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二話 【 魔王 】


 その日、勇者は驚愕した。

 目の前で消えている大量の料理と、王都から支援された一か月分の金銭が煙のように消えていく光景に。


 「ふぅーッ! 御馳走様でした~」


 山のように重ねられた食器を前も、女性は満足そうな表情で椅子の背もたれにもたれる。

 ここは勇者が旅を初めて最初に訪れる村。

 王都から一番近い小さな村である事から、田舎の村よりも多少は近代的な文化が流用されている。

 その為、王都で有名な飲食チェーン店も展開されている。

 他人に奢る金銭的な余裕もない勇者は、腹を空かせて道端に倒れていた女性を村の(金銭的に安い)チェーン店まで連れてきていた。


 「一か月分の生活費の銀貨が・・銅貨5枚になった」


 因みに銅貨5枚は低収入の給料一週間分の金額である。


 「まぁまぁ! こんな美人を捕まえて御飯を奢る事も出来たんだからアナタも得したでしょ?」

 「え? 元気になった途端にスゴイ傲慢になるじゃん。 やっぱり奢るのやめようかな」

 「わぁーごめん! すみません! アナタみたいな聖人君子みたことない!」

 「ふぅ・・そこまで言うなら奢ってやろう」

 「ちょろいなコイツ」


 初対面だというのにお互い遠慮のないやり取りをしている事に気付き、思わず目を合わせて笑い合った。

 店内も昼時である事もあり村の人達や、勇者同様に王都から訪れた商人や冒険者などが多く混んでいる。

 かなり大声で笑いあっていたが、それでも気にしないくらいに人がいる。


 「まぁー冗談はこの辺りにして、本当に助かったわ。 この御恩は必ず返すわ」

 「いやいや、そこまで気にしなくていいよ。 昔から困っている人を見ると顔を突っ込みたくなる性格なんでね」

 「あら、それはとても面倒事に巻き込まれそうな性格をしてるわね」


 テーブルに肘を置き、手で顔を支え足を組む女性の目は細くなり、まるで獲物を見つけた獣のような視線を勇者に向ける。


 「それじゃあ私を助けた次いでに、もう一つ助けてくれない?」

 「あぁ、いいよ。 あ、でも金銭的なものは無理だからな?」


 ポケットから取り出した小袋を振り、小さく残念な銅がこすれる音が聞こえる。


 「私はここから遥か西の土地から来たのだけれど、その旅の目的でもある人探しを協力してほしいの」

 「人探し?」

 「面倒くさい?」

 「いや、旅に出る前とかで似たような仕事もしてたらか案外簡単かも」

 「そ? それは頼もしいわね」

 「それで、君は一体誰を探してるんだ?」

 「 勇者 」


 何故か、彼女が言い放つ人物を聞いて緊張感が身体全身で感じた。

 周囲の人達の賑やかな声は遠く感じて、さっきまで笑い合っていた彼女とは、目の前にいるのに分厚い壁に遮られたかのような距離感が出来た気がする。


 「私が探しているのは勇者。 この村の先にある王都に勇者がいると聞いてここまで旅をしてきたの」

 

 彼女は笑顔で言っている。

 だけど視線が合うと、彼女が笑顔とは裏腹の感情を抱いている事は一目瞭然だった。


 「確かに勇者は王都にいるらしいけど、君は勇者に会ってどうするの? もしかしてファン?」


 こんな緊張感をさらけ出すファンなんているはずもない。

 分かっているが、少しでも場を和ませようとした無駄な性格のせいで言葉に出ていた。

 そして案の定、彼女は首を横に振った。

 

 「違うわ。 私は勇者に頼み事があってきたのよ」

 「頼み事?」

 「そ。 私を勇者の仲間にしてもらうように頼みに来たのよ」

 「・・・・・へぁ?」


 雰囲気からまるで暗殺をしに来たような感覚から、言葉に出たのはとても友好的なセリフに、勇者は思わず気の抜けた声が出る。


 「だから仲間よ。 な・か・ま!」

 「いや、聞こえてるけど・・・なにゆえ?」

 「なにゆえ・・って、そりゃ魔王を討伐しに行く為に?」

 「まぁ・・そりゃそうだよな」


 なんだ。

 雰囲気に流されて考えすぎただけかと思い、勇者は気持ちを切り替える。

 確かに仲間はいずれ探さないといけない流れだったし、金銭的な面でも1人でもギルド依頼を一緒に受けられるメンバーがいる事に越した事はない。

 場の流れでお互い自己紹介もまだだったが、向こうから仲間になりたいと言うのであれば勇者として断る理由もない。


 「そっか。 それなら先に自己紹介からしておこうかな。 ボクは――」

 「あッ! そういえば私達お互いの名前を知らなかったわね」

 

 勇者の言葉を遮るように声を上げた彼女は席を立ち手を差し伸べてきた。

 勇者はその手を握り、同じように席を立つ。

 

 「私の名前は・・・あ~、ごめん。 ちょっと理由があって本名が言えないの」

 「そうなのか?」


 昔から一部の宗教や組織的なグループがいる場所には本名を隠す習慣がある。

 王都に滞在する聖女も家族以外に本名を教える事は禁忌とされている。

 だから別に彼女が本名を言えない事に対して不思議に思わなかった。


 「じゃあなんて呼べばいい?」

 「そうね~。 あまり良い気はしないけど、大勢の人達に呼ばれている名はあるわ」 

 「君がそれでいいなら呼ばせてもらうけど、大丈夫そう?」

 「う~~~~ん・・まぁ、仕方ないか」


 彼女は数秒悩む仕草を見せると、再び笑顔を向ける。 

 その時の笑顔に先ほどのような緊張感のある笑みは消えていた。


 「私の事は ()() と呼んでくれて構わないわ! 実際、少し前まで魔王をしていたから!」


 彼女を握る勇者の手は一瞬、彼女から手を放そうとした。


 

 

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