癒される音
恒例となった毎週の雑談タイム。穂香は御機嫌の様子で鼻歌を奏でる。
「ここ最近とても嬉しそうですね」
「ええ。調子が良いの。最近ね」
穂香が奏でる曲、涼真は聞き覚えがあった。
「その曲って…記憶違いじゃなければ昭和の曲ですよね」
「ええ。好きなアイドルの…好きな曲。そして…私が歌とダンスを始めた理由で、アイドルに憧れ……アイドルになった理由」
「はぁ…アイドルに………」
サラッと穂香が言った単語を口にし、涼真は長らく沈黙して立ち上がって驚く。
「ええぇぇぇーーーー!アイドルなんですか!!?谷口さん!!」
涼真の大声に穂香は顔を顰めて睨む。
「うるさい」
「あ、ごめんなさい…」
穂香に怒られた涼真は肩を落として落ち込み、大人しく座る。
「そういえば言って無かった。私がアイドルだって…。まぁ…正確には候補生だけど」
「候補生でも十分凄い気がしますけど…」
「全然…。本当に凄い人達は瞬く間にメジャーデビューする」
「そう…なんですね…。あまり詳しくないから何も言えませんが…。応援はします」
真剣な表情で目を見て心からの言葉に穂香は照れ、そっぽ向く。
「よくそんな恥ずかしい事が言える」
「恥ずかしいかな?」
「恥ずかしい台詞……でも、まぁ…」
「…?」
「ありがとう……と言って上げる」
「それは……どう致しまして?」
「何で疑問形なの…」
穂香は睨むような目付きで振り返る。
「いや…どう返したら良いか分からず…」
「何それ…フフッ…」
厳しい目付きはクシャッと笑って目元が柔らかくなり、穂香は普通の少女みたく笑う。涼真は彼女の表情に見惚れていると、元の厳しい目付きへと戻る。
「何…?」
「あ、その……谷口さんの好きな曲、聞かせて下さい。割と前に趣味の話をした時、ゲームに熱中して谷口さんの趣味の話を聞けなかったし」
「……その時の事は忘れて」
「谷口さんの趣味の話を聞けば忘れるかも知れません」
「…分かった。けど、必ず忘れて」
「はい。出来る限り」
「必ずよ。必ず」
そうして二人はいつも通り雑談を交わし、談笑していき気付けばアラームが鳴った。
「…もう終わりか…。もう少し音楽の話…聞きたかった…」
「また来週話せば良い」
「それもそうか。じゃあ、帰りましょう」
「言われなくても」
二人はベンチから立ち上がり、階段を下りて行き二人は別々に別れた。
「へぇ~…。最近調子の良い理由ってそういう事なんだ…」
彼女等の様子を近くの木の影から見ていた彼女はスマホの画面へと目線を落とす。画面の中で涼真と穂香が楽しそうに話す様を見て企むような薄暗い笑みを浮かべた。




