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おしまい 久しき昔

続けて読んでいただきありがとうございます。

これで完結になります。

 灰のような空の下で、佐藤桜はかすかに身を起こした。

 焼け焦げた地面に、倒壊した建物の破片が無数に散らばり、戦いの爪痕をそこかしこに残していた。くすぶる瓦礫の向こう、崩れ落ちた高架の影に、誰かが座り込んでいた。


「……坂本君?」


 近づいて、佐藤は息を呑む。


 胸を貫いていたはずの大きな穴は、もうどこにもなかった。

 両腕も、いつのまにか元通りになっている。けれど、その穏やかな横顔は、どこか、何かを失っていた。


 師匠の姿がない。


「師匠は?」


 問いに、坂本はゆるく笑い、目を細めて空を見上げた。


「調子が悪いから、先に……行ってるってさ」


 まっすぐ空を見つめるその目が、どこか今にも泣きそうだ。


 しばらくして、坂本はぽつりと呟くように言った。


「師匠の正体、もう知ってるんだろ?」


 佐藤は黙って頷く。


「不思議だったんだ。あの人が、あんな謝罪会見に乱入してマスコミや試聴している国民に『お前らなんか、助けてやらない』なんて言ったくせに……俺たちヒーローを鍛えて、育てて、最後には命を燃やしてまで怪人と戦ってくれたってことがさ」


「……私たちの、ために?」


 坂本は首を横に振った。


「いや、それだけじゃない。仲間のためとか、俺たち後輩のためとか、きっといろんな理由はあったと思う。でも、……きっと、それだけじゃない。あの人は……人類そのものが、好きだったんだと思う。どうしようもないくらいに」


 だからこそ、あの会場で叫んだのだ、と。

 醜く、乱暴に、誤解されることも承知で……それでも人類にほんの少しでも『変わってほしい』と叫んだ。


「ほんのわずかにしか残っていないヒーローエネルギー、それと命と師匠の想いが強く反応して、災害級の怪人すら赤子のように倒してしまう。本来なら治すことなんてできない致命傷すら治して……」


 坂本は佐藤に背を向けた。

 垂れたこうべから雫が数滴、地面を濡らす。乾いた地面にはその雫の跡は目立つ。


「本当に、俺たちのヒーローだよ」



ーーー


 夜の森。

 木々のざわめきに交じって、微かな風鈴のような音が聴こえる。


 もう、歩けないし、座れない。


 埋葬人は変身を解いていないのに、髪も黒い和服まで雪のように真っ白になっていた。


 これ以上は無理なんだろうな。


 そう思い、埋葬人は、森の中で仰向きで倒れた。

 もう立つことはできない。息を吸っても、土や草のにおいさえもう感じない

 目を漠然と空に向ける。枝葉の隙間から、かすかに星のようなものがまたたいていた。


ーーー

ほたる


 ……蛍か。


 ひとつ、ふたつ。目を凝らせば、その淡い光は森のあちこちで揺れていた。水辺の上、草の間、木々の影。


 大切な誰かを探す光か


 私はぽつりと声にならない声でつぶやく。

 

 すると、足音が聞こえたような気がした。こんな森の中に、人などいるはずないのに。

 足音の聞こえた方に目を向けた。きっと、野生動物が弱った私の喰らうチャンスでも狙っているのだろう、そう思っていた。

 そこに視線を向けると薄暗い中に死んだ先輩たちやバディ、ともに戦ったヒーロー達がいた。

 淡い緑色の光に浮かび上がったところだけ、薄らと見えた。


 そうか、先輩方が迎えに来たのか。洒落たことをしてくれるな。


 そもそも、死にかけの脳が見せた幻覚かもしれないけれど、この幻覚に感謝した。この最期に、彼らと会えるのなら。

 先輩が近くにやってきて、顔を近づける。

 口の形が、あの時、うまく聞き取れなかった言葉と同じ動き動きを作っていた。


「……ねえ、また、ほたるの笑顔、見せてよ」


 その言葉で、先輩の死ぬ間際の言葉を思い出す。


 なんだかんだで、先輩、私の名前、最後には呼んでくれたんだな。


 子猫のような大きな瞳の魔法少女風のヒーローが、私の手を取る。手はとても心地よい温かさだった。母の手に包まれたような温もりと、安らかな気持ち。それが手から腕へとゆっくりと満ちていく。

 見たことのあるヒーロー達が私を囲み、手を当てる。次々と淡い温かみがめぐる。

 彼らの顔、忘れるわけがない。


 君は二人目のバディだったね。ベッドでのあの態度、まだ怒ってたりしないかな。

 私が力足りなくて、君を死なせた。

 きっと、怒ってるよね。

 死んだ時、私の腕の中でなんで微笑んでいたんだい?

 なんで今も笑顔なんだい?


 君は私を狙った攻撃を庇って死んでいったね。なんであの時庇ったんだ、って思ったけれど、逆の立場なら私もしていたよ。

 自然と動いちゃうよね。弟子2人できたら、ずっとそんな感じだったし。


 君は瀕死の私を治療していた時に怪人に殺されたよね。君みたいな貴重な回復ができるヒーローは前線に来るべきじゃないのに。


 君は、私の技に巻き込まれて死んだよね。俺ごと切れだなんて、今時流行らないのにさ。あの時の怪人は本当に、どうしようもなかったよね。あの役、私がやるって言ったのに、これは年長者の役目だって。

 前世含めたら私が一番の年長者だ、なんて言ったら、バカ言ってねぇで攻撃任せたぞ、とか言ってさ……


 そのヒーロー達の顔は忘れた日はない。

 本来死ぬべきだった自分の代わりに死んでいったバディ達やチームを組んだ者たち。

 次第に体が温かくなる。

 ただの熱を、彼らが送ってきている?

 そんなわけない。

 命、それに似た、もっと静かで強いもの。


 恨まれても仕方ないと思っていた。

 化けて出てきて殺されても仕方ないと思っていたのに、まだ私に生きてほしいのか。


「な……なんでだよ。まだそっちに行けないのか?」


 先輩たちは優しく私に微笑みかけた。


「……私たちの分も……生きて」


 その言葉に、胸が締めつけられる。

 流れ出す感謝と悔いと、そして頬を伝う涙が止まらなかった。


ーーー


 ほんのりと藍がにじみ始める、夜と朝の狭間。森は静まり返っていた。


 風が、そっと木々を揺らし、草を撫でた。

 草を撫でるその気配が、体のどこかを通り過ぎたとき、ほたるの指がわずかに動いた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


感想やブックマーク、評価などありますと、次回の作品の励みになります。

感想に『またこんな感じの恋愛のないts系書いてほしい』『食べ物屋さん巡りのものがいい』『短編のアレを連載にしてほしい』などの意見を書いていただけると今後の活動の参考になりますので助かります。




『蛍の埋葬人』を書くにあたり、

  主人公が頑張りすぎるヒーロー系

  追放ものだけど、ザマァのないやつ  

のものを考えて作りました。

 ザマァはスカッとする部分はあるのですが、ヒーローというものをメインに話を展開するにあたり、ザマァをするヒーローの話は格好悪いな、という自論に行きつき、ザマァはなしで、できる限り読後感の後の余韻の良いものになるように書きました。

 そのように感じていただけたら嬉しいなぁ、と思います。


 どうしてもうまく書けなかったのは、ストーリーに出てくくる『蛍の光』の歌詞をうまく文章に織り交ぜることでした。

 プロの人たちやセンスのある人たちは本当にすごいと心から思いました。


 世の中にはヒーローみたいな仕事、ヒーローみたいに仕事をしている方々がおり、私はいつもその方々に感謝しております。

 何も知らない方々から罵倒されても、言い返すことなく、ただひたすら仕事を遂行されているところを見ると、崇敬するばかりです。


 私がいつも書くヒーローものは、その方々へのリスペクトです。

 私も誰かにリスペクトされるような人になりたいですね。


 こんなところまで読んでいただきありがとうございました。

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