甘い卵焼き
二人は屋根付きのベンチへと座ると、穂香はスマホを取り出してタイマーを設定する。
「じゃあ、十分スタート…」
ポッと音が鳴り、タイマーがスタートする。
「あ、すいません。昼食えてないので食いながらで良いですか?」
「…まぁ…しょうがない。どうぞ」
彼は学生鞄から風呂敷を取り出して、中を開くと弁当箱が現れる。
「頂きます」
細長いケースから箸を取り出し、脇に置いて弁当箱の蓋はその上に載せる。
「…あんたの名前は」
「佐伯涼真。貴方は」
涼真は聞き返しながらミニトマトを頬張る。
「谷口穂香。年齢は?私は17」
「タメです」
彼がそう言うと質問の手札が切れて、沈黙の時間が流れる。
「……何か他に聞きたい事ある?」
自分の手札が無くなった為、涼真に訪ねる。
「ん…じゃあ…」
涼真は視点を周りに動かし、弁当箱の中にある卵焼きに目を留める。
「甘い卵焼きと出汁の卵焼き、どっちが好きですか?」
「甘いの」
「俺もです。俺んちは昔から甘いの派なんですよね。びっくりしません。しょっぱいの食べたら」
穂香はコクンと頷く。
「分かる。甘いと思って食べるからしょっぱいの食べると反射で吐きそうになる。うちはお母さんがしょっぱいの好きだから卵焼きってそんなに家では食べない。卵焼きを食べるのは父方のお婆ちゃん家に遊びに行った時くらいだし」
「そうなんですか…。なら、食べます一つ」
チラッ…と弁当箱の中身を穂香へと見せて、穂香は手を振って拒否する。
「…別に良い。他人のを欲しがる程食いたいわけじゃないから」
「良いですよ。一つくらい。それともあ~んした方が良いですか?」
意地悪い笑みを浮かべた涼真に不愉快そうな視線を向ける。
「…そんな気色悪い真似されるなら自分で食べる」
穂香は卵焼き一つを手に取って口へと運び、目を見開く。
「旨い…」
「口に合って良かった。レシピ要ります?」
「…要らない。作らないし」
「そうですか」
「…いや、でも…気が向いたら作るかも知れないから」
穂香は黙って手を差し出し、涼真は喜んでノートを学生鞄から取り出し、レシピを書いて破って渡した。
「どうも、ありがとう」
それから弁当の話題で盛り上がっていると気付けばスマホが十分を告げる時間経っていた。
「それじゃあ今日はこれで終わり。じゃあね」
穂香はスマホのアラームを止めながら、立ち上がって涼真に背を向けて歩き出す。涼真は弁当を脇に置いて立ち上がって手を振るう。
「また来週も会いましょう!!」
「会えたらね」
涼真に聞こえない音量で呟き、背を向けながら涼真に手を振った。
そして、次の週…涼真は屋根付きベンチに座って待っていた。
「……はぁ。じゃあ、十分だけ」
「はい。今週も宜しく御願いします」
穂香は涼真の言葉に変な恥ずかしさを覚え、顔を背けながら座って、スマホをベンチの上に置いた。
「十分…スタート」




