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第四曲


 ――次の日、一年四組にて。

 一年四組の担任である一ノ瀬洸太(いちのせこうた)が、教卓に出席簿を置く。

「これにて俺からの話は以上。残りの時間は簡単な自己紹介をしてもらう。じゃあ相川から」

 いきなり名指しをされて咲良は驚き、慌てて立ち上がった。

「あっ、はい! ……えと、相川咲良です。趣味はお菓子作りをすることです。……、……よろしくお願いします」

 咲良はぎごちなく笑って、当たり障りのない自己紹介をして座った。そして内心、もう少し何か言えば良かったかと一人反省会を開く。



 咲良の番が終わると、洸太が次の人の名前を呼ぶ。

「次は鳳」

呼ばれたであろう、咲良の後ろの席の人が立って自己紹介をする。

「私は鳳夏紀(おおとりなつき)です! 好きなことはコスメ収集、ドラマ鑑賞です。あと最近の推しは"Parádox"の一条宙です! 一年間よろしくお願いします!」

 元気よくハキハキと答えるその姿は、今後クラスの中心に立つ人物と言っても過言ではなかった。

 後ろを向いて夏紀の方を見ていた咲良は、彼女と視線が自然と合う。

 すると夏紀は静かに座った後、咲良に笑いかける。

「相川さん、よね? 咲良って呼んでもいい?」

「……う、うん! もちろん! えと、夏紀って呼んでもいいかな?」

「あったりまえ! よろしくね、咲良!」

 咲良は高校に入って初めて出来た友達に胸を高鳴らせ、思わず笑みが溢れた。



 次々と自己紹介が進み、優一の番になった。

「新入生代表で挨拶したから名前は知ってるかもだけど、氷山優一。得意なことは特にありませ〜ん。よろしく〜」

 今までの拍手とは違い、主に女子方面から大きな拍手を得た。

 優一が座ると同時にクラスメイトの女子が手を上げた。

「はいはい、質問! 氷山くんって彼女とかいるの!?」

 その質問に目を丸くする咲良と優一。優一の後ろの席でクスクス笑う奏。

 優一は奏をチラリと見た後、その女子の方を向いて笑ってハッキリと答えた。

「いないよ。……けど、今は彼女とかいっかな」

 その女子は一瞬残念そうにしたが、彼女がいないという情報を得れたからか、少しだけ嬉しそうな表情になる。

 彼らのやりとりを見ていた洸太がため息をつく。

「……個人的なやり取りはこの後にしてくれ。次は皆見」

 名前を呼ばれた奏は立ち上がる。そして真顔からすぐにメディア用の営業スマイルで自己紹介を始めた。

「皆見奏といいます。好きなことはピアノです。入学式の日にも言ったかもしれませんが、氷山優一とは従兄弟関係にあたります。一年間、よろしくお願いします」

 自己紹介が終わると、優一の時と比べものにならないくらいの拍手喝采が巻き起こった。

 そしてクラスメイト、主に女子が騒ぎ始める。

「やっば! 同じ空間にあの皆見奏がいるの!?」

「クラスメイトとか最高すぎない!? 一生分の運使ったって!」

「私、にいなん好きなんだけどサインくれるかな!?」

 クラスがザワザワし始めたところで、洸太が手を叩いて静寂を促す。

「はいはい。騒ぎたくなる気持ちもわかるが、ここでの皆見はただの学生。あくまで一生徒なんだから、あんまり騒いでやるなよ」

 女子生徒たちは洸太の言葉を聞きつつも、納得していない様子だ。しかし騒がしくしても意味はないと思ったのか、すぐに静かになった。

「よし、皆見にだって日常があるんだから静かにしてやれよ。はい、次は村上……」

 奏は座った後に息をつく。そして、心の中で少しだけの後悔が残る。

 

 奏自身も覚悟はしていたが、こうも毎回騒がれると自分が芸能界にいることに少し億劫になる。

 芸能科のある高校に入学すれば、幾分か今よりもマシだったのだろうかと感じる。


 奏はチラリと咲良の方に視線を向ける。

 咲良は奏の方を見ており、二人は目が合った。咲良が奏に手を振り、奏も軽く振る。

「……まぁ、一緒にいられるなら……」

 奏が呟くと、奏の声が聞こえたのか、優一は奏の方を振り返った。

「奏、なんか言った?」

「お前には何も言ってない」

「ひっどぉ〜」

 優一はわざとらしく泣く前をして、前に向き直る。その時の奏は少し微笑んでいるように見えた。







 自己紹介が終わると、洸太が出席簿を持って教室の入口に立った。

「自己紹介も終わったところで、今から全校集会だ。体育館行くぞ〜」

 洸太の指示に生徒全員が立って、ゾロゾロと洸太の後ろについて行った。

 夏紀は咲良の肩を軽く叩いて話しかける。

「咲良、一緒に行こ!」

「うん! 行こう!」

 咲良は笑って応じた。

 二人が教室から出ると、咲良と右側から来ていた誰かとが軽くぶつかった。

 咲良はぶつかった拍子によろけてしまう。

「――っ、わっ! ごめんなさい! よそ見してて……」

 咲良が謝ると、ぶつかった生徒が咲良の方を見て会釈をした。

「こちらこそ急いでて前を見ていなかったから。じゃあ、俺はこれで……」

 そう言って、その生徒は廊下の先は走っていった。


 咲良の肩に夏紀が手を置き、心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫?」

「大丈夫だよ。……さっきの人、同じ一年生かな?」

「ネクタイの色的にそうじゃない? あたし内部生なんだけど、確か中等部の時に編入して来た人かも。もう一年ちょっと前だからあんまり覚えてないけど」

 夏紀の話を聞きながら、咲良は廊下の先を見つめた。しかし特に気に留めることもなく、体育館に向かった。





 体育館に行くと、程なくして全校集会が始まった。

 最初は司会の先生の話をし、長い校長先生の話を聞いた後、今年度の生徒会のメンバー紹介に移った。

「――では次に、今年度の生徒会役員を紹介します。まず生徒会長、二年一組、木場涼(きばりょう)

「はい」

 涼が返事をして壇上に立った瞬間、全体の空気が一瞬にして静まり返った。涼の佇まいはあまりにも美しく、生徒の多くが見惚れるほどだったためだろう。

 斯くいう咲良も同じ女子であるが、涼のことを綺麗だと見惚れていたのだ。

 そんな咲良の様子に気づいた夏紀が耳打ちをした。

「……綺麗だよね、木場先輩」

「同じ高校生とは思えないよ!」

「…………実は、他校に許嫁がいるって噂よ。あの人、社長令嬢なの」

「え!?」

 咲良は驚きのあまり、大きな声を上げて夏紀の方に勢いよく振り返る。

 静まり返っていた体育館に咲良の声が響き渡る。

 皆が何事かと咲良の方を向き、咲良は多くの視線を浴びて顔を真っ赤にさせた。

「…………す、すみません……」

 咲良は申し訳なさと恥ずかしさで縮こまる。

 その咲良の様子を見ていた奏と優一はクスクス笑っていた。

「驚かさないでよ……」

「ごめんって。そんなびっくりするとは思わなくて」

「びっくりするよ! だって許嫁ってドラマとか、そういう話の中だけのことかと」

 咲良はそう言いながら、教壇で話す涼の姿をもう一度見る。


 ――こんな素敵な人の許嫁って、どんな人なんだろうなぁ……。


 咲良がそんなことを考えているうちに涼の話が終わって、気づいたら生徒会の挨拶も終えていた。





 全校集会が終わったと同時に、高等部一年生の学年主任が話し始めた。

「え〜、高等部の一年生はこの後に簡単なレクリエーションがありますので、このまま体育館に残っていてください。他の生徒は教室に帰っていただいて大丈夫です」

 学年主任の言葉を聞いた一年生はザワザワし始める。

 夏紀が咲良の肩を叩き、話しかける。

「レクリエーションって何なんだろうね。フォークダンスとか?」

「そんなこと……。簡単なゲームじゃない?」

 そして中等部の生徒、高等部の二、三年生は順番に体育館から出ていった。


 体育館にいるのが高等部の一年生だけになったことを確認すると、学年主任がまた話し出す。

「先ほども言ったように今から簡単なレクリエーションを行います。内部生もいると思いますが、外部生もいることを考慮して、皆の親睦を深めていけたらと思います。ルール説明を一ノ瀬先生、お願いします」

 名前を呼ばれた洸太がマイクを学年主任から受け取って話し始めた。

「改めて一年四組担任、担当教科は数学を受け持ちます、一ノ瀬洸太です。一年間よろしく」

 そう言って洸太は軽くお辞儀をする。そして正面のモニターに学校の上面図を映した。

「このレクリエーションのルールは生徒会役員から二人一組で逃げること。逃走範囲はこの学校全域だが、職員室及び立入禁止の箇所には入らないこと。そして、二人一組のペアはこちらで決めさせてもらった。制限時間は30分で、開始と終了の合図としてチャイムを鳴らす。……以上で何か分からない点はあるか?」

 洸太の話が終わると、生徒全体がシン……と静まり返った。

 洸太はこれを肯定と捉えて話を続けた。

「……では十五分後にレクリエーションを開始する。生徒会役員の位置を共有するためにペアと連絡先を交換するもよし、隠れてもよし。では、ペアを確認してから始めてくれ」

 洸太の話が終わると、全員が前方に映し出されているペア割を確認する。

 咲良も確認すると、なんと咲良のペアは偶然にも奏だった。

 咲良はすぐにバッと後ろを振り返ると、奏も驚いたように目を見開いていた。そして、すぐに奏の近くに行く。

「よかった〜、奏と一緒だ! 頑張ろうね!」

「うん。優一と一緒じゃなくてよかった」

 奏が冗談のようにそう言うと、奏の後ろにいた優一が奏の肩に顎を乗せて頬を膨らませる。

「ちょっとそれどういう意味〜。むしろ天才の僕と組んだ方が優勝できる可能性上がるじゃ〜ん」

「お前は平気で敵に俺を売るだろ」

「うわ〜、心外」

 優一が文句を言っていると、優一のペアの人が話しかけてきた。

「氷山ってお前? 早く行こーぜ」

「おー。じゃっ、奏に咲良ちゃん、また後でね〜」

 優一は奏と咲良に手を振った後、彼と一緒に体育館から出ていった。

「……俺たちも行こう。ずっとここにいるわけにもいかないし」

「うん! 逃げ切れるように頑張ろっ」

 咲良は奏の方を向いてガッツポーズをする。そんな咲良を見た奏は、肯定を示すかのように微笑んだ。

 

夏紀が咲良に話しかけた理由はただ一つ。可愛いものが好きだから。

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