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(改稿前版)リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
6章 - 《遠き世界のエトランゼ》

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108. 競売

 フェロン宮殿。展示即売が行われている場所とは別の広間で、〝杖益会〟のオークションは執り行われるようだった。

 というか時間的には既に開始してしまっているようで、露店に没頭する余りに衛兵の方がオークションのリストを配布していることにシグレ達が気付いたのは、どうやら少し経ってからのことであったらしい。

 シグレもアヤメも展示即売のほうは既にあらかた見回ってしまったので、特に買いたい物があるわけではないがオークション会場の広間へと移動することにした。いつかは出品側に回ることもあるかもしれないし、見ておくのも良いだろうと思ってのことだ。


「モルクの奴は、既にオークション会場のほうに居るそうじゃ」

「では、自分たちもそちらに合流しますか」

「うむ」


 シグレが出品リストの最終ページに記された会場の地図を参照しながら移動している間に、アヤメはモルクさんと念話でやりとりして確認してくれていたらしい。つくづく気の回る女性だ、とシグレは感心させられる。

 地図を頼りにオークション会場側の広間へと入場すると、そこは先程の展示即売の広間よりも少し手狭で薄暗かった。奥のほうにはライトアップされた簡易のステージが設けられ、競売人の方が何か拡声器のような導具を用いて広間中に声を響かせながら、出品されている商品について色々と説明をしている様子だった。

 なまじ薄暗い広間の中でステージ上のみ明るいだけに、対照的にステージ以外の部分はどうにも見通しにくいが。どうやら会場内の客は各々が大小のテーブルに着き、飲み物などを楽しみながらオークションを楽しむことができるらしい。


「失礼。わらわ達はスコーネ卿の連れ合いでな、案内してくれるか」

「承知致しました、ご案内致します。暗いので足下にお気を付け下さい」


 シグレがどうしたものか迷っていると、アヤメは手近な衛兵を一人呼びつけて早々に話を纏めてくれた。

 暗闇の中で僅かにぼんやりと光る、不思議な鎧を身につけた衛兵の人に付き従って歩いて行くと、ほどなくひとつのテーブルへと案内される。そこには確かにスコーネ夫妻の姿があった。


「案内、ありがとうございます」

「役目ですので、気になさらず。何かお飲み物の注文は御座いますか?」

「わらわには茶を、シグレには珈琲を頼む。どちらも熱いのをな」

「承りました。少々お待ち下さい」


 シグレが衛兵の方に礼を言っている間に、アヤメは手早く飲み物の注文までもを済ませてくれる。

 不慣れな場の中であっても、率先してアヤメが気を回してくれるお陰で、随分と助けられているなと思った。


「どうだシグレ、楽しめているか?」

「お陰様で、有難く楽しませて貰っています。展示即売のほうでも、色々と有益な買い物をすることができましたし」

「そうか、それなら私も誘った甲斐があった。オークションのほうは少々残念ではあったが……また次の機会にも誘うから、良ければ懲りずに参加してくれ」

「ありがとうございます。自分でも宜しければ、是非に」


 目当てのものが無かったのは実際残念ではあるが、今回の参加を通じてシグレにはそれ以上の収穫を得ることができた実感があった。誘って下さったモルクさんには、ただ感謝するばかりだ。

 次回もまた誘って頂けるなら、是非とも参加したい。願わくばその際には、またアヤメが隣に居て下さると有難いものだが。繁盛している店を抱えて忙しい身であるようだし、こればかりは彼女の都合次第だろうか。


「―――して、モルクはこの商品では競るのかの?」

「無論、金に糸目はつけん」


 衛兵の方が席まで届けてくれた、熱い珈琲に口をつけながらステージ上を見遣ってみると、どうやら次の商品は西方の遠国から取り寄せた珍しい酒のセットであるらしい。

 以前、モルクさんは共に地下宮殿を探索する折に交わした雑談の中で、酒には人一倍目が無いようなことを言っていたように思う。こちらの世界では現代に比べて輸送面では苦労する部分も多いだろうし、遠方から運ばれた貴重な酒となれば、それだけで充分に魅力的な商品だろう。

 競りが始まるとモルクさんは席から立ち上がり、入場証代わりにとシグレに手渡した短杖と同じ物を高く掲げる。すると短杖は、あたかも《発光》のスペルを掛けたかのように暗闇の中で光を発し始めた。


「この杖は〝光れ〟と念じれば光を放つ。ま、一種のマジックアイテムじゃな」


 アヤメが小声で、シグレにそのことを教えてくれる。見渡せば広間中に光る杖を掲げた人の姿が散在しているのを見確かめることができ、そこに現在の競りへ参加している者が居ることを示しているのだと理解出来た。

 競売者が5千gitaから7千gitaへ、1万gitaから1万5千gitaへと徐々に金額を釣り上げて行くに従い、広間に点在していた杖の燦めきは確実に失われていく。どうやら競りから降りた人は灯りを消すルールになっているらしく、競売者の方が6万gitaと口にした段階でとうとう広間内で点灯しているのはモルクさんの杖ただひとつだけになった。

 点灯者がひとりだけになり、落札が確定した旨を競売者の方が告げると、会場内からはモルクさんに向けて暫しの拍手が集まった。

 とはいえ周囲の人達からは点灯している杖以外は見えないだろうから、その拍手はおそらく落札したのが誰なのか判らないままに寄せられたものだろう。

 〝杖益会〟には二国の中枢を担う人達が自然と集まるから、地位の高い人達に遠慮していては競りそのものが歪になりかねない。こうして暗闇の中でオークションを行うのは、相手が誰であるのかを気にせずに参加者が競ることができ、また誰が落札したのか判らないようにする一種のシステムということなのだろう。


「……ふふ、今晩の晩酌が楽しみだ。良ければシグレも付き合わんか?」

「いえ、生憎とまだ自分は片手に数えられるほどしか酒を嗜んだことがありませんから、遠慮します。良い酒ということであれば尚更、酒を好み味が判る方と共に飲むべきでしょう」

「ふむ、残念だがそれも尤もか……。ではシグレと差し飲むのは、君が酒に慣れた頃の楽しみに取っておくとしよう」


 落札した品は今すぐ受け取ることもできるし、オークション終了後に受け取ることもできるらしい。誰が落札したかは近くの衛兵が記録しているから、違えることは無いようだ。

 オークションは暗闇の中でそれから後も粛々と進行する。戦闘などで使えそうな実用品の類もそれなりに出品はあるのだが、参加者に貴族や騎士の方が多いからなのか、やはり剣や甲冑などの出物が多いようだ。


(杖とかの出品があればいいんだけどなあ……)


 オークションのリストには先程目を通しているのだが、自分の求める品が無いことだけしかはっきりとは確認しておらず、具体的にどういった商品が出るのかは殆ど覚えていない。だから、シグレに使えそうな装備品の出品が無いとも限らないのだが……この分だと、それもあまり期待できないだろうか。

 なまじ〝練魔の笛籐〟という優秀な弓だけを手に入れてしまったせいで、シグレの装備品には統一性という物が全く無く、他にはただの木製の杖であったり防護性能も殆ど無い服であったりと、その格差は甚だしい物がある。

 ―――何か良い装備品の出物でもあれば良いのだが。

 暗闇の中では文字を読むことも儘ならない。出品リストを改めて確認する為には、一度会場を出る必要があるだろう。

 折角なのでオークション自体を楽しむつもりで、進行に伴いひとつずつステージに取り出される商品を見確かめながら、しかしどれも自分には利用できそうに無いものばかりが扱われ、シグレはその都度に落胆を繰り返すのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。


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文字数(空白・改行含む):3174字

文字数(空白・改行含まない):3085字

行数:63

400字詰め原稿用紙:約8枚

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