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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
偶然は集いて
17/48

第十五話 交戦 + 閃光 = 『喚ばれた』名前

タグにR15を追加しました。


戦闘描写、残酷描写、両方あるのでご注意下さい。




「ねえ、教えて下さいよ。なんで貴方が『これ』を知っているんですか?」


柔和と表現するに相応しい表情なのに、向けられた殺気が酷く冷たい。

『これ』と呼ばれる黒い銃の銃口はしっかりと私に向いている。逃す気はなく、殺す気は満々の様だ。


「…… 、 、。」


私を支える、サイの腕が細かく震えている。

何とか声を出してサイを呼んだつもりが、吐息にしかなってない。


「サイ。」


今度は、辛うじて声になる。

ヤツは私がサイに話しかけているのに、笑顔のまま私だけを見ている。余計に不気味だが、ありがたい。


「サイ。」

「あ、ああ。」


サイも得体が知れない所があるが、目の前のヤツの方が上を行くのか、畏縮してしまっている。


「サイ、逃げて。ラム、を、呼んできて。」

「え?」

「はやく。」

「でも!」

「アイツは、私を、すぐにはころさない、」


そう、私がどこからあの『銃』について知ったのか、聞き出そうとする筈だ。


「……置いて、行けない!」

「行って!」


気合いで怒鳴ったら少し、頭がすっきりしてきた。

……立てる……か。

ふらふらしながら、それでも立ち上がる事に成功する。

サイは泣きそうな顔をしながら、私を支えている。

……相変わらず、ヤツは動かない。


「ラムゼイを、呼んできて。早く!」


叱責すると、その体はビクリと震える。まるで子どもの様だ。こんな時なのに苦笑してしまう。



「『勇者』、なんでしょ?」

「え?」

「力ある者が思考を止めたら『悪』と変わらない。考えられる事を止めちゃいけない。」


これは受け売りだけど。


「皆を護るために、己がすべきことをしなさい。」

「……俺、……」

「行きなさい!」

「分かった!」


サイが私を支えてくれる手を離す瞬間、ヤツに背中を向けてサイに耳打ちをする。


そのままサイが森の中に飛び込んで、一気に山道を駆け降りる。これで大丈夫。


「逃がしたつもり、ですか?」

「さあねえ。」

「では、お聞かせ下さい。何故貴方は『これ』を知っているのですか?」

「逆に聞くけど、その中に、込めているのは、金属と火薬?」

「……聞いてるのは私ですが?」

「私が、知ってるのは、中に、金属と火薬、詰めてた筈、なんだけど。」

「……それをどこで。」


細切れに会話しながら、傷を押さえ、背後の木に凭れかかる。痛みで息が切れ、出血で目が霞む。

さっきまですっきりしていた頭がまた、朦朧としてきた。サイが離れて、張りつめていた気が弛んだか。

この手の輩に時間稼ぎは無駄。死にたくなければ話してしまった方が良いだろう。

……信じてくれるかどうかは別だが。


「……私の邑で、ッケホ!」


ここまで漂ってき始めた、煙で噎せた。

それが引き金になって、ズルズルと背中を木に凭れたまま座り込んでしまう。傷を押さえている手の力が弛み、出血が増えてきた。ただ、寒い。

目の前が暗くなってきた。


……ヤバい。気を失う、


ガシッ!!


髪を鷲掴まれ、引き上げられる。


「起きてください。続き、待ってるんですよ。」


自分の髪に体重がかかり、頭が痛い。

こんな状態でどう話せと?


コホッ!!


煙がいよいよ近くなってきた。

……火の手はまだ見えない。


「しょうがないですね。貴方を連れて帰りますか。」

「……ケホッ!」


喉が、酷く痛む。


いきなり、捕まれていた髪が離され、地面に落とされる。地面の冷たさが気持ちいい。地面の踏みしめられる音が、小さく聞こえる。

ゆらりと、ヤツは私に背を向け、村人が隠れている避難豪に向かう。


「先に、殺しますか。」


「……ま、て…」


俯せから何とか、横向く。地面に右半身をつけると、地面スレスレには、まだ煙が回っていなくて、呼吸が楽になるが、出血が増える。


「おや、お話し出来そうですね?」

「……わたしの、くにでは、それを『銃』と呼んでる。」


早く、早く来て!

私が、意識を、失う前に。


「ほう。それで?」

「火薬を込めて、金属の弾を、うちだす。」

「……」

「弾丸、は、直線にしか、飛ばない。その大きさなら、大木を、貫通、する、力は、ない、」

「……?何を?」

「……作りが、粗いと、弾が詰まったり、ケホッ!」

「何を話しているのです!」


「熱によって、暴発する!」


ゴウゥ!!


「何ぃ!?」


私が言い終わるのと同時に炎の塊がヤツを襲う!

それを見守っていると、いきなり体を誰かに掬われる。ガイだ。そのままガイに運ばれて木の影に連れていかれる。


「続けろ!ラムゼイ!」


ガイが叫んでいる。


「チイ!」


サイもこっちへ来たのか、声がする。

傷口が強く押さえ付けられる。誰かが何かを叫んでいる。


……声が、遠い?


パンッ!!


頬に衝撃が走る。叩かれた様だ。

ぼんやりと、目を凝らすと、ガイが何かを言っている。


パンッ!!


痛みはない。ただ、寒い。

指先の感覚がないのに、癖で指輪を確認して、まだそこに嵌まっていることに安心する。

……指輪、暖かい。


ドンッ!!


大気が、震えた。

一気に意識が覚醒する!


「よくも、やってくれましたね。」


まるで、誉められているかの様な優しげな声。でも、纏う冷気は尋常じゃない。

その右手は真っ赤に血塗られている。銃の暴発に成功した様だ。


こっちへ、一歩、一歩、歩いてくる。


「ラムゼイ!」


ガイが呼ぶが、返事はない。


「ダメ!さっきの攻撃で!」


知らない女性の声がする。だれ?


それを聞いて、サイが一気にヤツへと斬りかかる!

しかし、突然地面から飛び出た氷柱に吹き飛ばされる!


「魔法かっ!?」


舌打ちした、ガイは私ごと、後ろに跳ぼうと足に力を込めた、次の瞬間、目の前にヤツが現れ、蹴り飛ばされる。


「ガッ!」


私も吹き飛びかけたが、またヤツに髪を捕まれ顔の高さまで持ち上げられる。


「……よく、知っていましたね?お仲間にそれを伝えるために、彼を逃して呼びに行かせたんですね。でも、」


にやあぁ


「知らなければ、殺さなかったのに、ね。」


優しげな仮面が剥がれるように、凶悪な素顔が曝け出される。


「うそ、つけ、」


「はい、嘘です。」


ピキッ、ピキッ!


耳障りな音がして、足元から冷気が這い上がってくる。寒いのに、身体は震えない。足先から、凍りついていく。


オオォン!


正に、吼えると形容すべき声を上げて、ガイが飛び込んで来る!その目は正気を失っている。

恐ろしい早さで、見知らぬ剣を振り切るが、氷柱に阻まれ、ヤツに届かない!


サイもこっちへ来ようと飛び込んでくるが、それも氷柱に、防がれ、逆に吹き飛び木に激突する。


足首まで、凍りついた。


まだ、冷気は止まらない。

ヤツの狂った笑い声が響き渡る。


ラムゼイがいるだろう方角から、炎の礫が大量に飛んでくるが、全て、氷に阻まれ、逆に氷の礫が降り注ぐ!


ラムゼイと、誰か女性の悲鳴が聞こえる。


ガイは、一気に跳躍して上から斬りかかるが、私の足に絡み付いていた氷が突然成長し、私ごと上に伸び、ヤツの盾となる。


ギィイン!


私にガイの剣が当たる寸前、ガイの目に正気が戻り、その軌跡を無理矢理変えて、剣を氷柱に当てる。

が、無理な力をかけたからか、嫌な音をたて、へし折れる!


ザスゥッ!


すぐ、目の前にあった、ガイの身体に氷の槍が突き刺さる!


「 、 !」


声に出してガイを呼んだつもりが、声にならず、込み上げてくる液体が口から吐き出される。



ガイに刺さっている、氷の槍は、私の腹から突き出ている。



私の吐いた血が、ガイの顔にかかる。

ガイの目が見開かれ、誰かの名を呼びながら、私に手を伸ばす。



でも、見ているのは、私じゃない。



しかし、そこで氷の槍が折れて、ガイの身体は落下する。


私は更に氷柱に飲み込まれ下半身と両腕が完全に凍りついている。

もう、ほとんど身体に力が入らない。



あぁ、空が見える。


綺麗な、黄金色の月。


あなたの、いろだね。


あのね、さむいんだ。




……ねえ、たすけて 。



「……ス、レ、イ、ン。」






名を、彼を、喚んだ。





カァァア!



私の身体を空から降ってきた白い閃光が包み、そして消える。


閃光と共に、私を侵食する氷も消え失せ、残ったのは身体を包み込む、暖かな、腕。


もう、寒くない。


「千歳、幾らなんでも喚ぶのが遅すぎるぞ。」

「だって、呼んだら、ほんとに来そう、だから。」

「来るに決まってるだろ。俺を誰だと?」

「私の、最強の保護者!」

「……いい加減、せめて『守護者』にしてくれ。」


このやり取りが、嬉しい。

懐かしむほど時間はたっていないけど、心底安心する。もう、絶対に大丈夫だ。

話ながら、私の身体を回復してくれているらしく、痛みが遠退く。


「さあて。よくもやってくれたな、おい。」


スレインの黄金色に輝く瞳が憤怒に燃えて、ギロリとヤツを睨み付ける。


余りの状況に混乱したのか、もしくは魔力の差に当てられたのか、唖然としたまま、ヤツは動かない。


あ、これは、やっぱり、ヤバいのでは…!


「一万回、死んでこいやあっ!!」


特大の閃光が空から落ちて、ヤツに当たる!


ラムゼイの時とは比較にならない程の光量と、爆音!

でもラムゼイの時とは違って私は目が焼かれないし、音も煩いくらいで、済んでいる。

流石、保護者、オートで私を、私だけは護っている。


……皆、大丈夫……だといいな……



閃光が消えた後には、地面が赤く煮えてるのが見える。どんな威力……


「ちっ、消し飛んだか!」


あんたがやったんだ!!



周りを見回すと、森が少し拓けている。まるで、山火事の後の様な大惨事だ。相変わらずの、規格外だ。



「皆は!」

「多分、生きてる、多分。」

「2回言わないで!信憑性下がるから!」


ガタンッ!!


倒れた木を押し退けて、サイがガイを抱えながら起き上がる。


「ガイ!サイ!」


二人とも無事な様だ。でもガイは腹から出血している。手当しないと!私もスレインの腕から離れて、ガイの隣に座り込む。

サイはガイを私のそばに横たえると、何かを呟いてガイの傷口に手を当てている。


「回復魔法だ。大丈夫だろ。」


興味無さげにスレインが教えてくれる。

ガイはすぐに目を開け、私を見るなり、くしゃりと顔を歪める。泣き出しそうだ。


「大丈夫?痛い?」


ガイは、首を小さく振ってそれを否定すると腕で顔を隠してしまう。


ゴトン!!


別の所から、今度はラムゼイが、女性を、庇いながら這い出てくる。

閃光をまともに見たのか、仕切りに目を擦っている。女性は知らない人だけど、ラムゼイを支えながらこっちに歩いてくる。


「大丈夫?!」


「こっちは軽傷で御座る。むしろ、チセ殿は……!」


?、ラムゼイが固まった……


「ラムゼイ?」

「あ、あ、あ、あ、あ、」


壊れたCDプレーヤーみたいになってる。


「てめぇがついていながら、千歳が死にかけるってどういうことだ、この愚弟がぁ!」


ゴスゥッ!!


蹴り飛ばされる、ラムゼイ。


『えぇぇっ?!』


全員の悲鳴が、月夜の下で、揃った。





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