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溶けたモノ

作者: 石花

俺はそこまで化学に詳しくないので真偽のほどは定かでないが、『何でも溶かす液体』に一番近いものは『水』だとどこかで聞いた覚えがある。それでなくとも、何かしら神秘性を語られる水のことだ……『何でも』溶かすのだとしたら、それは物質に限らないのではないか。そう、例えば――想いとか、記憶とか。


いや、落ち着け、俺。適当な思考に逃げるのは止めて、現状を確認しよう。


『新居での荷物の開封が終わり一息入れようと思って風呂に入ったら浴槽に現実のものでない幼女が入っていた』


自分でも何を言っているのかわからん。とりあえず胸はそのままでもいいからもう50cm髪を伸ばして十年後に会いましょうきっとどストライク――もとい落ち着け俺。


――現実のモノでないというのは、ド近眼の俺が眼鏡を外してみているのに、彼女にだけはピントが合っているからだ。合成写真のようで酷く気分が悪い……少なくとも、彼女がこの世のものでないことは事実だろう。


荷解きでかいた汗は、目の前の不可解な現実によって完全に引いていた。とりあえず、リビングに戻って落ち着こう。



オカルトなどは特に信じる性質ではないが、見た以上は信じるしかないだろう……というか、コレがオカルトでなく幻覚の類であったら、俺は無意識で幼女の裸体を見ながら風呂に入ることを妄想しているHENTAIということになってしまう。そんなことは願い下げだ。ひとまず水道水でも飲んで――


そのように考えて蛇口を捻ったが、水を飲むことは叶わなかった。驚いてコップを取り落してしまったからである。


どうやら『水』がキーワードらしい。今、俺の前に――俺に半分重なって、先ほどの幼女が見える。彼女も、どうやら俺と同じく水をコップに注ごうとしているらしかった。


恐らく蛇口を閉めさえすればこの子は消えるだろう。俺の趣味とは相反する服を着ていることから、俺が幼女趣味でないことが証明された……落ち着け、考える時間が必要だ。落としたグラスを片付けて、どこか、水道が繋がってない部屋に――



――少し、思考を巡らせる。


アレは超常現象には違いないのだが、はたして彼女は『幽霊』なのだろうか。


彼女を除けば実物と遭遇したことが無いので憶測となるが、幽霊とは物理的な実態を持たないだけで、精神活動は変わらず有する――言ってみれば今ここに生きている存在のはずだ。


しかし、感覚的なものだが、あの子からはそれが感じられなかった……この世界と関係なく浮かび上がっただけというか、『ココに居る』という感じがしなかったのだ。


意志のある『幽霊』という存在に対面したのではなくて、ホログラムで記録されたホームビデオを見ているような、生きていた人間の日常が、ふと浮かんで来たような印象。つまり、カッコつけて言うなら、あれは、水に溶けだした、彼女の生前の記憶なのではないか。


……さて、気持ちも落ち着いてきた。今後の生活で何度も出てこられると迷惑なので、彼女を見つけてあげるとこにしよう。場所の検討はついている。



目指すは、屋上。





案の定、貯水タンクには人骨が沈んでいた。


とりあえず110番。貯水タンクを調べる気になった理由は、水の味がおかしかったからということにしておく。


事情聴取も終わり、帰宅。追い炊きをした風呂に、自分しかいない風呂にゆっくりと漬かる。……新生活早々酷い目にあったものだ。






後日談


数日後、警察から連絡があった。遺体は7才の男の子、十年ほど昔のものだと判明したらしい。


白骨死体だったから、昔に死んだのだろうとは思っていたが、十年も前なのか。小学二年生、まだまだわんぱく盛りだったろうに、かわいそうだ……って、ちょっと待て――男の子?『男の子』だって?流石に女装少年じゃなかったぞ?確か、風呂場で見たときもついてな……。


落ち着け、俺。最近混乱してばかりじゃないか。


そういえば。俺は遺体の発見前、彼女が再生された映像のように見えたから、誰かの……遺体の記憶だと判断した訳なのだが。果たして、自分の姿とは客観的に記憶できるものなのか。


ならば、あの映像は本人の記憶ではなく、身近な人間が見た――


           ――ぴんぽーん。


訪問者は、どこかで見たような、そして俺の好みにどストライクな容姿の女性だった。具体的に言うと、あの少女が成長したような――。


「あの……弟を見つけてくださったのって、貴方なんですよね?」


……とりあえず、俺は裸を見てしまったことを、謝るべきか、否か。


幽霊は、暗くても、遠くからでもちゃんと見えるんですって。

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