偶々の出会い
「はぁ…最悪」
穂香はトボトボと帰り道を歩き、先程の事を思い出し、顔を俯かせる。
「別に笑顔が良いのは分かってる。でも…どうしても顔が強張る。けど、アイドルに成れないなんて言わなくても良いでしょ」
そして、憂鬱げに溜め息を吐く。
「あの去り方。心象悪いよな…。やってしまった…」
地面を眺めながら歩いていると首筋に冷たい何かが伝う。
「…汗?」
穂香は首筋に手を当てて拭う。だが、頭にも何かが落ちて、濡れるような感覚に上を向くとポタポタッ!と勢いよく顔に雨粒が当たり、ようやく雨だと理解する。鞄の中に折り畳み傘が無いか探ってもない。
「本当…最悪…」
まるで世界中が敵になったような疎外感に穂香は被虐的に笑う。
「いっその事…風邪を引こうかな。そうして今日の記憶全部あやふやにしてやろうか…」
そう言って歩いていると気付けば公園の中へと入っており、屋根付きのベンチが見える。けれど、全身既にびしょ濡れで下着まで濡れているのが肌で分かる。
「もう良いや…階段に座ろう」
自棄になった穂香は水溜まりが出来ている階段の所へわざわざ座る。
「ははっ……気持ち悪い」
つまらない様子で笑うが直ぐに落ち込んだ表情となる。ザーーーッと勢いよく降る雨の中、体温が順調に落ちてるのを感じていると、影が掛かりパツパツと雨が弾く音に気付いて、視線を上へと向ける。其処には同い年位の黒髪の男の子が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?」
「…大丈夫です。放っておいて下さい」
穂香はフイッと顔を背ける。
「そうですか」
カタンッ…と音が聞こえて頭に傘を被る。
「何…?」
傘を持って上げると先程の男の子が雨を浴びながら階段下りて行く。穂香は慌てて傘を持って立ち上がる。
「ちょっと!傘!」
「上げるよ!俺、折り畳み傘あるし!」
男の子は地面へと着くと振り返って学生鞄から取り出した折り畳み傘を見せて、袋を剥いで鞄に仕舞うとさっさと傘を開いて去って行った。
「…勝手な…」
穂香は手元の傘を見て…仕方ないと溜め息を吐き、鞄を手に取ろうとした時、鞄の上にタオルが掛かっているのに気付く。
「プレイボーイ…」
穂香はタオルを頭に被って鞄を持つ。
「…借りるだけだから」
既に去って行った男の子へ向かって独り言ちた。
次の週、同じ時間に男の子を待っていると見掛けた鞄を持つ男の子がやって来た。穂香はその男の子に近付くとバンッ!とタオルと傘を押し付ける。
「ありがとう。傘、タオル」
「え?あ、ああ…先週の…」
「それじゃあ」
「お、おお」
穂香は用事を終えたと足早に去って行った。
そして、また次の週。二人は面を向かって出会う。
「「あ…」」
緊張したからか、焦ったからか、照れたからか、もう会う事は無いと思っていたからか、理由がどれかは分からないが、気まずさで穂香は変な事を口走った。
「十分」
「え…?」
「十分だけ……話をして上げる」
それが谷口穂香と彼の十分だけ話す妙な関係の始まりだった。




