第十六話 休息 + 紹介 = 雑魚寝でおやすみ
スレインはラムゼイが探していた兄だったと言う、衝撃の事実が判明し、ラムゼイは色んな意味でダメージを受け、気を失ってしまった。まあ、主に蹴り飛ばされた物理的ダメージのせいだろう。
それを心配している女性は、先程の神殿のヤツラに先に捕らえられていた旅人だった。
……軽装過ぎて、私たちと同類の匂いがするが。
取り合えず、私は傷口は塞がったが、(前の時の肋骨と足首も)、出血し過ぎた為の貧血と、体温が異常に下がっており、とっとと休むため、村人達と共に村へ戻った。
ガイも出血が酷く、傷も塞がりきってないのでふらつきながら、サイに肩を借りながら山道を下っていた。
幸い村人には怪我がなく、おかみさんには泣かれてしまった。
こうして、嵐の様な夜は終わろうとしていた。
一部を除いて。
正気に返ったラムゼイは村の要所要所に、侵入者を感知する『術』を仕込みに行った。どうやらスレインにも来て欲しかった様だが、スレインは面倒くさがり脚下。垂れた犬耳の幻がラムゼイに見える気がした……
その間に、下がり過ぎた体温を上げるためにと、スレインにお風呂に連れていかれ、服ごと放り込まれる。
私を放り込んだ張本人は、手足や、顔だけ洗っていた。逆上せる前にお湯から出され、脱衣場で着替える。でも、最早疲れきって力が入らず、心配してついてきてくれた、女性(まだ名前聞いてない)に手伝ってもらう。
何とか大きめの寝間着のワンピースみたいのを来て、また宿までスレインにおんぶされて連れ帰られる。もう、眠くて眠くて、起きていられない。
「眠いなら、寝とけ。失った血と体力は自力で回復しろ。」
「……ん。スレインは?」
「念の為に起きとく。ラムゼイと交代で休むから心配すんな。あの愚弟、鍛え直さないと。」
……ラムゼイお気の毒さま。
あぁ、ねむい。耐えられない。でも、スレインに話したい事がいっぱい、ある。
「……始めてラムゼイに会ったときにね、」
「ん?」
「あまりに懐かしい感じがして、ふらふら引き寄せられちゃったんだ。」
「……んで?」
「そしたら、……岩塩、渡された。」
「……なんでそうなんだ?」
目が開けてられない。
「……ん、ガイが、塩、寄越せって、……」
スレイン、まだ、一緒にいてくれる、の?
一番聞きたかった事が、怖くて聞けないまま、眠りに落ちた。
鳥の鳴き声が、聞こえる。
朝?
なんだか眩しい、今は何時ごろなんだろ。
ゆっくりと目を開けると、部屋が明るい。
ベットに横たわったまま、ぼーっと、する。
んー、あれ?寝る前の記憶が……
「起きたか?」
部屋の入り口に、スレインが立っている。
スレイン、が。
思わずベットから飛び起きて、スレインを見る。
いる、ちゃんといる!
スレインはこっちに来てベットに腰掛ける。
「俺はこれから寝る。お前は下で飯食ってこい。」
「でも、」
「寝るだけだ。ここにいるから。お前はそれよりしっかり食って血を作れ。」
「ん。」
後ろ髪引かれながら、食堂に行くと、スレイン以外、皆が集まっていて、こっちを見た。
「チセ、身体はどうだ?」
「痛みとか傷はないから大丈夫。後は貧血だけかな。」
答えながら席に座るとおかみさんがすぐにご飯を用意してくれる。
御礼を言ってからひたすら食べ続ける。
お腹がいっぱいになったところで、食べ終わるのを待っていてくれた女性に声を掛けられる。
「私はアリア。よろしく。」
「あ、昨夜はありがとうございました。私はチセ、チイのどっちかで呼んで下さい。」
「お前、千歳って言うんだろ?」
ガイに不思議そうに言われる。
「千歳って呼ばれるの、スレインが嫌がるの。」
スレインの、名前を出した途端、今まで無言だったラムゼイの身体がビクゥッと震えた。
あれ?
「ち、ち、チセ殿がよもや兄上の……」
なんで私を見ながら震えてるんだろう。
……そして、なんで戦いの後よりも、今の方がズタボロなんだろう……。
犯人は火を見るより明らかだったけど、敢えて突っ込めなかった。
周りは痛ましげな表情でラムゼイを見る。
私が寝ている間に何があったんだろう?
「取り合えず、チセはまだ寝とけ、夜に話そう。」
「それがいいな。まだ顔色悪いし。」
サイも心配そうに言ってくれる。確かにまだダルい。無理せず寝た方が良さそうだ。
「そうするわ、おやすみ。」
挨拶を済ませて、部屋に戻る。あれ?私、この部屋使っていいのかな?食堂に寝てた筈なんだけど。ま、いいか。
しかし、ベットにはスレインが寝ている。
しょうがないので、ベットの端にスレインを押し遣り、空いたスペースに寝そべる。雑魚寝なんて、昔よくやったし。今更か。
横になると、すぐに眠気が襲ってきて、意識が遠くなった。
おやすみなさい。
次に起きると、もう夕方だった。ほんとに、よく寝た。身体も幾分楽になった気がする。
隣を見ると、スレインが目覚めていて、こっちを見ていた。思わずギョッとする。
スレインの目には怒りが、燻っている。
何か、怒らせる事をしたっけな?
ドキドキしながら、スレインを見返すと、大きく溜め息をつかれた。
「少し、話をしよう。」
スレインは静かに言った。