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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
必然を成し、
22/48

第十九話 話し合い + 師匠 = 後悔しないために




これからについてを、皆で話し合う。

そう言えばこの3日間で一気に人が増えたなあ。本来は旅人がいない筈の時期なのにこんなにいっぱい増えて、おかみさんもびっくりしていた。

でも、「賑やかでいい。」と笑いながら部屋の用意をしてくれている。

この前の襲撃で、村を囲む柵は火を放たれたけど、幸い、建物には損傷はなかった。

宿は二部屋しか使えないので、2人ずつ、部屋に泊り、残りの二人は襲撃を警戒して、交代で食堂で寝ずの番をすることに。


貧血で重たい身体を動かしながら、もそもそゆっくりご飯を食べながら皆の話し合いを聞く。

食事をし始めたら少し吐き気が落ち着く。


落ち着いてきた頭で状況を整理してみる。


私は元『勇者』。召喚された『前の世界』から戻る途中に『この世界』へ落ちた。昨夜死にかけたので、まだフラフラ。



『この世界』で一番最初に出逢ったのが、正面に座っている、ガイ。元『傭兵みたいなもの』。彼も召喚された世界から戻る途中に『この世界』に落ちたとのこと。



二人で向かった先の村、つまりここに先に居たのがラムゼイ。『魔術師?』。彼は行方不明の兄を探す手がかりを求めて、自ら『この世界』へ渡ってきた。

……小鳥の様な、美声。でも大男。侍口調の魔術師。

色々な既成概念を裏切る存在。



その後に、この村へやってきたサイ。私と同じく元『勇者』。本来は13歳だけど無理矢理青年の身体に成長させられ、精神、身体、魔力の統合が出来てないため、キレやすい。私も一度、殺されかけた。



このメンバーでこの宿で休んでいたところ、『神殿』にこの村が襲われ応戦。一人の謎の男に私が殺されかけた時、私が呼んだ『名前』によって、予め私の指輪に描けてあった『術』が発動。『前の世界』での私の『保護者』がこの世界へ渡ってきて、相手を蹴散らす。それがスレイン。『現魔術師』?ちなみにラムゼイが探していた兄はスレインだった。

……スレインは……私の……むにゃむにゃ。察して。



そして、神殿に捕らわれていたが、応戦した際に助けられたアリア。元『巫女』。やはり召喚された世界から、元の世界へ戻る途中に『この世界』に落ちる。

むしろ、『姉御』とか『勇者』の方が似合ってると思う!



以上6人がこのテーブルについている。


取り敢えず、皆で『この世界』について情報を集めようと言うことに。

ラムゼイとスレイン以外は何故この世界に落ちたのか分からない。しかもここに集中していること事態が異様だ。


あれ、そう言えば。


「ラムゼイ、スレインいたけどどうするの?」


ぼそりと聞けば、ラムゼイの顔が強張る。


「それは……」


あれ?

ガイがこっちを見る。


「お前が休んでる間に還る還らないで大喧嘩。まあ御座るが一方的にやられてたけどな。」


スレインを見ると、そっと頭を撫でられる。


「千歳のせいじゃねえ。もし、俺が今、あっちに還ったら間違いなく殺されるだけさ。元から還るつもりもなかったしな。」


え?


「そんな事は!」

「無いって言い切るか?」

「それは……。」


どうして?


「俺は『先見』の能力を代償に、千歳を『前の世界』へ呼んだ。そして、魔力の半分を更に代償にして『この世界』へ渡った。今、俺があっちへ還っても、跡目争いの騒動の火種になるだけだ。ならラムゼイが一族の跡目を継げばいい。幸い、ラムゼイはもう『世界を渡る呪い』は発動しないだろうしな。」

「……兄上は、元より戻る気が無かったので御座るか。」

「ああ、コントロールも出来ない『能力』に振り回されて、大層な肩書きで縛られて。しかもその能力欲しさに『弟』を刺客に向けられて。そんな世界に還りたい訳ねえだろ。」


刺客?


「戻らないなら、殺せって言われてんだろ。」

「……それは……」


嘘でしょ、ラムゼイ?


「……拙者は、兄上を殺したくなど……」


呻くように言うラムゼイに、スレインは苦笑する。


「分かってる。だから、待て。千歳を『元の世界』へ還したら、残りの半分の魔力を代償にして、俺も千歳の世界へ渡る。そうすれば全ての魔力を無くしてただの男になるだけだ。そうすりゃ、お前が俺を殺す理由もなくなるだろ。」


「殺す理由ってなによ?」


アリアが嫌そうな顔をして尋ねる。スレインも嫌そうな顔だ。

……なんか馬が合わないみたいだ。


「俺は一族の『跡継ぎ』で、『賢者』の称号持ちだ。一族としては悪用されたくないんだろ。だが、魔力を全て失えば、『跡継ぎ』『賢者』両方の資格を失う。」

「潔いっちゃ、潔いわね。」

「元から欲しくて得たもんじゃねえからな。欲しいならラムゼイに全てくれてやるよ。」


ギリッ!


ラムゼイが歯噛みする音が聞こえる。

般若みたいな顔になってるよ……


「そんなものが欲しい訳では御座らん!欲しいなら正々堂々と、兄上に挑むまでで御座る!」

「分かってるよ、言葉のあやだ。だが、そうは思ってもないやつが一族内にいるみたいだぜ。」

「やはり……!」

「なんだよ御座る、そんなんがいるって気付いてたのか?」

「……だから拙者が来たで御座るよ。兄上を殺させない為に。」

「んなことだろうと思ったよ。」


良かった、ラムゼイは敵じゃない。


「だからお前は取り敢えず俺と千歳を見送れ。それまでに奴等は手を出してくる可能性があるしな。」

「……承知したで御座る。」


「ねえ、スレイン。」


少しの間を開けて、サイが尋ねる。


「どうして、そんな簡単に『力』を捨てられるの。」


その目は、暗い、色を宿す。

……この目は、良くない。

スレインも、表情が微かに、変わる。


「人とは違った『力』を持つと、人とは違った責任があると俺は思う。俺は簡単に誰かを殺せるくらい『力』がある。だからこそ、簡単に使えないんだ。もし、ありふれた喧嘩をしたとして、普通の人間同士の殴り合いは、俺がやると虐殺だ。しかも一度間違えると取り返しは二度とつかない。だから間違えない為に、俺は人から離れて生きてきた。」


ふっと、苦い笑いをする。


「いつ間違えるかって毎日怖かったし、独りは寂しかったよ。んな生活が嫌だから、捨てるんだ。」

「……でも、『力』があるから護れるものもあるんじゃない?」

「その通りだな。俺もそう思う。」

「じゃあ!」

「でもな、独りじゃなければ、結構色々出来るもんだぞ?」

「……え?」

「『特別』なんて、そうそうない。だから『凡人』は支え合って、努力していくんじゃないか?」

「……」

「そんな人生も、結構悪くないと思うぞ。」


スレインがガシガシと、サイの頭を撫でる。

結構、面倒見良いのよね、スレイン。

皆、笑ってる。


「お前は少しずつ、学べばいいんだよ。焦るな。」

「……はい!スレイン師匠!」


ブハアッ!!


……ガイ、顔にあんたの吹き出したお茶が直撃したんだけど。


アリアが慌てて、私を拭いてくれるが、びしょびしょだ。せめてもの幸いは食事を終えたとこだった事か。


「……」

「わ、わりい…チセ。」


無言で怒っていると、ガイがおずおずと謝る。


「きったないわね!」

「何をやっているで御座るか!」

「これじゃ、風邪引くわ。チトセ、お風呂行こうか?私、荷物持っていくから、先に行ってて。」


「おんぶ。」


ガイに両手を向けて言う。私、まだ歩けないし。


「……畏まりました。」


精々、スレインのブリザードを受けるがいいわ。

スレイン妬きもちやきみたいだし。


結局、なんか弟子入り志願のサイと拒否したいスレインが揉めてるので、そこはほっといて、皆でお風呂へ行くことに。

濡れた服のままガイにおんぶしてもらう。ガイの服も濡れただろう。ざまあみろ。

ゆっくりと、お風呂屋さんへ向かって歩く。


「俺、帰ったら間違いなくスレインにヤられる。」

「だろうねえ。」

「そうで御座ろうなあ。」


「誰か否定してくれよ。んで、チセ、お前はアイツとどういう関係なんだ?保護者と被保護者にしちゃ随分と嫉妬深いだろ。」

「………………わかんなく、なっちゃった。」


小さく答えてガイの肩に顔を埋める。

ガイが軽く笑うのが背中を通して振動で伝わる。


「チセ、お前、お年頃だなあ。」

「あら、そんなに変わらないんじゃないの?」


そういうアリアも、笑ってるじゃん。恥ずかしくて顔が上げられない。


「正直、まだ複雑で御座るが、兄上のあんな感情的な姿は初めてで御座る。チセ殿、ありがとう。」


静かに、ラムゼイが声をかけてくれる。


「……でも……」


あなたから、お兄さんを、スレインを私が奪ってしまうかもしれないのに!


「いいんじゃねえか。もう、お互いに自分の生き方を決められる年じゃねえか。」

「そうね、離れても家族は家族、よね。」

「……そうで御座るなあ。」


本当はそんな単純じゃない筈だ。

ラムゼイ、優しいから。


「何がともあれ、後悔しない様にな。」


ガイがそっと言ってくれる。


「ん、ありがとう。」


少しだけ、ごちゃごちゃした心が楽になった。





そんな平和な入浴が終わって宿に帰ると、スレインが仁王立ちで腕を組み、入り口で待っていた。


……怖いから……


無言でガイにおんぶされた私を引き剥がし、自分で抱きかかえる。


「頑張れよ。」


ガイが離れる瞬間、私だけにそっと耳打ちする。

そしてそのまま、部屋まで連れていかれベットに寝かせられる。スレインは隣に横になる。


一緒に寝る気だろうか?別にいいけど。


「俺が師匠だとよ。」


あ、怒ってなかった。良かったね、ガイ。


「いいんじゃない?私を導いてくれた様に、サイにも導き手が必要だと思う。あの子、すごく危うい。」

「それは分かってる。でもなあ。」

「似合うと思うけど?」


のそり、とスレインは身体を起こし、そのまま覆い被される。


あれ?


「俺は自分の事で手一杯なんだ。」

「……え?」

「……返事、待ってるんだけど?」


あ、墓穴掘った。


ガイの言葉を思い出す。後悔、しない様にするにはどうしたらいいんだろう。


「本当はスレインを家族と引き離すのは嫌。残された家族の気持ち、分かるから。」

「……で?」

「でも、一緒に居てくれるって言う言葉は本当に嬉しい。助けに来てくれて本当に嬉しかった。」

「俺のこと、『保護者』じゃなく、見れる?」

「……まだ分かんない。スレインはスレインだから。」

「……お前は分かってて言ってるのか?」

「え?」

「じゃあ。」


キスを、落とされる。


「嫌か?」


言葉にするのは恥ずかしくて、首を横に振る。

心臓が妙に大きく鼓動している。


「案外、俺の方が『保護者』に拘ってたのかもな。」


そのまま、キスを繰り返し与えられ。

どうして良いのか分からないまま、深められる。


生々しい音が恥ずかしくて、頭が真っ白になる。



そして……



また寝た。



……病み上がりなもので……ごめん、スレイン。




遠くでスレインが何か言ってるのが聞こえた気がした。




誤字脱字、見つけたら教えてください。

お願いします!

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