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調子の良い日

劇場の公演、穂香は他のアイドル達に混ざり、目立たない端で歌って踊る。


(鈴江先輩が居なくなっても私の位置は変わらない。人気メンバーが注目を集める場所からより注目を集める場所に移動しただけ。所詮そんなものよね)


やさぐれた考えが頭の中に浮かべていると一人の女性が目に入る。誰かに連れて来られたのか、気まぐれに入ったのか分からないが、慣れない様子でキョロキョロと戸惑っているのが見て取れる。


(まぁ…楽しみ方が分からなければつまらないよね)


そんな事を考えて見ていると目が合う。穂香は目を逸らすのは変だなと思い、ニヒルでキザに彼女へ笑い掛ける。ただ一人に向けたファンサービス。


穂香の笑みを受けた女性は心臓が撃ち抜かれた衝撃が走った。けれど、それは彼女だけでは無かった。女性の周りに居た人達は穂香の笑みを見て、女性のように心臓を撃ち抜かれて自分へ笑い掛けたと盛り上がる。


「それでは今日のライブは以上です!!皆ーーー!!応援、ありがとーーーー!!それじゃあまた会おうねーーーー!!バイバーーーイ!!」

『『『『『バイバーーーイ!!』』』』』


観客達に頭を下げ、皆が舞台裏へと捌けていく。


『『『『『チエリーーーン!!』』』』』

『『『『『ミャーーノーー!!』』』』』

『『『『『りんたそーーーー!!』』』』』

『『『『『なっちゃーーーん!!』』』』』

『『『『『穂香ーーーーー!』』』』』


人気メンバーの名前や推しの名前が飛び交う中、その声に紛れて穂香の名を呼ぶ声が聞こえ辛いが、穂香にはしっかりと聞こえる。


「ほ、穂香ちゃーーーん!!」


それらの声に紛れて女性が自分を応援する声が聞こえて、嬉しさで笑みがニッと溢れる。しかし、直ぐに素へと戻って照れた表情を隠しながら穂香は捌ける。その彼女の表情を見ていた者達は彼女に心を完全に奪われた。


「な、なぁ…穂香ちゃん…良くね」

「あ、ああ…良いな」

「友達に誘われて初めて来たけど……推し、見付かっちゃった…」


穂香はいつも通りサクサクと衣装を剥ぎ、汗を拭いて私服へと着替え、帰り支度を終えて楽屋からいの一番に出る。


「お疲れ様でした」


そう言いながら扉を閉めてエレベーターへと向かおうとすると目の前にプロデューサーが居り、驚いて思わず後退る。


「おはようございます、プロデューサー」

「ええ。おはようございます、谷口穂香さん」

「私はこれで失礼します。それではお疲れ様でした」


穂香はプロデューサーに頭を下げ、彼女の隣を通り過ぎてエレベーターへと向かう。


「待ちなさい」

「…はい」


穂香はまた説教されると思いながら立ち止まって振り返る。予想通り厳しい顔付きのプロデューサーの表情、それが優しい笑顔へと変わった。


「今日の貴方!最高だったわ!今後も励むように!そして、その素敵な笑顔!忘れないようにね♪」

「は、はい。ありがとうございます…」


思わぬ賞賛に目を白黒とさせながら頭を下げた。


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