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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
偶然は集いて
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第三話 静寂 + 塩 = 大騒動




森を越えたところにある村らしきとこへ行くことになったが、少し話し合った結果、森を迂回して行くことにした。

最短は森を突っ切る事だが、あの鳥みたいのが大量にいる可能性がある。何回もやり合うには不安が残る、主に自分の。

時間を、かけてでも迂回して行った方が安全……だといいな……

幸い体力的にはまだ余裕があるから一晩なら徹夜で歩き続けられそうだ。召喚される前から持久力だけはあったし、異世界での旅は『世界の補助』があったとしても、甘やかされはしなかったし、更に体力をつけるにはもってこいのハードさだった。


そう言えば、なんであんなに空腹だったんだろう。『帰還の儀式』の前に最後の食事をしっかり食べたはずなのに。


まるで記憶にないが数時間を過ごしたかの様な……


「おい。」


考え込みながら歩いていると、前を行く彼が変な顔をしながら、話し掛けてくる。


「こっちでいいのか?」


「あぁ。」


太陽?の位置を確認しながら返事をすると、ますます変な顔をされる。


「なんだ?」


「あー、足元気を付けろよ。」


明らかに変な顔の原因となる内容ではない。

まあ、用があんなら向こうから言ってくるだろ。


森の中は鬱蒼としていたが、今、通ってるのは森の端の小道だ。森自体はさほど大きくはないのは上から見て確認している。

思っていたより道は踏み均されていて歩くのには全く問題ない。問題があるとすれば、左隣に続く森から何か出てこないかという事くらいだ。

今のところは何も出てくる気配はない、が。


「なあ、」


「なんだ?」


「静か過ぎねぇ?」


少し険しい顔をして聞かれる。

そうなのだ。自分も同じことを考えていた。

緑豊かな森なのに鳥のさえずりどころか虫の音も聞こえない。たまに吹く風に枝が揺らされている音だけしか聞こえない。

道を歩いてるのに人にも会わない。夜ではないのに(多分)。

近くに村があるのに、人の姿も全く見えないなんて明らかに異様だ。


「……取り敢えず、早く村まで行くしかないだろ。」


そうとしか言えない。



目の前には、小さな村には少し不釣り合いなほどしっかりとした石垣の様なものがある。その石垣はちょうど自分の身長と同じくらいの高さがあり、中には木造の質素な家が何軒か見ることが出来る。


出発してから、だいたい3時間くらいは休みなく歩き続けただろうか。想定していたよりも早く村まで来ることができた。道はそこそこ歩きやすく、あの鳥擬きの襲撃がなかったのも幸いした。


しかしあのデカイ鳥擬きを肩に担いで、休みなくサクサク歩けるんだから凄いもんだ。どんな筋力してるんだ、羨ましい。


…服脱いだら触らせてもらおうかな……


じっと彼の二の腕を見ながら感心していると、頭の上から声がかかる。


「おい。」


「ん?」


顔を上げると、またしても変な顔をしている。

何か言われるのかと思って、そのまま目を見て

ると、溜め息をひとつ付かれる。


「……で、どうすんだ?、入るのか?」


促されて見れば、村の中には人影が全くない。しかし気配だけはある。

まるで村全体が息を潜めているみたいだ。


流石にこれはちょっと異常だろう。

難しいところだ。


「んー、どう思う?」


自分の意見を頭の中でまとめてから、敢えて聞いてみる。


「あんまいい雰囲気じゃねぇが、入ってみなきゃ始まらないかもな。」


「そうだな。しかも外に出ない理由を知らないまま歩き回るのも危険かもしれない。そのまま素通りしても、別の村に行くまでにトラブる可能性も高いかも。

命の危険があるかもしれないから、ここの村の石垣はここまでしっかりしてるんじゃないのかな。」


コンコンと、石垣を軽く叩きながら、まとめておいた、自分なりの意見を伝えると、少し意外そうな顔をされる。


「なんだよ。」


ちょっと居心地が悪くなって、聞いてみると、ニヤニヤしながら


「お前、ちゃんと話せるのな。」


とからかわれる。


「うっせ。」


警戒心を緩め始めてるのがバレバレで恥ずかしくなってきた。軽く胸をごついてやると、手にしている指輪がきらりと光った。まるでアイツにまで笑われているようで思わず苦笑いが浮かぶ。

物思いにふける前に、


「んじゃ、入るとしますか。」


と、さっさと歩き始められ、慌ててその背中を追いかける。





「本当に人どころか生き物一匹いねえなあ。」


余りにも人がいなさすぎて、なんだか妙に現実感がない。作り物めいた景色に思わず、息をのむ。


彼は気味悪いとばかりにスタスタ歩き、しっかりと扉が閉まっている少し大きめなまるで宿屋の様な家の前まで行き、ドンドンと軽くノックする。


「おーい、いないのか?」


自分は数歩後ろから、二階部分に感じる気配に警戒する。上から物を落とされたら危険だ。

明らかにこちらを伺う視線を幾つも感じて気味が悪い。


「旅してんだけど、なんか食いもん分けてくれないかー?」


彼もこの視線には気がついているだろうに、全く気にせず、ドアをノックし続ける。


「これ捕ったんだけど、塩がなくて焼けねぇんだー、ちょっとわけてくれよー」


……焼き鳥どんだけ食べたいんだよ……


ちょっと呆れながら、鳥の死体振り回すのは逆効果なんじゃないか、むしろ森の守り神とかだったらどうすんだ、と止めようとした時、


バタンッ!!


と、けたたましい音を立てて、背後の家から人が飛び出してくる。

壮齢の男性だ。第一村人はっけーん。


「お、お前さん、それをどこで!」


「あ、出てきた。塩くれね?焼き鳥にしたいんだ。」


「ちょっと、あんた!危ないから家から出ちゃダメだ!!」


「それより、あの鳥はあの森の!」


「なんで死んでるんだ!!」


第二、第三村人はっけーん、って、お?


なんかわらわらいっぱい出てきたぞ。


「あの森に入ったのか!?」


「よりによってこんな時期に!」


「よく無事だったな!!」


「ってか、塩ー!腹減ってんだよ!!」


あー、なんか収集つかなくなってきたな。おい。

他人事の様に、傍観する。あのカオスの中に入るのは嫌だ。なんか、揉みくちゃにされかけてるし。村人は5人から先は面倒で数えてないけど二桁は悠に超えている。

思ったよりも人がいるな。


んー、どうしよっかなあ。てかあいつも「塩」以外言えばいいのに。


なんて、考えていると、急に周りが暗くなる。

えっ、と驚いていると、自分がすっぽり大きな影に覆われていた。


恐る恐る、振り返ると、そこには自分より遥かに大きい、まさに大男が立っていた……





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