第三十四話 ヤキモチ + お土産 = 確信する
ベッドの上でスレインの胸に頭を乗せる。
そっと目を閉じて、鼓動を聞く。
お互いの体温が混じり合い、緩く息が重なる。
理性が溶けていくのを感じる。
蓋をしていた感情を取り出してそのまま、聞いていみた。
「さっきの人達、誰?」
多分、ネガティブな色が見え見えだったのだろう。スレインが小さく笑うのが、胸の振動から伝わってくる。
「何、ヤキモチ?」
「……うん。」
素直に認めると、スレインの胸が一瞬強ばった。
せっかく気持ち良い揺れだったのに。
規則的な気持ち良さが乱れてしまった事が嫌で、目を開けてスレインを睨む。
目が合った瞬間、がばっと上半身を起こされ、スレインの胸に置いていた頭が落下し、腿にぶつかる。
痛くは無いけどびっくりする。そのまま見上げると、私以上に驚いて唖然とした表情の顔が目に飛び込む。
あれ、この姿勢は膝枕?
男女逆じゃん。
「……。」
スレインが何も言わないので、無言で見つめ合い続ける。なんでそんなに驚いてるんだろう?
何となく、スレインの顔に向かって手を伸ばすと、すぐに右手で掴まれる。
「スレイン?」
「あぁ、うん。」
生返事だけ返されるが、依然として呆けている。
「スレイン?どうしたの?」
「あぁ、いや、……ヤキモチって……。」
「ヤキモチはヤキモチ。スレインに触ってたじゃん、女の人が。」
「え?そうだったか?」
「……にぶーい。」
「……いや、てかそれ以前に、お前は、」
トントン!
ノックで会話が遮られる。
スレインは怪我人なので、私がドアの前まで行って返事を返す。
「はい。」
「俺だよ。」
ドアを開けるとガイとサイとアリアが顔を出す。
今、買い物から帰った様だ。次々と部屋に入ってきて声を掛けてくる。
「お帰り。無事で良かったな。」
「……ああ。」
「お帰りなさい、師匠!」
「……ただいま。」
「おかえりー。あ、チトセ、これお土産ね。」
「うん、ありがとう!」
「休んでるとこ悪かったな。顔だけ見ときたくてさ。」
「師匠、また夕食の時に。」
「チトセも朝からずっと外にいたんだからしっかり休んでね。変態、チトセに何もすんじゃないわよ。」
「……うっせ。」
「ありがとう!じゃあまた後でね。」
「……ああ、後でな。」
言うだけ言って、あっと言う間に皆いなくなる。本当に顔を見に来ただけの様だ。
しっかりと、ドアに施錠すると、空いている方のベッドに戻り、アリアからもらったお土産を開けてみる。
可愛くて柔らかい手拭い、梳、化粧水や日焼け止めみたいなもの、それに替えの下着や服。使い途が分からないのもある。あと、甘そうなお菓子。
……しかし、助かるものばっかだ。さすが同性。痒いところに手が届く感じ!
元々肌が弱くて、日焼けすると痛いと話したのを覚えてくれていた様だ。替えの下着も実は少ししかなくて心許なかったけどこれで安心だ。しかも広げて見ると動きやすそうだがちゃんと可愛い。この街特産のレースがついている。……ちょっと恥ずかしいけど。
これを買うときは荷物持ちのガイはどうしてたんだろう。いたたまれなかっただろうに。
想像してたら、ニヤつきそうになる。
「おい。」
隣から声が掛かる。
スレインは何故かベッドに突っ伏している。隣で下着を広げたのは不味かっただろうか?
何かぶつぶつ言ってるし。
顔だけこっちに向けて、大きく溜め息を吐かれる。
ん?、何だろ?
「……あー、寝るわ。」
「うん、おやすみ。」
「…………おやすみ。」
結局、スレインは何も言わずに目を閉じた。私も寝ておこう。
少し荷物を整理してから私もベッドに横になった。目を閉じる瞬間まで、スレインが見えるのがすごく安心する。
おやすみ、スレイン。
夢も見ない程の深い眠りだった様だ。目を開けると、部屋に射し込んだ夕日が見える。
手足にゆっくりと力を入れてみる。いつもより身体が重たく感じるのは深く寝入ってた所為だろうか。手をにぎにぎして感覚を取り戻す。
ゆっくりと身体を起こすと少し目眩がする。貧血か?
隣を見るとまだスレインは寝ている。疲れているのだろう。
そっと窓から外を見ると、見覚えのある人がこの宿に向かって来る。セネカだ。セネカの隣にはスレインに熱心に話し掛けていた男女が並んでいる。
知り合いなんだろうか。
あまりに見過ぎると目立ちそうなので、そっとカーテンを閉めて、窓に背を向ける。
考えなければいけない事が沢山あるが、今は情報が少な過ぎる。
取り敢えず、夕飯までの僅かな時間を休息に充てる為に、またベッドに潜り込む。隣のスレインのベッドは近いので手が届く。そっと投げだされた手を握ってみる。眠りが浅くなってきたのか手が暖かい。
ほっとする体温だ。
スレインの体温が一番肌に馴染む。
ガイやラムゼイ、サイとも接触した事があるが、スレインは特別だ。
長く一緒に過ごしていたのもあるだろうが、それだけではない。溶け合う感じだ。
しばらくそっと触れていたが、それだけでは物足りなくなってきた。
少し力を籠めてみる。
起きて欲しい様な、起きて欲しく無い様な。
胸の中に相反する気持ちが同居する。
無性に、スレインをもっと感じたくなる。
もっと、沢山、触れたい……。
なんだかうずうずしてきて、どうしようもなくなってくる。
まるで、餓える様な感覚だ。
自分のベッドから降りて、寝ているスレインの横に座る。
よっぽど疲れているのか、まだ起きない。
静かにそっと、手を握ったまま、唇を重ねる。
それでも、まだ足りない。
目を開けたまま、スレインがする様に、舌先でスレインの唇を撫でる。
すると、スレインの目が開き、握っていた手を強く握り返される。反対の手で、離れようとした頭を押さえられる。
「疲れてる時の男を煽ると痛い目にあうぞ。」
寝起きだから、掠れた低い声。
その声を受けて、背中がびくりと震えるのが分かる。
身体が一気に火照る。
「スレイン。」
自分の声が妙に弱い。
ギラついた黄金色に輝く瞳に引き寄せられる。
自分からまた、唇を落とす。
開いたままの目には、近すぎてぼやけているが、驚いた様に目を見開くスレインが見える。
握られていない方の手をスレインの頬に当てる。
熱い。私と一緒だ。
「千歳?」
スレインが戸惑った声で私を呼ぶ。
足りない。スレインが、足りない。
でも、どうして良いのか分からない。
あの恐怖を、嫉妬を、寂しさを。
……埋めて欲しいのに。
「……スレイン。」
理性が崩れ落ちるのを感じる。
私は、感情に支配された。
「お前、極端過ぎるだろ。」
私ごと身体を起こして強く、抱き締められる。
一気に噛みつくような口付けが与えられる。
息が絶え絶えになったところで、漸く唇が離される。
つっ、と銀糸が切れ、その残滓まで舐め取られる。
そのまま額に唇を落とされ、頬に両手を添えられる。
私の頬は、濡れている。
無言のまま、口付けられる。
そっと、そっと。
絶え間なく、零れ落ちる涙に。
何故か、確信する。
別れの時は、近いと。
だから今は、このままで………。




