いけれど、敵と少し距離が開いてないと実行できないスキルなんだ。だから戦闘開始時ぐらいしか使えないけど」

「ふむ……」


 それって、シグレの攻撃で敵の距離を〝離せば〟戦闘途中でも再度使えるのではないだろうか。


『あと、ここから先は念話で話そう? パーティ全体に伝えるつもりで言葉を意識すれば、離れていてもちゃんと伝わるから』


 これから先、前衛のカエデと後衛のシグレとでは立ち位置が離れることになる。

 叫べば届く程度の距離ではあっても、念話ができるならそのほうが勝手が良い。


『―――これで伝わりますか?』

『うん、聞こえてるよ』

『最後に《突撃》の再使用時間クールタイムだけ教えて下さい』

『1秒。ほぼ無いも同然だね。だからって連打するのは難しいだろうけれど!』


 そう念話で答えて、直ぐにカエデがウリッゴが居るであろう方向に駆け足を始める。

 慌ててシグレも早足でその後を追うと、すぐに2匹のウリッゴを視界に収めることが出来た。買ったばかりの杖を〈インベントリ〉から取り出し、立ち止まって右手に高く掲げる。


「眠りへと誘う深き霧よ、彼の魔物達を抗えぬ深淵へと導け―――《眠りの霧》!」


 カエデと接敵してしまう前に、短い詠唱と共に2匹のウリッゴに対して伝承魔術の《眠りの霧》を発動する。

 詠唱の呪文は特に覚えていたわけでも無いのだけれど、実際にそのスペルを使おうと意識すれば、自然と頭の中へ詠唱に必要な文章が出てくるようだ。

 《眠りの霧》は範囲スペルなので両方の魔物を一度に巻き込むことができる。突如空間に沸いて溢れた白い霧が2匹のウリッゴ達を包み込み、すぐに晴れた。ウリッゴ達のうち1匹が力なく前足を挫き、その場で眠りに落ちる。


『シグレ、ナイスッ!』


 眠りに抵抗したもう1匹のウリッゴを、カエデの槍が貫いた。ウリッゴの皮膚から激しい鮮血が舞うと共に、その頭上に表示されたHPのバーが一気に4割近く削られる。

 痛みに激しいうなり声を上げながら、ウリッゴはカエデに牙を突き立てようとする。カエデは上手く身体を反らして躱しているようだけれど、彼女のHPバーも僅かにだけ減少した。


「破ッ!」

「―――《魔力矢》!」


 カエデが槍を振るうのに合わせて、そのまま杖装備で使用可能な伝承術師の攻撃スペルを放つ。無詠唱でシグレの杖の先端から放たれた2本の青白い矢が、両方とも違わずにウリッゴの身体を貫いた。

 僅かに残ったウリッゴの体力も、三度目のカエデの槍撃を受けて潰える。魔物の身体がキラキラと輝く光の粒子となって空間に溶け消え去り、シグレのインベントリに倒した魔物から獲得したと思わしき素材が勝手に入ってきたのが判った。


『眠ってるのほうは、私に先に攻撃させて!』

『判りました』


 カエデとの距離が離れていても、〝念話〟は頭の中にするりと言葉が入り込んでくるお陰で聞き逃してしまう心配が無くて良い。

 眠っているウリッゴに対してまさに放とうとしていたスペルを慌てて押し留めて、カエデの攻撃に合わせていつでも発動できるように準備する。


「はああッ―――《重牙》!」


 《重牙》と言うのは、いわゆる〝溜め攻撃〟のようなスキルであるらしい。眠っているウリッゴの前で槍を大きく振りかぶったカエデは、溜め込んだ力と共に一気にその魔物の身体を貫く。

 獣の鮮烈な叫び声が響き、ウリッゴのHPバーは半分以上が一気に奪われる。溜めの動作を必要とする隙の多い攻撃であるだけに、《重牙》の攻撃威力はかなり高いものであるようだ。


「―――《衝撃波》!」


 そのウリッゴの身体に、シグレは杖装備のままスペルを撃ち込む。聖職者のスペル《衝撃波》が、槍に貫かれ痛烈な哭き声を上げたウリッゴに容赦無い追撃を加える。

 カエデに向けて反撃の牙を突き立てようとしていた動作が阻害され、ウリッゴの身体は衝撃波に弾かれて一気に5メートル以上は後方に吹き飛ばされた。


「……!!」


 シグレの意図を察したのだろう。カエデはすぐに反応し、吹き飛ばされて距離が離れた魔物に対して瞬時に駆足を始める。

 弾き飛ばされ、転倒した身体をすぐに起こしたウリッゴは、次の足踏みを始める間さえ与えられない儘にカエデの鋭い《突撃》による追撃に穿たれ、鮮血と共に光の粒子へと化した。

お読み下さり、ありがとうございました。


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文字数(空白・改行含む):3837字

文字数(空白・改行含まない):3701字

行数:101

400字詰め原稿用紙:約10枚

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