坂本龍馬が行く、日本初(?)の新婚旅行! ~その実態は魔王退治の霧島ツアーでした~
第一章:寺田屋
慶応二年一月二十三日の深夜。京都・伏見の旅籠「寺田屋」は戦場と化した。一階の風呂場で「不穏な霊気」を察知したお龍は、身の危険も省みず、浴衣一枚の姿で階段を駆け上がる。その瞳には、京都の結界を守る巫覡の強い決意が宿っていた。
幕府の捕吏、その正体は時代の歪みに集まった漆黒の影の怪異たち。二階の部屋へ押し寄せる敵を前に、お龍は襖を激しく閉め切った。「龍馬さん、敵は人にあらず! 異界の眷属です!」「お龍、よう知らせてくれた!」
寝込んでいた龍馬は、白狐の霊力が宿る愛銃を引き抜く。お龍もまた、桜色の光を放つ霊刀を構えた。「私が道を拓きます!」お龍の一閃が怪異を霧散させ、龍馬の銃弾が闇を切り裂く。彼女の命懸けの報せがなければ、龍馬の命はここで尽きていた。
命からがら薩摩藩邸へ逃げ延びた二人を、西郷吉之助が大笑いで迎える。「その傷を癒やすには霧島の湯しかなか。いや〜、ただの温泉旅行(湯治)とはいかんごつある。山に溜まった闇をひっくり返してきっちゃらんだろうか?」
こうして、勇敢な新妻が紡いだ機転から、日本初(?)の神話越えハネムーンが幕を開けた。
第二章:塩浸温泉
薩摩の地を踏み、湯煙の立ち上る塩浸温泉へ到着した龍馬とお龍。
「これでおまんの傷も癒えるきに」とお龍が微笑んだその瞬間、温泉地を激しい地響きと吹雪が襲った。霧の向こうから、巨大な霊馬にまたがって現れたのは、美しき女剣士――江戸・千葉道場の「鬼小町」こと千葉さなであった。
「龍馬さん! 怪我をされたと聞いて江戸から飛んできました……って、その横にいる女は誰ですか!?」
さなの愛刀から放たれる「北斗七星の冷気」が周囲を凍りつかせる。龍馬の婚約者を自認するさなの嫉妬の炎は、皮肉にも絶対零度の氷となって温泉地を包んだ。
「誰って、龍馬さんの妻、お龍です。江戸の娘さんは少々、行儀が悪いようですね」
お龍も負けじと桜の霊刀を抜き放つ。一瞬にして「氷vs桜」のキャットファイト(霊力バトル)の結界が張られ、間に挟まれた龍馬は魔物より恐ろしい二人の気迫にガタガタと震えるしかなかった。
しかし、二人の強大な霊力がぶつかり合った衝撃で、温泉の源泉に封印されていた地底の魔物「熱泥大足」が目覚めてしまう。
「龍馬さんは私が守る!」
二人は同時に叫ぶと、まさかの息の合ったコンビネーションを見せた。お龍の「現在を護る桜の結界」が魔物の足を止め、そこへさなの「北斗の冷気」が炸裂して熱泥を一瞬でカチコチに凍らせる。
「二人とも、まっこと強いのう!」と感心する龍馬に、「「誰のせいでこうなっていると思っているのですか!」」と二人の鋭い声が同時に飛んだ。
第三章:犬飼の滝
気まずい「三人旅」のまま、一行は轟音の響く犬飼の滝へと向かった。
滝壺には、時代の動乱が生んだ黒い呪縛の鎖に縛られ、苦しむ「水龍の幼生」の姿があった。
「龍馬さんのため、この滝ごと凍らせて悪を滅ぼします!」と息巻くさな。すかさずお龍が「それでは水龍まで死んでしまいます。龍馬さんの志をまるで理解していませんね」とチクリ。
「二人とも、喧嘩はやめや。あいつを釣るきに、手を貸してくれ!」
龍馬は自身の「志」を込めた光の釣竿を掲げ、滝壺へと糸を垂らした。だが、水龍を縛る鎖は重い。両手の傷がまだ完治していない龍馬を支えるため、お龍が右から、さなが左から、それぞれの霊力を龍馬の身体へと注ぎ込んだ。
桜の光と、北斗の冷気、そして龍馬の大志が一つになり、釣竿から黄金の濁流のような光が放たれる。
「うおぉぉぉりゃあぁッ!」
三人が一気に竿を引き上げると、黒い鎖はパリンと音を立てて砕け散った。呪縛から解放された水龍は、歓喜の声を上げて天へと昇り、美しい雨を降らせて異界の門へと帰っていった。
第四章:高千穂峰(たかちほ の みね)の山頂
そして旅は、最大の目的地である高千穂峰(たかちほ の みね)の山頂へ。
そこは完全に異界の暗雲に包まれ、雲海から現れたのは、巨大な三つ目の黒虎。時代の変わり目に生まれる「変革の拒絶」が形を成した、最強の怨霊であった。
黒虎の凄まじい咆哮と瘴気の前に、お龍とさなの霊力も削られ、絶体絶命のピンチに陥る。
「わしは世界の夜明けを見たい。お龍とも、さなとも、日本中の誰もが笑って暮らせる世界じゃ! 二人とも、わしに力をくれ!」
龍馬が二人の手を強く握りしめた。その真っ直ぐな大志に、お龍とさなの心が一瞬だけ完全にシンクロする。
「お龍さん、合わせなさい!」
「言われずとも!」
お龍の「桜の風」と、さなの「氷の嵐」が混ざり合い、天空に前代未聞の「桜吹雪の氷結結界」が咲き誇った。黒虎の動きを完全に凍てつかせたところへ、龍馬が白狐の霊力を込めた銃弾を眉間へと撃ち込む。
ドォォォン!
怨霊は光の粒子となって霧散し、高千穂の山頂に壮大な朝日が差し込んだ。
第五章:天の逆鉾と霧島神宮の境内
山頂の中央に佇む、神代の兵器「天の逆鉾」。その暴走しかけたエネルギーを鎮めるため、龍馬は叫んだ。
「三人で、新しい日本の始まりを刻むがじゃ! せーの、エイヤッ!」
龍馬、お龍、さなの三人が手を重ねて引き抜いた逆鉾は、彼らの「誰もが笑える世界」への願いを吸い込み、再び大地の中心へと力強く突き立てられた。清らかな結界の波が日本全土へと広がり、世界の歪みは完全に修復された。
数日後、霧島神宮の境内。満開の桜が舞い散る中、さなは霊馬の綱を握り、二人を振り返った。
「お龍さん、今回はあなたの勝ちにしておきます。でも、私は絶対に諦めません。江戸で、あの人が新しい夜明けを連れて帰ってくるのを待ち続けますから」
さなはそう言い残すと、風のように江戸へと去っていった。
それを見送りながら、お龍は少し不機嫌そうに、しかし愛おしそうに龍馬の腕をきつく組んだ。
「……大層な人気者ですね、旦那様?」
「ははは、日本の夜明けは、まだまだ遠そうだぜよ」
龍馬はタジタジになりながらも、美しき二人の妻(?)に守られた、世界で一番騒がしく、世界で一番美しいハネムーンが終わりを告げたのだった。
後日譚:長崎の夜風と、一輪の桜
薩摩での騒がしいハネムーンから数ヶ月。龍馬とお龍は、次の活動の拠点である長崎にいた。
ある静かな夜、亀山社中の裏手から見える長崎の夜景を眺めながら、二人は縁側で静かに地酒を酌み交わしていた。港に浮かぶ外国船の灯りが、まるで星屑のように海面で揺れている。
「おい、お龍。こうして静かに飲む酒は格別じゃのう。薩摩の山を駆け回っていたのが、ずいぶん昔のことのようぜよ」
龍馬は完全に癒えた右手で杯を干し、悪戯っぽく笑った。
「本当に。温泉に入りにいったはずが、毎日が魔物退治で、生きた心地がしませんでしたわ」
お龍は呆れたように息をつきながらも、その表情は穏やかだった。
「じゃが、おまんの桜の結界がなけりゃあ、わしは今頃高千穂の霧の藻屑じゃった。おまんを妻にして、まっこと良かったぜよ」
「ふふ、口だけは達者ですね。……でも、途中で江戸の『鬼小町』さんが乱入してきた時は、どうなることかと思いましたけれど」
お龍が目を細めてチクリと刺すと、龍馬はあからさまに視線を逸らし、冷や汗をかいた。
「さ、さなのことか。あいつも、わざわざ江戸から霊馬を飛ばしてくるきに、肝が冷えたぜよ……」
「さなさんは『絶対に諦めない』と言い残して江戸へ帰られました。いつかまた、私たちの前に氷の嵐を引っ提げて現れるかもしれませんね」
「そ、それだけは勘弁してくれんか。わしの命がいくつあっても足りんきに!」
龍馬が本気で頭を抱える姿を見て、お龍はついに堪えきれず、鈴を転がすように笑った。
お龍はふと、懐から小さな懐中時計を取り出した。それは霧島を去る際、さなが「これで遅刻せずに龍馬さんを支えなさい」と、ぶっきらぼうに手渡してきた江戸の魔導具だった。
「あの方は、ただ激しいだけの氷ではありませんでした。冷たさの奥に、誰よりも真っ直ぐで温かい芯を持っていた。同じ男を愛した身として、少しだけ分かるのです」
「お龍……」
「だからこそ、私はあなたの妻として、絶対に負けるわけにはいきません」
お龍は龍馬の胸にそっと頭を預け、その大きな手を両手で包み込んだ。
「これからの日本は、もっと大きな嵐が吹く。世界の歪みも、もっと激しくなるじゃろう」
龍馬はお龍の肩を優しく抱き寄せ、長崎の海の向こう、まだ見ぬ世界の夜明けへと視線を向けた。
「だけどな、お龍。わしの隣にはおまんがおる。江戸にはわしを信じるさながおる。日本の洗濯なんぞ、朝飯前だぜよ」
夜風が吹き抜け、お龍の髪から、あの日霧島で浴びた桜吹雪の香りがかすかに漂った。歴史の表舞台がどれほど激動しようとも、あの奇妙で熱い三人旅の絆は、彼らの心の中で永遠に輝き続けるのだった。




