名も無い友情
スマートフォンからの投稿のため段落がついていません
本当にそれは偶然で、偶然以外には何もなくて
だけれど、ある意味必然だったのかもしれない。
こうして、目の前に君の姿を見つけて。
こうして、もう一度君に会えて。
もう終わったはずの一ページが繋がったんだ。
「なんだ……お前たち……」
まさかここに人がいる訳がない。
そう思っていたからこそ漏れた本音の一言。
かすれるように出た声に部屋の中にいた二人はびくりと体を震わせた。
「だ、だれ!?」
部屋の奥で座っていたのは制服姿の女子と男子だった。
声を張り上げたのは女子で男子の方にくっつくようにしてこちらを凝視している。
その制服は明らかにここの学校とは違う制服でましてや今は夜だ。
普通に考えてこの現状は普通じゃない。
「まぁ、誰と聞かれて名乗れるものでもないけど…一応ここの生徒だけど」
相手は不審者だ。
制服をきていても不法侵入してるのだからそんな輩に名前を律儀に教える必要もないだろう。
というかむしろ
「僕も不法侵入なのだけど」
ぽつりとつぶやいた。
「へ?」
抜けた声が届いた。
まぁ、現段階ではどうもまとまりがない。
とりあえず整理してみよう。
僕はいつものようによる家を抜け出しいつものように学校にやってきた。
学校の裏手にある旧校舎は使われていないため警備のレベルもかなり低いことから、いつもそこを夜の遊び場に設定していたのだ。
遊び場と言ってもたいしたことではなく、僕がただ落ち着いていれる場所というだけで。
鍵はもちろんかかっているが、窓が壊れてるためそこから入れるし、そしていつものように二階の用具室に入ると……
「君たちがいたわけだ」
大声を出してしまわなかっただけたいしたものだと思って欲しい。
「私たちも昔からここを使っていたのよ」
「僕と鉢合わせしなかっただけか」
巡り巡ってこうなったわけだ。
「それで君たち二人はどういった関係でどういった理由でここにいるんだよ」
用具室に無造作に積み上げられている机に座りながら向かいの地面にくっついて座る二人に言う。
「別にたいしたことじゃないわよ。こういうところ秘密基地みたいですごくワクワクするじゃない」
どうでもいい理由だった。
「それで男の君は振り回されてる感じ?」
「まぁ、そうなるんじゃないかな、いや。俺から進んで一緒にいるのも確かだけど」
「ふーん、まぁ要するに君たち二人は恋人同士なわけだ」
二人でいれる愛の巣が欲しかったというのが妥当なところだろうか。
「……へ?」
これまた小さな声だった。
声を出した女子の顔をみると暗い部屋でもわかるほど口をワナワナさせながら目を見開いている。
なんだ、妖怪でも憑依したのか。
「つ、つつつつつきあってるわけないでしょ!?」
「落ち着けよ」
もう付き合ってますと顔に出ている。
「俺たちは付き合ってねぇよ」
すると男子の方から助け舟が出た。
「俺たちは兄妹だ」
……まじかよ。
こういった風に僕たちの邂逅は終わった。
お互い名前も知らなくて
制服もどこのかわからなくて
だけれど、自然と毎週土曜の夜、この用具室に集まった。
三人で話し三人で笑い
全員が「君、あなた、お前」その代名詞だけで呼び合い、だけれどそれが誰のことなのかすぐにわかって、
一生涯の友達というのはこういうものなのかもしれない。
名前も知らない二人のことをそういう風に少なからず思っていたことは否定しない。
でも
それもずっと続くわけがなかった。
「旧校舎が取り壊しになるそうだ」
「あー、ついにかぁ」
僕の言葉に二人は前からわかっていたかのように頷いた。
覚悟、していたことなのだろう。
「もう集まれなくなるな」
男子の言葉に僕はすぐに切り返した。
「また会おう、連絡先交換してさ」
自然と出た言葉だった。
僕はこの二人とまだ、一緒にいたかった。
「ダメだな。俺たちはこの用具室で出会って今までずっと名前も言わず接してきた。そしてこの用具室が消える。なら俺たちもこの用具室を最後に別れるべきなんだ」
反対も何も、たくさんしたけれど
どうにもならなくて
最後にいつの間にか恒例となった、彼女が作った僕たちの合言葉
「名の無い友情」はここで終わり、
僕たちは別れ、旧校舎が取り壊されてから会うことはもうなかった。
僕とあいつらの物語は打ち切り御免となってしまったのだ。
その、女子が……
その彼女が、そこにいた。
あれから数年たった僕の目の前に、駅前のベンチに腰掛けている彼女を見つけた。
人違いかもしれない。顔が似ているだけだ。今までずっと会えなかったのにここで出会えるわけがない。
そう思っているのに、動き出す足は止まらなかった。
「あ、あの!」
「へ?」
ベンチに座ってる彼女に近づき声をかけた。
返ってきた彼女の返事は懐かしいあの頃の素っ頓狂な声に似ていた。
「あ、えっと、その……」
言葉が出ない。手が震える、体が震える。逃げ出したい。今すぐすいませんと言って走り出したい。
紡げ!
声を出せ!
僕はここにいる!
「一緒に食事でもいきませんか!」
ひどくカチカチで、ひどく滑稽に見えただろう。
なれない奴がナンパしている。そんな光景に見えただろう。
現に彼女は目を見開いて僕をみながらあわあわと口を動かしテンパっている。
その様子があまりにも彼女に似ていた。
「……あ、えっと……その」
返事が返って来ない。
なんとか、なにか言わなければ、あの用具室でのことを話せばわかってくれるかもしれない。
思い出せ!
僕たちの思い出を……。
「あ……」
彼女が声を漏らした。
その声に慌てて僕が彼女を見ると彼女は慌てながらバッグからハンカチを取り出し、僕の頬に当てた。
意味がわからず戸惑う僕に彼女は
「なんで泣いてるのよ」
そういった。
まるで、前から僕の知り合いのように。
まるで、前から僕を知っていたかのように。
あまりにも自然にあまりにも軽やかに。
あまりにも、彼女は
「あなたが、泣いたら……私までないてしまうじゃ無い……」
あの頃のままで。
「名の無い友情……」
彼女の呟きに僕は
「また用具室に……」
僕は、今度こそしっかりと返せた。
合言葉のキーを。
涙でお互い声がぐしゃぐしゃだったけれど
抱きしめあったそこには、しっかりと「友情」があって
僕たちの物語は再開して
一ページが繋がれた。