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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
選択を促し、
47/48

第四十話 戦うと、決めた + ハッタリ = 残された言葉




真っ白な鎧を纏った男と対峙している。

お互いの距離は3メートルあるかないか。相手が剣を構えている事に、自分が人間相手に剣を向けている事に、ひどく緊張する。


口が、渇く。


「どうした?来ないのか?」


相手は確実に私の迷いを、恐怖を感じ取っている。


ウォンッ!


シロがそんな私を叱咤する様に吠える。


ああ、そうだ。私は自分で戦うと、決めたじゃないか。

スレインがいなくとも、一人になっても。


ゆっくりと、息を吐く。


力が入り過ぎた身体を意識して、緩める。


「脅えてるのか?女なんてその程度だろ!」


頭の芯が冷え、多面的な思考が展開する。


疑問、何故必要以上に挑発されるのか?

解答、早くに決着をつけたい。もしくは、仲間から距離をとらせたい。または実力を計りたい。


疑問、相手の力量は?

解答、自分以上、ガイ未満。


疑問、現在の状況は?

解答、ガイ、セイレンは火蜥蜴と交戦中。ソーマは援護の為に『詠唱』中。『聞こえた』感じでは後3分以内に『発動』か。


疑問、これからどうすれば良いか。

解答、シロのサポートを受けながら、向こうの戦闘の終了まで守りに徹する。ただし、その場合確実に相手を捕縛、もしくは殺害しないとこちらの情報が『神殿』に漏れる。


以上。


ほぼ、全てを同時に思考したので数秒かかってないだろう。


よし、死なない程度に頑張ろう!!


徐に正眼に構えていた剣を、鞘に納めて見せる。

そのまま、身体を少し身体を開き腰を落とす。左手は鞘を、右手は柄に触れるだけに留める。


「なんだ、止めるのか!その程度か!」


私が何をしようとしているのか分からないのだろう。なんか次から次へと罵声を浴びせてくるが、動かない。


集中を、絶やさず。


焦る必要は、無い。


抜刀術もどきの構えを取るが、『この世界』には似たようなものが無いのだろう、見たことの無い相手の様子に緊張を強めている。

そりゃ、正体不明な相手ほど怖いものはない。戦闘を出来るなら避けたいと感じる筈だ。……多分……。


まあ、抜刀術なんて、『前の世界』での『神剣』使わなきゃまず出来ないんだけどね。

やったことなんて、ほとんどないし。


つまり、ハッタリです。


相手の焦りが見えるので、ちょっと胸がすく思いだ。

こちとら伊達に『前の世界』で『勇者』やってた訳じゃない。「命を掛けた」ハッタリだって何回もやってきた。


……何故かシロの私を見る目が冷たく見えるんだけど……。


止めは一言で充分。


「さあ?どうする?」



相手は意味不明な私を警戒してジリジリと横に動く。逃げるのだろうか?

その時、



ギャアッ!!



断末魔の叫び声が当たりに響き渡る。


どうやら火蜥蜴を倒したらしい。その声に気を取られた一瞬、背後から飛んできた剣に男の右肩が貫かれる。しかしまだ、倒れない。


うおっ!びっくりした!


ポーカーフェイスで驚いていると、


「千歳!」


ガイがこっちに走り寄って来るのを微かに捉える。

次の瞬間、ソーマによって放たれた魔力が男に当たり、男が吹っ飛び、後ろの木に激突する。手順を途中で飛ばしたのだろう、なんの属性も持たない純粋な魔力が向かった様だ。


倒れた男は、顔だけ起こしてニヤリと笑い、


「 、 、 、 。」


小さく一言呟いた後、無事な左腕で取り出した何かを握り潰す。その直後、目を覆うような光量の光が爆発し、光と共に男は消え、刺さっていた筈の剣だけが残った。


「無事かっ!」


左腕を痛いほどガイに捕まれる。シロも足元に纏わりついてくる。


「うん、大丈夫。」


剣を回収して鞘に納めているセイレンと、無理な魔法を放ってバテているソーマには分からない様に、小さく呟く。


「あの男、最後に『みつけた』って言った。」

「ああ、みたいだな。聞こえた。」

「嘘っ!どんだけ耳良いのっ!?」



思わず叫んだ私に罪はない、きっと。



足元で、シロが溜め息をついたかの様に見えた……。





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