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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
偶然は集いて
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第七話 矛盾 + 理由 = 強張る身体




「次は俺の話をするか。」


「恋バナはもういいよ……」


「違うわっ!!」


うん、分かってました。ちょっと言ってみただけ。


大きな溜め息をついてから、ガイが語り始めた。


「俺もお前とおんなじ様なもんだ。用があるからって、勝手に喚び出され、戦いを強要された。でも、結局俺がしたことは、俺を喚んだやつの自己満足なだけで、滅びに向かう世界は変わらなかった。

まあ、当たり前だよな。ほんの数人が頑張った所で世界は変わらないんだ。」


「じゃあ。」


「ああ、ゲームじゃないからリセットも出来ない。バッドエンドだ。俺を喚んだ奴がもう手遅れだからって、せめて俺だけは還すからって、儀式をやったんだ。んで、気がついたらあそこにいた。」


もうひとつ、溜め息をつき、ガイは呟く。


「勝手に喚んでおいて、勝手に幸せになれなんて。本当、勝手だよな…」


その皮肉気な一言で、何となく分かってしまった。ガイはまだちゃんと『その世界』での出来事を話せていない。話せない。


でもきっと。ガイは還りたくは無かったんだ……。




私にも身に覚えがある感情。


私達は、勝手に喚び出された。

そして、その世界の事情に巻き込まれた。

でも、その世界に『馴染む』ことは出来ても、『溶け込む』ことは出来ない。

それは私達がその世界にとっての異端だから。



『喚ばれた』のに『入り込む』事は出来ない。

『求められた』のに『留まる』事は出来ない。

『別離』の為の、『邂逅』。

この『矛盾』は何と呼べば良い?



動き、選び、感じ。

駆け抜けた先にあったこの虚しさ。寂しさ、やるせなさ。

欲しかったのは感謝じゃない。

きっと、共に苦しみを背負える、『居場所』だったのかもしれない。



私の中にある、沢山の言葉。

でも、今、ガイには伝えられない。

今はまだ、私にも。





「では次は拙者が。」


沈み込む様な、雰囲気を感じながら、敢えてラムゼイは話を始めた。


「拙者は望んで世界を渡って来たで御座る。」


「望んで?」


「左様。拙者には兄が居るのだが、ある日突然、兄は『世界』から消えたので御座る。」


「じゃあ、もしかして……」


「恐らく。お二方の様に『喚ばれた』らしいので御座る。元々そういう家系故。ただ兄は一族の中で最も魔力が強く、それだけではなく、『術』や、様々な知識に秀でており、拙者の世界では兄は『青龍の賢者』たる称号を保持していたので御座る。

一族の大老の占術によると、この世界で兄の手掛かりを得ることが出来る事が判明したため、兄に次ぐ魔力を持った拙者が世界を渡り、この地へ来たので御座る。兄を喪うことは我が一族、延いては世界の損失になるが故に。」


……いや、真面目な話なんだが、語尾の「御座る」が、うざい……

ってか、侍口調で魔術師だとっ!!


変な所に気をとられていた私を余所に、ガイはラムゼイのお兄さんに興味を示した様だ。


「お前の兄貴もそんな声で、そんな喋り方なんか?」


って、まずそこを聞くんかい。

……気になるけど。


「いや、拙者は一族でも、珍しき生来の『響声』の『謳手』なので、こんな声なので御座る。」


「んー?」


ガイは全く理解出来てない。


「つまり、生まれつきの『声』が重要なの?」


「その通りで御座る。『声』によって、『世界』に働き掛けるので、『声』の質によって術の使い方、効果、得手不得手など全てが異なるので御座る。」


「お前の兄貴は?」


「兄は『刻声』の持ち主で御座る。」


「へえ、で、どんな声?」


「……表現しようにも、難し過ぎるで御座る。」


そりゃ、そうだ。一人一人の声は違う。

所謂、『声紋』って言う概念に近い、のか?



「それより、身体的にはどんな特徴なの?」


見た目で分かりやすければ、探しやすいし。


「そうで御座るな、変わっていなければ、背はだいたいガイ殿と同じくらいで、ガイ殿より少し痩せているで御座る。」


ガイは割りとマッチョだから、細マッチョくらい?


「髪と目は拙者と同じ、『優男』と称されていたで御座る。」


「おい、御座る、それは誉め言葉じゃねえ。」


「拙者は御座る、ではなくてラムゼイで御座る。」


うん、まあそう呼びたくなる気持ちは分かる。

あれ、そう言えば何でその話し方なんだ?

非常に気になるポイント聞き逃した!

内心、かなり悔恨に襲われていたが、話は先に進んでいく。


「んな細かいこと、良いから、他は?」


「……細かくはないので御座るが……兄は博識で魔術以外の自称にも造形が深く、アクセサリー作りが趣味で……」


「いや、その情報じゃ見ても分からん!」


だよねえ。話して趣味まで聞く時間あるなら「ラムゼイっていう特殊な声で特殊な話し方する弟居ませんか?」って聞いた方が早いし。


あ、そうだ。


「何歳なの?」


「同じ時間の早さの場所にいるのなら28であるはずで御座る。」


そうか、元の世界と時間の進む早さが同じとは限らないのか。


「てか、御座る。お前は何歳だ?」


ニックネーム『御座る』確定?


「拙者は今年で25歳で御座る。」


「うわ、見えねぇ。……老け顔だな。」


「失敬な!」


目を閉じれば、ウィーン少年合唱団の歌声の様な美声なんだけどねえ。ギャップすごいわ。


老け顔で、185センチ以上の大男が、小鳥が囀ずる様な美声で侍口調で魔術師……既成概念と、悉く反する存在だな、ラムゼイよ。


お、脱線してるじゃん。


「話、ズレてるよ。」


私も思考で脱線してたけど。


「そうだった。そういや、名前は?」


「兄のなまっ!『ツェリィ!!』」


「え」と続く筈の言葉は、聞き慣れない『音』に突然取って変わった。

キンッ、と高い音が後ろから響いたが、振り向けない。


『声』が『音』に変わる直前、鈍い衝撃が身体を襲い、咄嗟に身体を硬直させる。

辛うじて目を開けたままでいられたのは、前の『世界』での経験の賜物だろう。

衝撃の正体は、ガイが私を横から抱え込み、そのままベットから飛び出した時のものだった。

そのままガイは私ごと、宙で身体を反転させ、立ち上がったラムゼイの隣へ、片膝を着いて着地する。

私はガイの立てた膝の上に横座りしており、上半身にはガイの左腕がしっかりと巻き付いて固定されている。

右手には抜き放たれた、あのナイフが構えられている。



ベットの向こうにある窓から真っ黒い翼が4枚もある首の長い鳥が滅茶苦茶に暴れているのが見える。

どうやらラムゼイの『術』か何かで私たちは護られた様だ。


悲鳴と、破壊音が聞こえる。


身体が強張り、息が詰まる。

ガイは思いの外、優しく私を降ろし、左手で私の頭をぽん、と撫でる。

「ここにいろ。」

見上げたガイの顔は、外を向いており、その表情は厳しい。


「行くぞ!」

「承知!」


言うが早いか、二人とも窓を叩き開け、外へ飛び出す。


私は床に座り込んだまま、動けなかった。










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