主神への報告
ドラゴンゾンビ様を討伐したわたくしたちは、小舟を走らせ南大陸の玄関口である港町ダリスへと到着していました。
「エルサ、とりあえずお祈りしてくるから、その辺りで馬車を買ってきてくれる?」
「お嬢様、馬車は露店で見つけられるほど、簡単な買い物ではありませんよ?」
エルサは何やらブツクサと言っておりますが、きちんと仕事はしてくれるので助かっております。
馬車を購入するまでの時間に、わたくしは聖堂へと入る。無茶をしたこと。主神たるディーテ様に謝っておかねばなりません。
『ディーテ様……』
祈りを捧げると、いつものようにディーテ様が現れる。しかし、どうしてかシルアンナ様までもがそこにいらっしゃいます。
『シルアンナ様?』
『ああ、ここはヒナも知っている私の業務室なの。厄介な問題が起きてしまってね……』
シルアンナ様がそう答えると、真っ白だった背景が記憶にある部屋を映し出していました。
『さっきまでクリエスもいたのだけど……』
『ええ? クリエス様がここに!?』
わたくしは本題を切り出せない。流石に少しばかり落胆してしまったから。あと少し早くダリスへと到着していたとすれば、クリエス様に会えたのだと。
『何だったら喚べるわよ?』
とても魅惑的な提案でした。ずっと気になっていた人なのです。再会の約束をしていたし、会いたくないはずもありません。けれど、わたくしはシルアンナ様に首を振っている。
『いえ、直接お会いしとうございます。ですので今回はご遠慮させていただきます』
『あらそう? クリエスだったら、飛んでくるでしょうに』
それはわたくしも同じです。仮にクリエス様から誘われたのなら、喜んで赴くでしょう。けれど、現状で呼び出してもらうのは違うと思いますの。約束を適当に守るのは間違っていると感じます。
『それでディーテ様、わたくしは無茶をしてしまいました。申し訳ござません……』
脱線したものの、まず謝罪を述べる。使徒としての使命があるというのに、もう少しで天に還ってしまうところでした。調子に乗り過ぎていた軽率な行動を謝っています。
『ヒナ、確かに危ない状況でしたが、ワタシは確信しました。ヒナこそが世界を救う者の一員であると。貴方は間違いなく世界に愛されております。もっと自信を持ちなさい』
咎められるどころか、誉められているような気がする。また何だか部屋が騒々しいことも、わたくしは気になっていました。
『この警報音は何なのでしょうか?』
恐らくアストラル世界にとって良くないもの。耳障りなブザー音が吉報であるはずがありません。
『ええ、実は邪神竜が発生しました……』
眉根を寄せるしかない。邪竜警報は知っていましたが、邪神竜とは何なのかさっぱり分かりません。
『邪神竜様でしょうか?』
『邪竜は貴方も知っているでしょ? 邪竜は発生したあと、元大精霊を取り込んで神格を得てしまったのです。どうしてかワタシとシルの石像が気に入ったらしく、神として天界へ来ようとしているのですよ』
とんでもない話でした。邪神竜はディーテ様とシルアンナ様を目的とし、天界を目指しているのだといいます。
『元大精霊って……?』
わたくしはそれを知っています。しかし、疑問がないわけではない。自身も知るサラやウンディーのことなのか、若しくは違う何かであるのか。
『ヒナ、元大精霊とは貴方が二体も手懐けているものよ。千年前に大精霊であったものたち。サラとウンディーは千年前に消息不明になっていた元大精霊なの。四大精霊の内、火と水を統べる大精霊よ』
『あの子たちって本当に大精霊だったのですか?』
千年前との話は初耳でした。また消息不明であった理由はわたくしにも推し量れている。ベリルマッド六世により彼女たちは封印されていたのですから。
『ヒナが保護してくれて助かりました。シルフのようになってしまえば、更なる混乱を招いたことでしょう』
彼女たちは妖精よりもずっと尊い存在みたいね。言動には少しも威厳を感じないけれど、世界のバランスを担っていた存在であったようです。
『それでシルフ様の神格を奪った邪神竜様は天界に昇ることができるのですか?』
『いえ、直ぐには無理です。何しろ土着神に括られますからね。世界への貢献が評価されるか、或いは信徒が一定数いるのなら死後天界に招かれるやもしれません』
とりあえずは安心です。邪神竜様を信仰する者が多くいるはずもありません。恐らく邪神竜様は魂となったあとも天界へは招かれないことでしょう。
しかし、わたくしは気付いています。天界へ招かれる権利を持つ者について。
『もしかして、邪神タイラー様は天界へ行くおつもりなのでは……?』
神格と信徒の数が条件であれば、タイラー様の目的が自ずと見えてくる。穢れた地上を浄化したのち、彼は天界へ向かうような気がしてなりません。
少しばかり逡巡したディーテ様でしたが、頷きを返しています。
『話すつもりはなかったのですが、恐らくはその通りでしょう。彼はワタシを女神として認めていません。簡単なことではありませんが、タイラー・スティルハートはワタシの元に現れると思います』
まるで言うことを聞かなかったという勇者タイラー様。彼の女神批判は最終的に大きすぎる目的を持ってしまったみたいです。
『大丈夫なのですか? それに邪神竜様についても……』
『タイラーについてはヒナが気にする問題ではありません。また邪神竜はクリエス君に任せるつもりですし』
どうやら突如として発生した邪神竜様への対処はクリエス様が担当するようです。邪竜となっただけでも脅威であったのですけれど、加えてそれが神格を得たというのに。
『クリエス様は討伐できるのでしょうか?』
『難しいかもしれません。ですが、彼の性格からして逃げ回ることを選ぶとも思えません。無茶はしないようにと言い聞かせましたが、何しろ邪神竜はシルアンナの使徒であるクリエス君を狙っているのです。だからこそ、他者の迷惑になることを彼は望まないかと思われます……』
狙われているからこそ向かっていく。わたくしは危うさを感じていました。強大な敵に対して向かっていく心の強さは評価できますが、流石に無鉄砲なのではないかと。
『クリエス君には災禍級以上の悪霊が二体憑いております。支配契約を済ませた彼女たちなら邪神竜に立ち向かえるかもとワタシは考えます』
不安げなわたくしにディーテ様が補足した。どうやらクリエス様に取り憑いていた悪霊様は彼の命令を拒否できない契約を済ませているようです。
『悪霊様を手懐けたのですか?』
『そうなのです。支配契約は魂の一部を奪うもの。今のクリエス君は魔王候補とネクロマンサーというSランクジョブまで手に入れています。通常であればクリエス君でも対処できる可能性はあるのですけれど、彼はステータスが八分の一ですからね。現状では悪霊の力を借りるべきなのです』
とても信じ難いことでありましたが、クリエス様は自力で悪霊様を抑え込んでしまったらしい。わたくしは呆然と頭を振るしかありません。
『では、わたくしが聖女になったことは無駄なのでしょうか?』
ここは聞くしかない。わたくしは意味のないジョブチェンジを果たしてしまったのかと。
『無駄なことなどありません。聖女はSランクジョブ。固有の魔法が多く存在します。邪神が発生したとすれば、貴方の力が必ずや必要となるでしょう』
ディーテ様は優しい笑みを浮かべています。わたくしの力。本当に必要とされるときが来るのでしょうか。
『わたくしはクリエス様を追いかけるべきでしょうか?』
『いいえ、ヒナは独自にレベルアップを。南大陸西南にあるサナタリア島を目指しなさい。そこにはミア・グランティスの使い魔であるヒュドラゾンビが五体いるそうです。貴方のセイクリッドフレアにて全滅させ、更なる力を手に入れてください』
ここで次なる目的地が示されていました。それはわたくしも考えていたこと。ゾンビであれば簡単にレベルアップできる。口にするまでもなく、ディーテ様は考えてくれたようです。
『ディーテ様、ありがとうございます。わたくしは必ずや制約を遂げますから』
『ええ、頑張ってね。ただ島は毒化しているそうなので気をつけて。世界もワタシも貴方の味方ですよ』
わたくしは頑張ろうと思う。クリエス様の手を煩わせることなくレベルアップできるならば、意気込まない理由はありません。
向かう先は西南の島サナタリア島。そこでわたくしは更なるレベルアップを目指します。
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