リカンナドの王立にて。
リカンナドの王立は、狭き門。
中にいるものどもは、頭脳明晰、文武両道、質実剛健。
彼らは、王国の宝。
彼らこそが、王国の花。
・・・でもやはり思春期の男の子ばかりなのさ。
「貴様らあああっ!!!」
清んだ綺麗な声が響いた。優しいアルトのその声は、黒髪の華奢な少年から発せられていた。
真っ赤に染まった可愛らしい(本人に言うと睨まれる)顔。
細い腕に細い足、腰は言うに及ばず。
まだまだ、男、と言えない風体の彼。名をエイミール・テッド。
いつもならストイックな制服に身を包んでいるのだが・・・。
「じょっ・・・!エミー!」
「んなっ!」
黒髪のレイ・テッドが叫んだ。
その側で鼻血を噴出した、血の気の多いレミレア・テッドが悶絶していた。
・・・エイミール・テッドはわなわなと握り締めた拳で・・・「スカート」の裾を握りしめ、叫んだ。
「私の着替えをすり替えた馬鹿者は、どこのどいつだ!でて来やがれ!」
エイミール・テッドの装いは、黒と白の清楚可憐な冥土服(あ、違ったメイド服)だった。
ちっさい身体で膝小僧ぎりぎりのスカートラインの「冥土」さん・・・。
校舎のあちこちで「萌え・・・」とささやき声が聞こえた。
それに堪忍袋が切れたらしいエイミール・テッドが魔法陣を構成し、展開を始めた。
彼の怒りに触れて精霊たちも集まってくる。その濃密な気配!
「三つ数えるうちにでて来い・・・でないと特大の・・・デスフレアをお見舞いするよ・・・?」
黒髪を舞い上げながら、妖しく微笑む「冥土」さん。
ドレスには誰が縫い付けたのか何層ものペチコート。着易さを追求したのだろうそれ。
ひるがえるリボンタイが可憐な「冥土」をさらに際立たせているが・・・怒りも際立っている!
「ひとーつ・・・」
両手から放電された稲妻が、空間を切り裂き輝いた。
「・・・ふたーつ・・・」
笑っているようで笑っていない翠の眼差し。細く眇められて、周りを睨んだ。
可憐な口元が動いて、三つ目を数えようとした時。
銀色の影が走った。
銀色の影はアリアナのフォルトラン・デルサ。
彼が捕えた男の手には、光り輝く映写機が。
「・・・隠し撮りか。アカデミーの生徒ともあろう者が、嘆かわしい」
その呟きに切れたのは、エイミールでもなければ、誰でもない。そのパパラッチだった。
「聞き捨てならない。王子殿下。あなたはこの姿のエイミールを見てなんとも思わないのか?可憐だとか。可愛いとか。似合うでしょう? むしろ男物を着るより似合っている!!! そして可憐な姿を後世に残さずして如何する!」
開き直ったそれには周りも頷いている。
そしてそれは、エイミールを憤死させかけていた。
しかもだ。頼りになるフォルトランが・・・よりにも酔って変態の雄たけびに納得しかかっている!
「後世に・・・確かに・・・この姿を残さずして何のための映写機か」とか何とか呟いて違う世界にこんにちわしかかっているよ。おい。
「そうだ! 似合うぞエイミール!」・・・と、フロス。
「冥土でこれだけ萌えるんだから、ナースだったら怪我も治りが早そうだ」と、ディー。
「正統派冥土も良いけど、こっちのピンク系もふわっとして可愛さ倍増?」と、アレス。しかもどっからだしたんだ、その服とは誰も突っ込めないらしい。
「いや。まて。ここはこの正統派冥土でまずは完成形を! ヘッドドレスはないのか? ないなら仕方がない、このリボンで髪を可愛く結って・・・」と、白いリボンを出したナミ。
「胸元のリボンはリボンタイよりこっちの大判の方を押すぞ!しかも色は赤だ!」・・・どっからだしたんだ貴様・・・と魂抜けそうな呟きが、エイミールの口から出たが、ルイス無視。
「待て!色に関しては一言あるぞ! 俺は赤のチェックを押す!」握り締める紅いギンガムチェックのリボン・・・ルカ。
「・・・オーソドックスに黒のリボンタイ」ぼそりと申告したのは、いつも静かなローリア教授。何故ここにいる。しかも何故混ざる!
「それより足元だ!ニーハイは譲れない! 絶対領域を極めようぜ!」・・・と、馬鹿一号。
「靴は、黒の革靴!」・・・馬鹿二号。
「なにお!スニーカーだっ!」・・・馬鹿・・・。
「パンプス!」
「き・・・」
「「「「「「き?」」」」」
「貴様ら、そこに直れええっ!!!」
デスフレアが炸裂した!
「私は男だと言っただろうが!」
ふんっと腰に手をあて大股開いてふんぞり返るその姿は。
どこをどう見ても一仕事し終わった爽快感に溢れる冥土さんだったらしい・・・。
(((((ああ、愛がいたいっ)))))
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後日。
エイミールの着替えを入れ替えた奴が血祭りに上げられたとか。
生着替え写真を撮った奴が闇討ちにあったとか。
行き先不明の生着替えが、フォルトランの手により見つかったが・・・エイミールに知られる前に焼却されたとか(出所不明の液体がこびり付いていたらしいそれを怒りに任せて燃したのだ)。
生着替えを奪った奴がフォルトランの手により抹殺されたとか。
件の隠し撮り小僧の下に、学園の有象無象がこっそり通う姿があったとか。
しかし潤ったと喜んだのもつかの間。
レイ・テッドの執拗なしごき(拷問とも言う)に彼は学園を泣く泣く去っていった。
レイ・テッドの手元に、無数の隠し撮り写真とネガを残して。
そして。
レミレアとレイの暗躍により、生徒達に渡っていた隠し撮り写真もすべて出され焼却されたという。
テッド兄弟の兄二人の弟に対する愛情は、常軌を逸しているとかいないとか・・・。