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トリックスターは英雄になれない  作者: 清野
偶然は集いて
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第十四話 夜襲 + 別行動 = 黒い塊

戦闘描写、残酷描写、ありますのでご注意下さい。




最初に起きたのはラムゼイだった。


「!!起きるで御座るよ!!」


その大声に私もガイも飛び起きる。


「なんだ!」

「なに?」


「外に複数の生き物の気配と人の気配とがするでござる!」

「こんな夜中に人が?」

「襲われてるの?」


私の疑問にラムゼイは目を閉じて何か集中している。


「どうやら、襲われるのはこの村の様で御座る。」

「俺、おかみさん起こしてくる!」

「拙者はサイを!」

「チセ、お前は念の為に男になっとけ!」

「分かった!」


昼間にガイ達が買ってきてくれた男物の服に手を通す。幸いサイズは少し大きいくらいだ。


それにしてもなんで毎日こんなに危険に曝されてるんだろう。有り得ない程だ。

私にはまだ外の様子は感じられない。ラムゼイはどうやっなんだ?術か?

それとも、感知能力が高いのか……


窓の近くに張り付いて、外を見続ける。

そこへ、おかみさんとサイが降りてきた。ラムゼイとガイも続いている。

ガイが目を凝らして外を見ながら尋ねる。


「おかみさん、ここら辺に動物を遣う盗賊とかいるのか?」

「いや、白い鎧を着ているで御座るよ。」


ガイが目を閉じながら説明する。


「人間は5人、オオカミの様な動物が約30頭、リーダーらしき男の鎧には胸に金の模様があるで御座る。」


ブフゥ。


サイが後ろを向いて必死に笑いを堪えている。失敗してるけど。

まあ、ラムゼイ話してるの初めて聞いたんだよんね。そりゃ、気持ちは分かるけど、雰囲気が台無しだよ……。

ラムゼイとガイは無視している。


「……女性が一人、捕らえられている様で御座るよ。……旅人なのか服装がこの村の物とは違う様で御座る。」

「白い鎧に金の模様!?」

「知ってるのか?」

「もしかしたら……神殿の連中かも!」

「なんで、神様祀ってるヤツラがんな物騒な事しようとしてんだ?」

「ヤツラは『勇者』を見つけ出そうとしてるんだ。この世界を浄化するって。この時期に色んな村から子どもを奪っていっちまうんだ!残りの大人も殺される!」

「はあ!?国は何をしてんだよ!」

「黙認してるんだ!神殿には金も権力もあるから、下手に手は出せないみたいで。昔はこんな事は無かったのに……変わっちまったんだよ!」

「どうする?下手に争うのは得策じゃない。村を捨てて逃げる?話をしてみる?」

「!ヤツラ、柵に火を放ち始めたで御座る!」


「ちっ!話しには応じてくれそうもねえな!ラムゼイ、行けそうか?」

「……まだこっちが気が付いていることを悟られてはいないから、先制攻撃はやれないことはないで御座る。」

「逃げれる場所は!」

「避難豪が村の外れにあるよ!」

「なら、拙者が派手な『術』を仕掛けて村中を起こしつつ、ヤツラの気を引くで御座る。」

「俺が援護する。おかみさんは皆を誘導してくれ!チセ、お前もだ!」

「え?」

「僕は?」

「サイはチセを頼むわ。まだ肋骨と足首の骨がまだ完治してないんだ。」

「分かったよ。」


どうやら、選択肢は与えて貰えない様だ。

反論してる時間もない。


「ガイ、この剣、持ってく?」

「それは俺には使いにくい。ヤツラから奪うからいい。チセ、出来るだけ戦うなよ。」

「……分かった。」

「拙者とガイが外に出て、『術』を仕掛けてから皆は行動を初めるで御座る!」

ラムゼイとサイが宿のドアまで行き、回りの気配を窺っている。ガイはそっと、私に近づき、耳打ちする。


「サイにも気を付けろ。こっちが片付いたらすぐに行く。」

「……分かった。」


ガイの不信は根深い様だ。確かにやたらと誰でも信用するのは危険だが……



「参る!」

「……」


ラムゼイとガイが飛び出して行った。ガイが無言で寄越したひどく苦し気な視線が妙に頭に焼きついた。



二人が出てちょうど10秒数えたその時、聞き覚えのある爆音が響き渡る。ちゃんと皆、予め耳を押さえてたのと、前回より距離がかなり空いているので煩いくらいで済んだ。


……あれ、ガイは至近距離だけど、大丈夫か?


取り合えず、外に飛び出す。

他の家からも次々と村人が飛び出してきた!


「神殿のやつらが来たよ!避難豪へ急いで!」


おかみさんの声に反応して、皆が声を掛け合い、逃げ始めた。この時期には動物にも襲われているからか、逃げ慣れてる様子で思ったよりも避難が早い!


遅れがちな人を助けながら、村を駆け抜ける。まだ肋骨と足首が痛むが走れない事はない。

この調子なら逃げ切れる!と思った瞬間、先を行くおかみさんの悲鳴が聞こえた!

隣にいたサイが、すごいスピードで一気におかみさんを追って先に行く。前はサイに任せて私は殿を走る。


「チイ!オオカミだ!気を付けろ!」


サイが前から警告をくれる。


「了解!サイは前をお願い!」

「分かった!そっちも気をつけて!」


村の出口で後ろを振り返る。もう誰も残っていないのを確認する。村の入り口では赤い炎が空を焼くのが見える。……二人は大丈夫なんだろうか。


彼等の心配をしている暇はない。

すぐに、村人を追って走り出す。

しかし避難豪目前で、剣の噛み合う音がした!


固まりになっている村人を押し退けて前に行くと、サイが白い鎧の男と、戦っている!

周りにオオカミが3頭いて、村人は前に進めない様だ。とにかく、道を拓かなければ!


恐怖心と一緒に、吸った息を、瞬間的に吐き出しながら、地面を蹴りつけ前へ跳び出す。鞘から抜き払った剣を真っ直ぐ突き出してオオカミへ突き出す!


1頭が避けきれず、脇を刺され、よろめく。そこへ突然横に跳んだサイが止めを刺し、また男と切り結ぶ。


何て動きだ!


残りの2頭のオオカミは私への警戒を強め、ゆっくりと後ずさる。


「今のうちに!」


おかみさんに声を掛けると、慌てて皆を促して避難豪へ進む。オオカミがそこへ飛び掛かろうとしたが私が剣を一閃すると、怯んで後ろへ飛び退く。


よし!焦らず、時間を稼げれば!


その様子を見ていた男は、突如、喚き出す。


「なぜ!邪魔をするんだ!」


その目に正気の色は無い。


「これは神からの啓示なんだぞ!」

「抵抗出来ない村人を殺す事が?」

「違う!こいつらは贄になるんだ!世界を救うための!」

「知るか。そんな神なんて、クソ喰らえだ!」


叫んで、サイが隠し持っていたナイフを投げる。それは剣に弾かれるがその間に一気に間合いを詰めて、男を剣ごとぶった切る!


なんて、筋力!


切り口は浅い様で、傷口を押さえながら、よろよろと男が下がる。

その様子に動揺したオオカミを、私も一気に切り捨てる。あと1頭!


「お前ら!神殿と争う気か!」

「はっ、勝手にそっちが襲ってきたくせに!」

「後悔するがいい!行けっ!」


男の命令で、オオカミがサイを襲うがサイは慌てず切り捨てる。その瞬間に男は背中を向けて逃げ出した。


「いけませんよ、逃げては。」


パンッ!


風に乗って優しげな声と破裂音がするのと同時に、逃げていた男が崩れ落ちる。



何が起きたか分からず、茫然とする私達の前に、闇から白銀の髪を靡かせて、一人の男が出てきた。鎧は着ていないが、白い長衣を着て、金の帯を巻いている。服全体に金の刺繍がされている。


そして、その手には、黒い塊がある。


あれは!


「!」


パンッ!パンッ!


破裂音と私がサイを突き飛ばすのと、どちらが早かったのだろう。


右肩に衝撃を受けて、後ろへ倒れ込む。


傷口が熱いっ!


「ぐぅ!」

「チイ!」


サイが私を助け起こしつつ、手にしていたナイフを投げる。

しかし簡単に避けられる。


「そこの貴方。『これ』を知っていますね?」


ゆっくりとその黒い塊を向けられる。

サイは剣を構えるがどう攻めていいか分からない様で、動かない。


「何故、知っているのですか?まだ出回ってないのですが。」


まるで、何故空が青いのか聞いているかの様に穏やかで無垢な表情だ。


だが、その迫力は異様だ。


痛みと出血で朦朧としてるのに、妙に目が逸らせない。




……その黒い塊は、私の世界にある『銃』とそっくりだった。







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