10.少し元気が出てきた女の子
男爵は3回目のビックニュースを聞いた途端、また何かに流されるかもしれないと思い、すぐさま子犬を1匹譲って欲しいとその領民に申し出た。
領民は快く受け入れ、子犬が母離れできる時期に屋敷に連れて行くと約束した。
男爵は賢そうな子犬を選んだ。あぁこれで娘へのプレゼントは完璧。あとは娘と一緒に子犬の名前を考えるだけだ!
ルンルンと家に帰り、数日後に雑談をしに行くと、そこには女の子がいた。あぁやはりそうだったか。
女の子も当初の第4王子と同じく、儚げで物静かだが、会話はしてくれた。男爵は同じ年頃の娘がいるため、すぐに女の子が心配になり、その場で後見人にさせてほしいと申し出た。(男爵も少しづつ自分で行動ができるようになってきた。)
女の子と御者はその申し出をありがたく受け入れ、女の子は男爵の娘と交流することになる。
2人はすぐさま友達となり、毎日犬の散歩をするようになっていく。
男爵の娘は所作が綺麗な女の子に憧れ、今までめんどくさかった教育を真剣に学ぶようになった。(男爵はウハウハである。)
男爵の息子は女の子に一目惚れしたが、恐らく第4王子に取られるだろうと、一目惚れと同時に失恋を味わった。今ではすっかり兄妹のような友達である。
女の子の儚げな微笑みが元気な笑いに変わる頃、男爵家族との夕飯で突然言い出した。
「私、パン屋さんになるわ!」
みんなはまじかと思いつつも、女の子なら何でもできるし大丈夫だろうとも思った。
早速女の子は男爵と共に家の近くのパン屋さん(男爵の幼馴染)に行き、仕事をさせて欲しいとお願いした。
パン屋の店主は人手が足りなかったので、すぐさま働きに来て欲しいと言った。
女の子は可愛い売り子 兼 パン職人 となった。
女の子は今までどうでもいい派だったが、ひとたび元気になると色んなことをやりたくなった。つまり反動である。
首都にいたときはフワフワの白パンを食べていたのに、ここではなんだか硬い。なんとかならないかと思い、店主からパン作りを教えてもらい、店主同様のパンを作れるようになった。
飲み込みが人一倍早く、苦労して習得した交渉力で男爵達を動かしまくった結果、酵母を入手した。
そして、持ち前のアレンジ力ですぐにフワフワの白パンを作ることができた。
他のパン屋にも作り方と酵母を無償で伝授し、全ての領民がフワフワのパンを食べられるようになった。まさに食生活の改善である。
作り方と酵母を無料で提供したことで、他のパン屋からの反抗は全くなかった。なにより女の子は女神のように可愛く、全ての行動が正義になるからである。
男爵家の夕飯もさらに美味しくなり、女の子はいつもより美味しそうに食べるようになった。
そしてまた夕飯で突然言い出した。
「私、紅茶づくりの職人になるわ!」