セーラー服とオーサカ戦線①
人が死にます。残酷表現あり
ああいう設定故に転生なのか成り変わりなのかよく分かっていません。転生もののつもりで書いていますが、キーワードには一応成り変わりも入れています。
文章表現に自信はありませんが、面白い作品を書けるように頑張ります。よろしくお願いします。
通天閣を銃弾が通り過ぎる。
硝煙に覆われた青空は泣く泣く消え失せざるを得なくなり、地上に闇を落とす。断末魔は掻き消され絶望と勝利が混濁する。
ああ。実に戦らしい情景であった。
ご覧あれよ、倒れる兵士、行き交う閃光、血濡れの河豚看板。あの日の平和は何処へ行ったのだろう。
我々はあの看板をぴかぴかにする言わば雑巾の役を担う。役を与えられた以上、失敗は許されない。アスファルトを焼き殺す日差しが頭上の澱みから溢れた。
「実に良い天候だ」
晴れ、時々鮮血の雨。
本日も良い打撃戦日和である。
箒に跨っている所為で股が痛いが、そんなのを気にしていれば次に痛いのは空いた頭になる。
願おう。平和主義はカントーをあたってくれ給え。此処カンサイには不要だ。
魔導形質というウイルスもどきを持った人種はカンサイへ、健常者はカントーへと分けられた。
魔道形質を持った同士のごたごたで争いが絶えず、戦火はカンサイで激化するだけ。カントーにまで及んだことは一度だって無かった。
私達魔導士だけだ、命の心配をするのは。
「前方に二個中隊を確認」
双眼鏡を構え、黒髪の魔導士は敵影を報告ししてきた。彼は出来た人材だ。
米粒がこちらに突っ込んでくる。散らばった米達は確かに二個中隊規模。レンズを調節するように、段々と大きくなってきた。
異国のライフルを抱えた敵はおよそ三十名。対して我々は十五。
「いつものパターンか」
圧倒的戦力差。凡ならば速攻命を落としている。報告を寄越した中尉によると、輩は此方と違って、魔導エネルギー本来の力を持つ術弾を撃ってくるそうじゃないか。
くそ、覚えとけあの人間不合格野郎め。
「第一部隊を三つに分断。一班と二班は迎撃する」
「大尉殿、無謀です!」
拡大してきた敵影を一瞥し、早々に悲鳴を上げた少尉を黙らせる。
十五名構成である中隊で編成され、最前線であるオーサカにぶち込まれているのだ。今更無謀という文字は存在しない。
先程の文句は無かったことに、続けて指示を飛ばす。
「残りは砲台の顔面にバツを入れ、塹壕の歩兵共を援護しろ。宮沢中尉、貴官は二班の指揮だ」
「はっ、拝命致しますっ」
「一班、二班、我に続け!」
魚鱗の陣を散らし迎撃態勢をとる。
五人を抜かせた十の小隊規模が三十もの戦力に突っ込んでいく。
敵からしたら血迷ったとしか思えん。
「それで良いのだ……」
射程圏内に入る。
炸裂する銃弾を反るように回避。虚を貫いた弾丸はただ爆破するだけだった。
立ち上がり、両足だけで箒の飛行バランスを保つ。真ん中を占める敵の頭蓋。
「“再演”__!」
「一機撃墜」
目を逸らしてみると、優秀な宮沢中尉の肩が見えた。私から一定の距離を伸ばした途端叫ぶ。第二班小隊、前へ出るぞ!
強い火力が迸る。
視界の真ん中を中尉が飛び抜けて行った。
なんて闘志。倍もする数に臆せず突っ込んでいくとは……
「城を壊すなよ。あれはオーサカの誇りだ」
「勿論ですとも。さあ勝負だ、英國魔導空軍!」
火を噴くような爆速。
エネルギー消費量が激しいのにも関わらず、無数の弾幕を張り蹴散らしていく姿からは、やはり天性の才能が滲み出ている。
この第二部隊に所属しているのだ、彼のような天性の才能は珍しくない。数を上げる手は、才能に準ずる成果。
敵の弾道から逸れて避け、荒ぶる箒にしがみつく。
大きく反り直射日光を遮るように飛びかかった。彼を目で追えば紫外線を直に食らって視覚が一時利かなくなる。その一時だけで十分。
ポケットに突っ込まれた札を取り出す。
「電撃符!」
掲げ放った札の魔導反応。解放された途端、モータのように弾幕の生成スピードが加速する。強い電流を纏う札を銃口に押さえつけ、装填済みの引き金を引いた。
一寸、直線の煌めきが走る。
星屑が艶めいたように光った後、凄まじい爆発が起こった。
電撃符。
一直線の閃光を生み出す強力な魔導符だ。
あの爆発は弾丸に埋め込まれた火薬成分を電撃符が刺撃して起こったのだろう。
かなりの兵士を一掃出来た。それでも尚収まらない弾幕は、多分中尉の狂気そのものを表している。
「宮沢中尉に負けてられませんな!」
久しい前線での戦闘ゆえか、さらに勇猛になっているのはどうやら中尉だけではなかったようだ。
「貴様らは突っ込むんじゃない。個体戦力差が歴然としている」
言葉に責任を持てないなら最初から言わないべきだ。
「見ていてください中隊長殿! 英國空軍の糞共を撃ち殺してみせますっ!」
ほら、こんな風にだ。
「よせ、無闇に割って入るなっ」
勿論聞く筈もなく、隊員の箒は駆けていった。なんだ彼奴ら。目の前のエマージェンシーすら感じ取れないのか。
命を担保にしている以上、あの戦好きの上を行く他あるまい。
私も単騎で襲いかかり返り血を飲み干すくらいはするべきなのかあ。
「仕方あるまい」
神も半端な上司も度肝抜くことをせねばならない。帽子を押さえ、追いかけるように突撃していく。
「私は冷酷無慈悲な軍人なのだ……人の命など金平糖より安い! ああそうともっ!」
黒く澱んだ銃口に札を押し込む。的の驚愕はもう見飽きた。
冷酷無慈悲なんて、まるで言い聞かせているようだ。いや別に私はそうは思わない。
「殺しは容易い。なぜなら私は」
“再演”の中原中也だからだ__!
「燃ゆる瓦礫、水面の弦月。息吹く歴史の玉響に」
魔法陣が展開される。再充填の音。
「残像の彼の人よ、決して西へ急ぐこと勿れ」
オーサカらしい風を肌で受け止める。
その風を熱風に変えてやろう。札の封印を解く為、私は呟く。
「爆炎符」
エネルギーで溢れ返る引き金をゆっくりと引いた。
引いた速さに釣り合わない、人を切り裂くような速さで弾丸は飛び出していく。
刹那、万物を焼き尽くすような爆裂。
恐ろしい怒号をあげて暁色に起き上がる。此処でもひどい熱風だ。中尉や連中は私以上に肌に突き刺さっていることだろう。
茸雲を眺める眼の奥で、疑問を抱いた。
なぜ私は中原中也なんだ?
◯●◯
蒼いにおいにとてつもなく吐き気がした。あれが私の最後の夏だった。
肌を引き裂く日差しと空腹に頭をくらつかせながら、学校って本当に幼稚だと責任を押し付けた。漂う冷凍食品の匂いも、女子の窓拭き声も、男女の馴れ合いも、何もかも青臭くて嫌いだ。
ふと見下ろしてみると、美味しそうな弁当がぼやけて見える。
なんだ。あの馬鹿共か。
和気藹々と会話を繋ぐ姿。奇数で固まれる強さを教えてほしい。下で呑気に消化している弁当を吐かせてやろう。
「絶対に許さない……っ、死んだ後も後悔させてやる、呪い殺してやるっ!!」
そうだ。私は奴らの前で死んでやるのだ。
拳よりも言葉が強いことを忘れるな。
ナイフよりも暴言が怖いことを知るべきだ。
私はそれを証明する為に夏空を走る。
思えば、碌な人生を歩んでこなかった。
ある日を境に捻くれ腐りまともな学生面を出来なくなった。しなくなった、と言った方が正しいのかもしれない。なんだか面倒臭くなった。それを悟ったのか、クラスメイトは魔女を狩るように腐った性根を言葉で焼き払い始めた。
別に痛くも痒くもなかった。
私には唯一、仲間がいたからだ。
一緒にカラオケも行ったし、一緒に県外まで出掛けた。大人になってもずっと続く絆。
まあそんなもの、あればこんなことになってない。
「私はクラスの糞野郎と裏切り者を呪い殺す為に死ぬんだ。どれだけ死に瀕しようと完治させて自分で死にたくなるような苦しみを与え続けて殺してやるんだ」
少なくとも天国には行けないだろう。
突然仲間だと思っていた奴は飛んだ。転校しやがった。
良い顔で仰げるのも今日までだ。
チンケなクズ達よ、決して逃しはしない!
「じゃあ__」
下の虐めたクズを見下ろす。
濃い味のコロッケ、艶めいた白米、たらたら注がれる麦茶。
美味しいご飯はもう来ない。根付いた雷轟は元には戻らない。
私はそれだけでも教えてやりたかった。
「また、明日ね」
フェンスの向こうには雲が広がっている。
絶望の縁を舐めた。跨いだフェンスのあちら側にはチョークの粉が染み付いていた。咳き込みたくなるような狭い喉は自由になりたがっていた。
私は今日から自由だ。教科書を放り投げ、弁当箱をひっくり返し、制服を八つ裂きにする。
一歩踏み出した刹那、綿菓子味がどんなか初めて理解した。
初めまして。独歩の独り歩きと申します。
文豪と戦記ものにハマり、ついに一次創作を生んでしまいました。
色んな文豪モチーフの作品があるけど、軍人キャラの文豪はいないんじゃね!? という浅はかな考えで生まれた物語です。もしかしたら既に軍人の文豪の作品はあるのかもしれないが……
とにかく、面白い作品を書けるように頑張っていきます。よろしくお願いします。
独歩の独り歩きでした