第ニ話 空腹 + 探索 = エンカウント
戦闘描写あります。
とりあえず、食料を確保しよう、そうしよう。
と言うことで、二人で近くを探索することに。
空腹と相手のペースに負けた…
そこで、現状を確認。
自分も相手も荷物は少量。以上。
目の前の小さな湖は透明度が高く、魚が見え隠れしている。
……食べれるんだろうか……
水はできれば煮沸したい。鍋もなんもないけど。
現代社会で、甘やかされたこの軟弱な胃腸では生水は危険過ぎる。
同じ世界でも、外国に行くだけで生水が飲めないのに、言わんをや、『異世界』……
ちなみに、『勇者』やってた時は、付加能力のお陰で毒すら効きませんでした。まあ薬も効かないってことだけど。
流石に今はまだ大丈夫かどうか挑戦する気にもならない。
魚は内臓とっちゃえばいけるか、なんて、二人で 相談。ちなみに今だけ、暫定的に信用度上げます。
だって空腹時には緊張感保ってられないし、協力した方がより効率的に食料調達出来そうだ。
とりあえず、ハードルが高そうな魚は止めておいて、すぐそばに広がっている森に入って果実を探してみることに。
空を仰げば太陽?の様なものがある。しかし真上にはなく少し傾いている。
んー、午前中なのか、午後なのか…?
少し考え込んでいると、隣から
「これからどうなるか分かんないから、急いだ方が良さそうだな。」
と声を掛けられる。
異存はないので小さく頷くと、二人で森に足を踏み入れた。
俺の方がデカイから、と彼が先行して枝を払ってくれる。
ちなみに枝を払うのに使っているのは彼の持っていた大振りなナイフ。
他にも何か持っていそうだ。
自分は何も刃物は持っていません。
……こんな事になる予定じゃなかったから、刃物なんて持ち歩いてない。銃刀法違反になるし。
入ってすぐに、大木を見つけた。
「……りんご……?」
「……パルマか……?」
お互い顔を見合せる。
同じモノを見て、まったく違う名前を連想する。
どうやら彼とは『別の世界』にいたのは間違いない様だ。
あれ、なんでお互いの言葉が分かるんだろ。
素朴な疑問がわきあがるが、先ずは食料調達とばかりに自分が木に登り、実をいくつかもぐ。
「ちゃんと青く色づいたやつにしろよー!」
えっ、そこ逆なのっ!!
木の上から下に青い実をいくつか落とし、自分は周囲を見回しながらそのまま赤い実にかじりつく。
……なぜ、しょっぱい……
内心脱力しながら、食べ続けたが最後には、「これはこれで美味しい」という結論に達した。
ちなみに青い実は、大根おろしみたいな辛い味でした………彼も変な顔して食べてた。
余った実を背負っていた鞄に詰めて、今までとは逆の方向を向いた時、一瞬、枝に影が写った。
「っ!!」
咄嗟に、枝から飛び降りた一拍後、さっきまで自分が立っていた場所に鋭い嘴が突き刺さるのが見えた。
ガスッ!!
「なっ!?」
声を上げて驚く彼を尻目に、自分は着地しながらその衝撃を緩和するため、山の斜面を数メートル転げ落ちる。
3メートルくらいの高さから飛び降りたのもあり、身体中がかなり痛い。
このくらいでっ!!
『勇者』だった時ならそのまますぐに立ち上がれただろうが、今は巧く痛みを逃せなくて呻いてしまう。
頭の冷静な部分が、当たり前だと囁く。
自分の身体を満たし、強化した『力』が無いんだから、と。
咄嗟の判断とは言え、飛び降りたのは間違いでは無かったが、その後が予測出来なかった。
自分の身体能力、把握出来なきゃ、条件反射で動くの危ないな、これ。
「おい!!早く立て!」
彼はいつの間にかナイフを構えて自分の前に立ちはだかって怒鳴りつけてくる。
もしかして庇われてる…?
傍の木の幹に手をつきながら、何とか立ち上がると、黒い大きな鳥がこっちを威嚇してくるのが見える。
真っ黒な鷹みたいな鳥だ。多分、翼を広げると自分よりもデカイ。
「逃げよう!!」
思わず恐怖から、彼の背中の服を引っ張る。
「追いかけて来そうだけどな!!」
てか、今にも飛び掛かってきそうだ。
何か武器になるものを捜すが辺りには草や枝ばかりで石すら見当たらない。
かと言って、ナイフ一本と素手じゃ全く勝てそうにない。
どうしたら…!!
目だけを左右に向けるが、本当に何もない!!
バサッ!!
鷹みたいな鳥がこっちへ弾丸のように突っ込んで来る!
自分が回避行動を取る前に、彼は背中を掴んでいた自分の手首を鷲掴み、一気に前へ引っ張り投げる。
お陰で、バランスを崩して地面に倒れこむ自分の頭上スレスレを、鳥が掠めるようにして通る。
彼は自分を投げた反動を利用したのか、勢いに逆らわず、後ろに倒れこんで、鳥の一撃を辛くも回避していた。
ガガンッ!!
鳥は、彼の背後に立っていた木に、ぶつかると思いきや。両足で木の幹を蹴りあげ一気に方向転換して上昇する。
「うそぉっ!!」
どんな動きだよ!?
鳥じゃないのかっ?!
「待てや、焼き鳥!!」
まだ焼けてない!!
って、そいつを喰う気満々か、おい!!
と、驚いているうちに、彼は跳ね起き、振りかぶってナイフを投げつける。
ドスッ、ドサッ。
……命中したよ、嘘だろ……
鈍い音がして鳥が落ちる。
かくて、呆然とする自分(まだ起き上がってない)の前で死んだデカイ鳥を片手(多分重い)に、ドヤ顔する男がいましたとさ。
……これって非常識だよな、この世界でも、多分……
呆れながら、立ち上がり、パタパタと汚れを払う。
自分の目の前ではまだ、ドヤ顔した非常識男が獲物を見せつけるよう立っている。
うん、すごいから。でも、
「気持ち悪いから、死体近づけんな。」
だって、現代っ子だもん。
「あー、でも助けてくれてさんきゅ。」
下を向いてパタパタしながら言ったから、彼の表情は分からない。
でも、
「……取りあえず、一回戻るぞ。」
さっさと前を歩き始めた彼の耳は真っ赤だった。
照れてるのか、かーわーいーいー(心の中で棒読み)
。
湖に戻る道すがら考える。
こいつはある程度は信用出来そうだ。条件反射かもしれないけど、誰かを「守る」事に慣れてそうだし。しかも自分を犠牲にして、ではなく、自分を守りつつほかの誰かを守ると言う、なかなか難易度が高い芸当をやってみせた。誰かを『護れる』人間だ。素直に羨ましい。
そして何より、自分とは実力の差が開き過ぎてて警戒しても無意味だ。
だったら下手に警戒して疲弊するよか、流れに身を任せた方が良さそうだなとつらつら考えた。
湖の畔に座り、一息ついてから、鳥に襲われる前に見た木の上から見た景色を伝える。
歩いて行けそうな距離に村みたいなのがあったのだ。
結局、鳥(暫定焼き鳥)を持って、そこまで行って見ることに。これからどうすればいいか分からないし、情報も安全もあるに越したことはないからだ。
まあ、ここは春から夏にかけてくらいの暖かさだし、野宿も出来ないことはなさそうたけど、さっきの鳥みたいなのとかに襲われたら厄介だ。
当面は流れで一緒に行動することになりそうだ
。吉と出るか凶とでるか……。
てかこの鳥擬き、森の守り神とかだったりしないよなあ………