第十五話 交戦 + 閃光 = 『喚ばれた』名前
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戦闘描写、残酷描写、両方あるのでご注意下さい。
「ねえ、教えて下さいよ。なんで貴方が『これ』を知っているんですか?」
柔和と表現するに相応しい表情なのに、向けられた殺気が酷く冷たい。
『これ』と呼ばれる黒い銃の銃口はしっかりと私に向いている。逃す気はなく、殺す気は満々の様だ。
「…… 、 、。」
私を支える、サイの腕が細かく震えている。
何とか声を出してサイを呼んだつもりが、吐息にしかなってない。
「サイ。」
今度は、辛うじて声になる。
ヤツは私がサイに話しかけているのに、笑顔のまま私だけを見ている。余計に不気味だが、ありがたい。
「サイ。」
「あ、ああ。」
サイも得体が知れない所があるが、目の前のヤツの方が上を行くのか、畏縮してしまっている。
「サイ、逃げて。ラム、を、呼んできて。」
「え?」
「はやく。」
「でも!」
「アイツは、私を、すぐにはころさない、」
そう、私がどこからあの『銃』について知ったのか、聞き出そうとする筈だ。
「……置いて、行けない!」
「行って!」
気合いで怒鳴ったら少し、頭がすっきりしてきた。
……立てる……か。
ふらふらしながら、それでも立ち上がる事に成功する。
サイは泣きそうな顔をしながら、私を支えている。
……相変わらず、ヤツは動かない。
「ラムゼイを、呼んできて。早く!」
叱責すると、その体はビクリと震える。まるで子どもの様だ。こんな時なのに苦笑してしまう。
「『勇者』、なんでしょ?」
「え?」
「力ある者が思考を止めたら『悪』と変わらない。考えられる事を止めちゃいけない。」
これは受け売りだけど。
「皆を護るために、己がすべきことをしなさい。」
「……俺、……」
「行きなさい!」
「分かった!」
サイが私を支えてくれる手を離す瞬間、ヤツに背中を向けてサイに耳打ちをする。
そのままサイが森の中に飛び込んで、一気に山道を駆け降りる。これで大丈夫。
「逃がしたつもり、ですか?」
「さあねえ。」
「では、お聞かせ下さい。何故貴方は『これ』を知っているのですか?」
「逆に聞くけど、その中に、込めているのは、金属と火薬?」
「……聞いてるのは私ですが?」
「私が、知ってるのは、中に、金属と火薬、詰めてた筈、なんだけど。」
「……それをどこで。」
細切れに会話しながら、傷を押さえ、背後の木に凭れかかる。痛みで息が切れ、出血で目が霞む。
さっきまですっきりしていた頭がまた、朦朧としてきた。サイが離れて、張りつめていた気が弛んだか。
この手の輩に時間稼ぎは無駄。死にたくなければ話してしまった方が良いだろう。
……信じてくれるかどうかは別だが。
「……私の邑で、ッケホ!」
ここまで漂ってき始めた、煙で噎せた。
それが引き金になって、ズルズルと背中を木に凭れたまま座り込んでしまう。傷を押さえている手の力が弛み、出血が増えてきた。ただ、寒い。
目の前が暗くなってきた。
……ヤバい。気を失う、
ガシッ!!
髪を鷲掴まれ、引き上げられる。
「起きてください。続き、待ってるんですよ。」
自分の髪に体重がかかり、頭が痛い。
こんな状態でどう話せと?
コホッ!!
煙がいよいよ近くなってきた。
……火の手はまだ見えない。
「しょうがないですね。貴方を連れて帰りますか。」
「……ケホッ!」
喉が、酷く痛む。
いきなり、捕まれていた髪が離され、地面に落とされる。地面の冷たさが気持ちいい。地面の踏みしめられる音が、小さく聞こえる。
ゆらりと、ヤツは私に背を向け、村人が隠れている避難豪に向かう。
「先に、殺しますか。」
「……ま、て…」
俯せから何とか、横向く。地面に右半身をつけると、地面スレスレには、まだ煙が回っていなくて、呼吸が楽になるが、出血が増える。
「おや、お話し出来そうですね?」
「……わたしの、くにでは、それを『銃』と呼んでる。」
早く、早く来て!
私が、意識を、失う前に。
「ほう。それで?」
「火薬を込めて、金属の弾を、うちだす。」
「……」
「弾丸、は、直線にしか、飛ばない。その大きさなら、大木を、貫通、する、力は、ない、」
「……?何を?」
「……作りが、粗いと、弾が詰まったり、ケホッ!」
「何を話しているのです!」
「熱によって、暴発する!」
ゴウゥ!!
「何ぃ!?」
私が言い終わるのと同時に炎の塊がヤツを襲う!
それを見守っていると、いきなり体を誰かに掬われる。ガイだ。そのままガイに運ばれて木の影に連れていかれる。
「続けろ!ラムゼイ!」
ガイが叫んでいる。
「チイ!」
サイもこっちへ来たのか、声がする。
傷口が強く押さえ付けられる。誰かが何かを叫んでいる。
……声が、遠い?
パンッ!!
頬に衝撃が走る。叩かれた様だ。
ぼんやりと、目を凝らすと、ガイが何かを言っている。
パンッ!!
痛みはない。ただ、寒い。
指先の感覚がないのに、癖で指輪を確認して、まだそこに嵌まっていることに安心する。
……指輪、暖かい。
ドンッ!!
大気が、震えた。
一気に意識が覚醒する!
「よくも、やってくれましたね。」
まるで、誉められているかの様な優しげな声。でも、纏う冷気は尋常じゃない。
その右手は真っ赤に血塗られている。銃の暴発に成功した様だ。
こっちへ、一歩、一歩、歩いてくる。
「ラムゼイ!」
ガイが呼ぶが、返事はない。
「ダメ!さっきの攻撃で!」
知らない女性の声がする。だれ?
それを聞いて、サイが一気にヤツへと斬りかかる!
しかし、突然地面から飛び出た氷柱に吹き飛ばされる!
「魔法かっ!?」
舌打ちした、ガイは私ごと、後ろに跳ぼうと足に力を込めた、次の瞬間、目の前にヤツが現れ、蹴り飛ばされる。
「ガッ!」
私も吹き飛びかけたが、またヤツに髪を捕まれ顔の高さまで持ち上げられる。
「……よく、知っていましたね?お仲間にそれを伝えるために、彼を逃して呼びに行かせたんですね。でも、」
にやあぁ
「知らなければ、殺さなかったのに、ね。」
優しげな仮面が剥がれるように、凶悪な素顔が曝け出される。
「うそ、つけ、」
「はい、嘘です。」
ピキッ、ピキッ!
耳障りな音がして、足元から冷気が這い上がってくる。寒いのに、身体は震えない。足先から、凍りついていく。
オオォン!
正に、吼えると形容すべき声を上げて、ガイが飛び込んで来る!その目は正気を失っている。
恐ろしい早さで、見知らぬ剣を振り切るが、氷柱に阻まれ、ヤツに届かない!
サイもこっちへ来ようと飛び込んでくるが、それも氷柱に、防がれ、逆に吹き飛び木に激突する。
足首まで、凍りついた。
まだ、冷気は止まらない。
ヤツの狂った笑い声が響き渡る。
ラムゼイがいるだろう方角から、炎の礫が大量に飛んでくるが、全て、氷に阻まれ、逆に氷の礫が降り注ぐ!
ラムゼイと、誰か女性の悲鳴が聞こえる。
ガイは、一気に跳躍して上から斬りかかるが、私の足に絡み付いていた氷が突然成長し、私ごと上に伸び、ヤツの盾となる。
ギィイン!
私にガイの剣が当たる寸前、ガイの目に正気が戻り、その軌跡を無理矢理変えて、剣を氷柱に当てる。
が、無理な力をかけたからか、嫌な音をたて、へし折れる!
ザスゥッ!
すぐ、目の前にあった、ガイの身体に氷の槍が突き刺さる!
「 、 !」
声に出してガイを呼んだつもりが、声にならず、込み上げてくる液体が口から吐き出される。
ガイに刺さっている、氷の槍は、私の腹から突き出ている。
私の吐いた血が、ガイの顔にかかる。
ガイの目が見開かれ、誰かの名を呼びながら、私に手を伸ばす。
でも、見ているのは、私じゃない。
しかし、そこで氷の槍が折れて、ガイの身体は落下する。
私は更に氷柱に飲み込まれ下半身と両腕が完全に凍りついている。
もう、ほとんど身体に力が入らない。
あぁ、空が見える。
綺麗な、黄金色の月。
あなたの、いろだね。
あのね、さむいんだ。
……ねえ、たすけて 。
「……ス、レ、イ、ン。」
名を、彼を、喚んだ。
カァァア!
私の身体を空から降ってきた白い閃光が包み、そして消える。
閃光と共に、私を侵食する氷も消え失せ、残ったのは身体を包み込む、暖かな、腕。
もう、寒くない。
「千歳、幾らなんでも喚ぶのが遅すぎるぞ。」
「だって、呼んだら、ほんとに来そう、だから。」
「来るに決まってるだろ。俺を誰だと?」
「私の、最強の保護者!」
「……いい加減、せめて『守護者』にしてくれ。」
このやり取りが、嬉しい。
懐かしむほど時間はたっていないけど、心底安心する。もう、絶対に大丈夫だ。
話ながら、私の身体を回復してくれているらしく、痛みが遠退く。
「さあて。よくもやってくれたな、おい。」
スレインの黄金色に輝く瞳が憤怒に燃えて、ギロリとヤツを睨み付ける。
余りの状況に混乱したのか、もしくは魔力の差に当てられたのか、唖然としたまま、ヤツは動かない。
あ、これは、やっぱり、ヤバいのでは…!
「一万回、死んでこいやあっ!!」
特大の閃光が空から落ちて、ヤツに当たる!
ラムゼイの時とは比較にならない程の光量と、爆音!
でもラムゼイの時とは違って私は目が焼かれないし、音も煩いくらいで、済んでいる。
流石、保護者、オートで私を、私だけは護っている。
……皆、大丈夫……だといいな……
閃光が消えた後には、地面が赤く煮えてるのが見える。どんな威力……
「ちっ、消し飛んだか!」
あんたがやったんだ!!
周りを見回すと、森が少し拓けている。まるで、山火事の後の様な大惨事だ。相変わらずの、規格外だ。
「皆は!」
「多分、生きてる、多分。」
「2回言わないで!信憑性下がるから!」
ガタンッ!!
倒れた木を押し退けて、サイがガイを抱えながら起き上がる。
「ガイ!サイ!」
二人とも無事な様だ。でもガイは腹から出血している。手当しないと!私もスレインの腕から離れて、ガイの隣に座り込む。
サイはガイを私のそばに横たえると、何かを呟いてガイの傷口に手を当てている。
「回復魔法だ。大丈夫だろ。」
興味無さげにスレインが教えてくれる。
ガイはすぐに目を開け、私を見るなり、くしゃりと顔を歪める。泣き出しそうだ。
「大丈夫?痛い?」
ガイは、首を小さく振ってそれを否定すると腕で顔を隠してしまう。
ゴトン!!
別の所から、今度はラムゼイが、女性を、庇いながら這い出てくる。
閃光をまともに見たのか、仕切りに目を擦っている。女性は知らない人だけど、ラムゼイを支えながらこっちに歩いてくる。
「大丈夫?!」
「こっちは軽傷で御座る。むしろ、チセ殿は……!」
?、ラムゼイが固まった……
「ラムゼイ?」
「あ、あ、あ、あ、あ、」
壊れたCDプレーヤーみたいになってる。
「てめぇがついていながら、千歳が死にかけるってどういうことだ、この愚弟がぁ!」
ゴスゥッ!!
蹴り飛ばされる、ラムゼイ。
『えぇぇっ?!』
全員の悲鳴が、月夜の下で、揃った。