第四十話 戦うと、決めた + ハッタリ = 残された言葉
真っ白な鎧を纏った男と対峙している。
お互いの距離は3メートルあるかないか。相手が剣を構えている事に、自分が人間相手に剣を向けている事に、ひどく緊張する。
口が、渇く。
「どうした?来ないのか?」
相手は確実に私の迷いを、恐怖を感じ取っている。
ウォンッ!
シロがそんな私を叱咤する様に吠える。
ああ、そうだ。私は自分で戦うと、決めたじゃないか。
スレインがいなくとも、一人になっても。
ゆっくりと、息を吐く。
力が入り過ぎた身体を意識して、緩める。
「脅えてるのか?女なんてその程度だろ!」
頭の芯が冷え、多面的な思考が展開する。
疑問、何故必要以上に挑発されるのか?
解答、早くに決着をつけたい。もしくは、仲間から距離をとらせたい。または実力を計りたい。
疑問、相手の力量は?
解答、自分以上、ガイ未満。
疑問、現在の状況は?
解答、ガイ、セイレンは火蜥蜴と交戦中。ソーマは援護の為に『詠唱』中。『聞こえた』感じでは後3分以内に『発動』か。
疑問、これからどうすれば良いか。
解答、シロのサポートを受けながら、向こうの戦闘の終了まで守りに徹する。ただし、その場合確実に相手を捕縛、もしくは殺害しないとこちらの情報が『神殿』に漏れる。
以上。
ほぼ、全てを同時に思考したので数秒かかってないだろう。
よし、死なない程度に頑張ろう!!
徐に正眼に構えていた剣を、鞘に納めて見せる。
そのまま、身体を少し身体を開き腰を落とす。左手は鞘を、右手は柄に触れるだけに留める。
「なんだ、止めるのか!その程度か!」
私が何をしようとしているのか分からないのだろう。なんか次から次へと罵声を浴びせてくるが、動かない。
集中を、絶やさず。
焦る必要は、無い。
抜刀術もどきの構えを取るが、『この世界』には似たようなものが無いのだろう、見たことの無い相手の様子に緊張を強めている。
そりゃ、正体不明な相手ほど怖いものはない。戦闘を出来るなら避けたいと感じる筈だ。……多分……。
まあ、抜刀術なんて、『前の世界』での『神剣』使わなきゃまず出来ないんだけどね。
やったことなんて、ほとんどないし。
つまり、ハッタリです。
相手の焦りが見えるので、ちょっと胸がすく思いだ。
こちとら伊達に『前の世界』で『勇者』やってた訳じゃない。「命を掛けた」ハッタリだって何回もやってきた。
……何故かシロの私を見る目が冷たく見えるんだけど……。
止めは一言で充分。
「さあ?どうする?」
相手は意味不明な私を警戒してジリジリと横に動く。逃げるのだろうか?
その時、
ギャアッ!!
断末魔の叫び声が当たりに響き渡る。
どうやら火蜥蜴を倒したらしい。その声に気を取られた一瞬、背後から飛んできた剣に男の右肩が貫かれる。しかしまだ、倒れない。
うおっ!びっくりした!
ポーカーフェイスで驚いていると、
「千歳!」
ガイがこっちに走り寄って来るのを微かに捉える。
次の瞬間、ソーマによって放たれた魔力が男に当たり、男が吹っ飛び、後ろの木に激突する。手順を途中で飛ばしたのだろう、なんの属性も持たない純粋な魔力が向かった様だ。
倒れた男は、顔だけ起こしてニヤリと笑い、
「 、 、 、 。」
小さく一言呟いた後、無事な左腕で取り出した何かを握り潰す。その直後、目を覆うような光量の光が爆発し、光と共に男は消え、刺さっていた筈の剣だけが残った。
「無事かっ!」
左腕を痛いほどガイに捕まれる。シロも足元に纏わりついてくる。
「うん、大丈夫。」
剣を回収して鞘に納めているセイレンと、無理な魔法を放ってバテているソーマには分からない様に、小さく呟く。
「あの男、最後に『みつけた』って言った。」
「ああ、みたいだな。聞こえた。」
「嘘っ!どんだけ耳良いのっ!?」
思わず叫んだ私に罪はない、きっと。
足元で、シロが溜め息をついたかの様に見えた……。




