表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
偶然は集いて
21/48

挿話  勇者『S』と勇者の騎士『S』の恋物語

暗い、話です。


その青年は、ある日突然、異世界へ渡り、恋に落ちた。




当たり前の様に続いて来た昨日から、今日へ。

そして今日から、明日へ。

それはこの一秒、一分の連続上にあるものだと、疑った事すらなかった。


あの日、全ての日常から、俺は断絶された。


酷い目眩と耳鳴り。

しかめながら開けた、目の前には、薄く淡い栗色の髪を纏った少女がいる。せっかくの美しい髪はまだらに切られ、 顔は血だらけで包帯が巻かれ、片目が隠されている。

真っ直ぐにこっちを見つめる片方だけの瞳には、

今まで他の誰にも見ることが出来なかった程の、強い意志が見える。



「私を助けて。私だけの、騎士として。」


桜色の唇は僅かに震えている。

全く訳が分からないその状況で、その強い瞳が、本当は泣き出しそうなのを我慢しているのだと、それだけは、直感で理解した。

少女の心が孤独に苛まれている事を悲しいと思い、俺が傍で守ってやりたいと思った時、もう俺は恋に落ちていたんだと思う。



彼女は『勇者』として、俺は『勇者の騎士』として、互いを守り、信頼し合い、淡い想いを温め合った。



世界に巣食う魔物を駆逐して、平和を築くのが彼女の使命で、俺はそれを助けて。

辛く、苦しい毎日だったけど、彼女から孤独な色が消え、俺を見る時に見せる淡い艶めいた色が、日に日に色づいていくのを見るのが、嬉しかった。



ある日。夜の廊下で、この戦いの日々が終わったら。

ふたりでゆっくり世界を回ろうと、語り合った。

それは、優しい、未来の約束……。



しかし、終末は突然来た。



無くならない魔物の脅威に、動きもしない王族、貴族。

民の心は次第に『勇者』たる彼女へと移っていった。

それは当たり前の事なのに。

その事を怖れた誰かに、突然俺達は襲われた。

今までほとんど魔物を相手にしてきた俺達は、守っていたと思っていた、人に襲われてひどく動揺した。

盗賊の類いですら、世界を救おうとする俺達に協力的だったから。


『勇者』の『死』は『世界』の『終わり』に直結する、それなのに!!


何故、人が襲ってくる?

彼女は世界を守るために、戦ってるのに!!


必死に彼女の制止も聞かず、交戦した。


でも人の命を奪う事に対する恐怖が、動揺が、迷いが、俺の動きから精彩を奪い、彼女の命をも奪った。



……彼女は抵抗しなかった。



血に沈んだ彼女は小さく俺を見て、微笑んだ。

彼女の瞳にはもう『孤独』はない。

駆け寄って、手を握る。

血が、止まらない。


彼女の名を呼ぶ自分の叫び声が、うるさい。


「……関係のない、貴方を、巻き込んで、ごめん。

でも、ありがとう、傍に居てくれて。

この世界はきっと直に、終わるわ……。

でも、貴方は、幸せに、なって。

貴方の、世界で、きっと、また、あえる……から。

まってて、きっと……あえる……


あいして、るよ、『 、 、 、 』。」


彼女が、俺の名を呼び、微笑んだのを見た。

彼女の目が閉ざされるのと同時に、胸に衝撃が走って俺の意識が消えた。


……俺が最後に呼んだのは、きっと彼女の名前。






これは永遠を奪われた、『勇者』と『騎士』の恋物語。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ