プロローグ
初投稿です。
至らないとは思いますが、よろしくお願いします。
朽ちかけた駅舎、駅員のいない改札。
バッグを降ろしたコンクリートもひび割れが激しい。
無賃乗車し放題だなと、ふと考える。しかし、する意味も人もいないと考え直した。
ここは文明を離れた村、昼間だと言うのに村からは活気をまるで感じない。
それもそのはず、過去に鉱山で湧いたこの村は鉱山の閉鎖後、急速に衰えていった。今では、鉱山跡を利用した地熱発電所のおかげでどうにか生きながらえている村だ。
今こうして乗ってきた電車とて、日に二本しか運行していない。
だが、不思議なことにこの村に生まれた者がここを出て行くことは少ない。
「おかえりなさい、兄さん」
初夏の爽やかな風が眼前の少女の腰に届くような艶やかな黒髪を撫でていく。
周りを高い山に囲まれ、市街地からも遠く、冬も厳しいこの村のどこがいいのか全く理解できない。
…まったく、こんな村だから--
「うん、久しぶりだ。桜夜、ずいぶんと綺麗になった」
切れ長の目が少し潤んでいる。熟練の職人芸で作られたような左右対象で整えられた輪郭。
その唇はまるで桜の華やかさで、その美しい黒髪と併せれば、なるほど桜夜とはいい名前だと思う。
「兄さんは、お世辞がうまくなったのですね」
桜夜が微笑む。
お世辞などでは断じてない、その細い肩も腰も触れれば折れてしまいそうな手足も真冬の新雪の白さを持つ肌も、どれをとっても美少女と呼んで相違ないものである。
「ふふ、兄さん…ずっとまってたんですよ?」
桜夜が俺の腕を取る。
二度と離すまいと蜘蛛の糸のごとく絡め捕る。
…まったく、こんな村だから、唾棄すべき因習に捕らわれ続けるのだ--
今は亡き父に嫌悪と共に語られた因習。
--兄妹で契れなどと。