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メルリン  作者: mikkiri
3/4

3話 —出会いと約束—

 夕暮れ時、アーリンは立ち止まり、空を見上げた。手に魔力を込める


「ブリクシオン」

そう呟くと、淡い光の円が足元に広がる。方位魔法。光の流れが示すのは、次の町までの距離。


「……半分か。今夜は野宿になりそうだな」

呟くと、アーリンは歩みを進めた。


やがて辺りは暗くなり、森の静寂が周囲を包み込む。適当な場所を見つけると、アーリンは腰を下ろした。


「この辺りにするか」

そう言ってあたりを見渡すと、手を軽く振る。


「リャーマ」

炎魔法の詠唱とともに、焚き火が勢いよく燃え上がる。揺らめく火が、夜の冷たさを和らげた。


「……ふぅ」

疲れた身体を休めるように、アーリンは仰向けになった。目を閉じると、満天の星が瞬いているのがまぶた越しに感じられた。


「父さん……俺は必ず……」

その言葉を最後に、意識は闇に落ちていった。


___________________________________________


(……ここは?)


 気がつくと、アーリンは見知らぬ場所に立っていた。周囲には何もなく、ただ白と黒のローブを纏った二人の男が向かい合っている。


 彼らはアーリンに気づいていない様子だった。次の瞬間——


「ムンドラソ!」


黒いローブの男が魔法を唱えた。

途端に空気が歪み、禍々しい気配が広がる。アーリンの目の前で、空間がひび割れ、裂け目が生じた。


 そこから溢れ出したのは——

「……!」


 目を見開く。そこに現れた魔物たちは、アーリンが二年前に遭遇したものと同じだった。あの時、不思議なゲートに閉じ込められ、父が襲われた……あの魔物たち。


 息を呑むアーリンに、黒いローブの男がこちらに目をやる。男の視線が突き刺さった。

冷酷な目。


 次の瞬間——

「っ!」


 アーリンは飛び起きた。

「……ハァ、ハァ……」


 荒い息を整えながら、額の汗を拭う。

(なんだったんだ、今の……)


 あたりを見渡すと、目に飛び込んできたのは、美しく輝く朝日だった。先ほどの夢とは対照的なほどに、明るく心地よい世界。


「……変な夢を見たな」

そう呟き、アーリンは再び歩き出した。


___________________________________________


 数時間後——

「……見えた!」


 視界に飛び込んできたのは、目的地である町の姿。(魔法石が多く見つかる町って聞いたけど……思ったより活気がないな)


 違和感を覚えつつも歩みを進めたその時——

「うわっ!」


 不意に誰かとぶつかった。

アーリンと同じくらいの年齢だろうか。ブロンドの髪がゆるくウェーブし、緑のローブと魔法帽を身につけた青年——明らかに魔法使いの姿だった。


「ごめん、ちゃんと見てなくて」

青年が謝る。


「俺こそごめん。俺はアーリン。君の名前は?」

「アムだよ」

「アムはこの町に住んでるのか?」

「ううん、自分の村に帰るところなんだ。またいつか会えるといいね」


「その時は俺と友達になってくれよ」

アーリンは笑顔で手を差し出す。アムは少し恥ずかしそうに頷いた。


「……うん。またね」

そう言い残し、アムは歩き去った。


「それにしても、この町、本当に活気がないな……」町の様子を気にしながら、アーリンは魔法協会へ向かった。


___________________________________________


 アーリンは、街の中心に位置する魔法協会の扉を押し開いた。


「こんにちは」

声をかけると、カウンターの奥からひとりの女性が姿を現した。


彼女は柔らかなブロンドのボブヘアを揺らしながら、穏やかな微笑みを浮かべている。


「こんにちは、旅人さんですね」


「ここって、魔法使いの活動が盛んなモーネリアって町だよね?」


 彼女は少しだけ表情を曇らせた。


「ええ、モーネリアということだけは間違いではありません」


「どういうこと?」


「少し前まで、モーネリアは【小さな魔法石の町】と呼ばれていました。この町の近くには魔法石の眠るダンジョンがいくつもあり、多くの魔法使いが訪れていたんです。でも……」


 彼女は一呼吸置き、少し遠くを見るような目をした。


「ある時でした。いつものように魔法使いたちがダンジョンに潜っていました。しかし、そのうちの一つのダンジョンから戻ってきた者たちが、こう言ったんです」


「今までに見たこともない魔法石を見つけた、と」


 アーリンは興味を引かれたように身を乗り出す。


「それを聞いて、多くの魔法使いたちが次々とそのダンジョンへ挑戦しました。今度は複数のパーティーを組み、大勢で――攻略の難しいダンジョンならば、人数をかけるのが正解ですからね」


「……で、そのダンジョンの攻略は?」


 受付嬢は表情を引き締め、静かに答えた。


「――全滅です」


「え?」


「厳密に言えば、数人の生存者がなんとか戻ってきました。しかし、それ以来、魔法使いたちはこの町から姿を消し始めたんです。かつては多くの魔法使いで賑わっていたのに……」


「そんなに危険なダンジョンだったのか……」


アーリンが呟くと、受付嬢は静かに頷いた。


「あなたは『天響の魔法石』について知っていますか?」


「……確か、悠久の魔法石に関係する魔法石だよね?」


「ええ、簡単に言うとそうですね」


 受付嬢は手招きし、奥のテーブルへと案内した。


「どうぞ、座ってください」


 アーリンが腰を下ろすと、彼女は紅茶をテーブルに置いた。


「ありがとう」


「では、お話ししましょう」


 彼女はカップを手に取り、落ち着いた口調で続けた。


「この世には、悠久の魔法石を除くと二つの魔法石が存在します。一つは、通常の魔法石。人々の生活を豊かにするために用いられるものです。そしてもう一つが、天響の魔法石」



「天響の魔法石は、通常の魔法石とは比べ物にならないほど膨大な魔力を宿しています。ですが、日常生活には向きません。それに魔力の強さ故に、他の魔法石と強く反応し合ってしまうんです。」


「魔法石同士が反応し合う……?」


「ええ、まるで磁力のように。そして、その天響の魔法石の力が向かう先には、悠久の魔法石があると言われています」


「つまり……天響の魔法石を集めれば、悠久の魔法石へ辿り着けるってこと?」


受付嬢はゆっくりと頷いた。


「そして、この世界のどこかには、魔法石を加工し、魔法武器を作る一族もいるそうです」


「魔法武器を……」


「ただし、天響の魔法石が眠るダンジョンは、通常のものより遥かに強力な魔物が潜んでいると言われています」


 アーリンは、ふと受付嬢の目が真剣な光を帯びていることに気づいた。


「……だから、あなたには諦めてほしい」


「……え?」


「今のあなたに、天響の魔法石を手に入れるだけの力はないでしょう?」


アーリンは一瞬驚いたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「お姉さん、優しいなぁ」


「……?」


「心配して言ってくれてるんでしょ? わかるよ。だって、本当はこの町を一番復興させたいのはお姉さんだから」


受付嬢の目がかすかに揺れる。


「……」


 瞳に涙がにじむのを隠すように、彼女は目を伏せた。


「天響の魔法石はまだ無理だけど、まずは普通の魔法石を集めるよ」


「……え?」


「そしたら、この町で魔法石が取れるって噂がまた広まるだろ? 俺も成長できるし……あと、お金も稼げるしね!」


受付嬢は驚いたように目を見開いた。


「……ふふっ」


アーリンがニコッと笑うと、彼女も微笑みを浮かべた。


「あなたは……今日初めて会ったばかりなのに、まるで太陽のような人ね」


「太陽?」


「ええ。暗闇の中でも、あなたの存在が明るく照らしてくれる気がする……」


 彼女は小さく息をつき、姿勢を正した。


「私の名前は――魔法協会秘術研究機構アーカニア地方モーネリア管轄のプロテアです」


「……長い!」


 アーリンが思わず笑うと、彼女もクスッと笑った。 


「俺はアーリンだよ、ただのアーリン」


「じゃあ、あなたの前では私もただのプロテアでいいかしら?」


「もちろん! よろしく、プロテア」


「ええ、よろしくお願いします。モーネリアでのサポートは、私にお任せください」


――その夜。


宿の部屋で、アーリンは昼間のプロテアの言葉を思い返していた。


(ダンジョンには魔物が潜んでいるの。天響のダンジョンでなくても、油断はしないでくださいね)


そして、ふと脳裏に浮かぶのは――因縁の魔物たち。


父を襲った、あの魔物たち……


「……あの時の魔物も、か」


静かに呟きながら、アーリンは目を閉じた。


やがて、深い眠りへと落ちていく。

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