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転生

 ポンネルという見習い女神による残念な報告を受けた俺たち。正直なところ、アストラル世界が魔王と邪竜の脅威から抜け出せるようには思えない。


「それでポンネル、貴方に任せたドドスコ村が改宗しただけですか?」

『いえ、近隣の村もこぞって改宗するみたいですぅ……』


 ディーテ様は絶句している。ポンネル教が根付きやすいように、信仰心の薄い小さな農村部を見習いの彼女に任せていたらしい。それをエリアごと改宗させてしまうなど想定外も甚だしい。


「このポンコツ……」

『ディーテ様ァァッ! 今、わたしのことポンコツって言ったのですぅ!?』


「気のせいよ。貴方の名前を呼んだだけ。それでポンネル、良い子だからワタシが側にいない場合は何もしないでください。何が起きても静観するように……」


 ディーテ様は釘を刺す。とはいえ当然の処置だろう。このまま彼女を放置していてはアストラル世界の終末が早まるだけである。


『了解なのですぅ。地平の楽園とかいう教団が更なる動きを見せても大人しくしているのですぅ』


「地平の楽園? ポンネル、直ぐに戻りますから、もう動かないでくださいね? 頼みましたよ?」


 些か不安がよぎるのだが、見習い女神のポンネルに自由を与えてはいけない。彼女が介入すると世界は更なる混乱に陥ってしまうはずだ。


 嘆息するディーテ様にシルアンナが疑問を口にする。恐らく彼女は転生する俺たちを心配しているのだろう。板胸はともかく、女神様の中では一番まともそうだし。


「ディーテ様、地平の楽園とはなんでしょうか?」


「実は【地平の楽園】という土着信仰が力を付けているのです。いわゆる邪教であり、その教団が暗躍しております」


「邪教ですか……?」


 それはシルアンナが初めて聞く教団であるらしい。確かに俺も聞いたことがない。そもそも土着信仰は世界的に拡がることはなく、小さなエリア内で完結することが殆どであった。


「地平の楽園が魔王や邪竜発生の引き金となっている感じです。彼らの動きは世界の安寧に反しており、世界の穢れとなっています。それ故に災厄が生み出されやすい環境に世界は変貌しておるのですよ」


 今はまだ魔王候補の発生だけに留まっている。しかし、邪竜の発生値も上がっており、時間の問題なのかもしれない。


「現状では何とも言えませんが、恐らく災禍警報に格上げされた事実は魔王や邪竜以上の存在が現れる可能性を否定しません」


「それ以上の脅威ですか?」

「それこそが地平の楽園の目的ではないかと考えております。彼らが崇める神。邪神を降臨させようとしているのではないかと」


 まだ推測の範囲ですがとディーテ様。更なる脅威は邪神という神格であるという。加えてディーテ様には思い当たる節があるようだ。


「邪神が降臨した世界はほぼ確実に滅亡する運命です。よって今は世界が落ち着きを取り戻すように動いていきましょう。誕生してしまった魔王候補をできるだけ早期に排除します」


 しかしながら、ディーテ様は邪神の話題を打ち切ってしまう。シルアンナは詳しく知りたいと考えているようだけど、不確定な結論を伝えるつもりがなかったのか、ディーテ様は強引に話を転換している。


「さて、それでは二人に加護を与えましょうか。シルは陽菜に。ワタシはクリエス君に加護を与えます」


「陽菜に超怪力を与えるのですか?」


「ジョブがクレリックであるクリエス君はやはり後衛職ですからね。透視スキルは熟練度により、支援として役立つこともあるでしょう。それに陽菜が制約を遂げるのに、超怪力は有効ですからね」


 納得した様子のシルアンナはニコリと微笑みを返していた。

 着々と転生の準備が始まっている。陽菜は超怪力を与えられ、俺は透視を授かっていた。


「陽菜は十八歳までに制約条件の規定値を超えておくこと。更には戦闘スキルを身につけておきなさい。せっかく制約条件を満たしても、スキルがなければ戦えませんからね」


「ディーテ様、スキルは転生後でも覚えられるのでしょうか?」


「貴方に与えた女神の加護は転生者の特権。アイテムボックスやステータスの閲覧が可能となるだけでなく、主神との交信もできる稀有なスキルです。対して一般的なスキルは努力によって獲得できます。努力が世界に認められたのなら、新しい力を手に入れることでしょう」


 俺はアストラル世界の元住人なので、スキルについては知っている。概ねジョブに関連するスキルは獲得しやすく、ジョブと無関係なスキルを得るのは非常に難しい。


「クリエスの転生場所は南大陸にあるレクリゾン共和国だからね。両大陸を合わせても唯一のシルアンナ教国なんだけど、平和で良い国だから。一応は戦闘訓練をしておくのよ?」


 シルアンナが言った。

 確かレクリゾン共和国は弱小国だと思う。生前にいたアーレスト王国は南大陸屈指の大国であったから、些か不安に感じてしまうところだ。


「十六歳くらいまで鍛錬に励みなさい。あと巨乳な彼女は諦めること。ちなみに女性の服を透視すれば、頭が割れるほど痛む制約を付けておいたからね」


「余計な事するなよ!?」


 女神を頼れない俺は透視を使って巨乳女子を見つけ出そうとしていた。しかし、既に見透かされていたらしく、対策として制約を勝手に付与されている。


「陽菜と合流するのは充分な基礎訓練を終えてから。既に魔王候補は誕生しているけれど、脅威となるまで時間がある。成人するまでに神聖魔法を習得し、加えて一人でも戦えるように鍛錬しなさい。陽菜や魔王候補がいる北大陸には一人で向かわねばならないのだから」


 どうやら主神を異にする俺たちは別々の場所に転生するみたいだ。まあ、そりゃそうか。女神様たちは敵対していないけれど、崇められる土地が違っているのだから。


「おいヒナ、絶対に制約条件を満たすんだぞ? 透視を封じられた俺にはお前が必要なんだ……」


 前世の経験から巨乳な彼女を手に入れるのは難しいと分かっている。だからこそ、俺は次なる人生の望みを彼女に伝えた。


「もしも、お前が手に入るのなら他には何もいらない――――」


 彼女は性癖を疑うだろうが、俺には陽菜が必要だった。ディーテ様の像に魅せられてから、俺はずっと巨乳な彼女と幸せになりたいと願っている。もし仮に俺が若くして失われたとしても、巨乳な彼女ができたのなら俺は本懐を遂げたといえるはず。そのとき俺は満足して、輪廻へと還っていくだろう。


「わた、わたくしは別にその……」


 困惑する陽菜に俺は続けた。世界を救済する対価として、俺が求める全てを。


「約束してくれ。来世は俺の隣にいることを……」


 ジッと見つめていると、陽菜はようやく返事としての頷きを見せた。


 死後にあった邂逅はお互いに戸惑いを覚えたことだろう。俺が口にした好意は少なからず下心を含んでいたけれど、俺が伝えられる本心はお前が欲しいということだけだ。


「クリエス様、承知いたしました。転生を認めていただいたわたくしに異論などありません。必ずや再会いたしましょう」


 俺たちの遣り取りをディーテ様は口出しせずに見守ってくれていた。たぶん俺たちには使命を果たすだけでなく、人としての幸福を享受する権利があるのだと思う。


 しかし、このとき俺たちは知らなかった。ディーテ様が今回の召喚が大失敗だと考えていたこと。リスタートする人生に期待していた俺たちは気付かなかったんだ。俺たちが失敗したあとのことを考えていたなんて理解できるはずもない。


「最後はジョブについての説明です。クリエス君はAランクのクレリック。陽菜はDランクのJKというエリア限定ジョブ。魂ランクはステータス値の伸びに直結しており、陽菜はクリエス君よりも明らかに成長しにくいはず。けれど、ステータスや名声を上げていけば、上位ジョブにジョブチェンジできる場合がございます」


 ディーテ様はジョブについての説明を始めた。主に陽菜に向けての話であったけれど、俺にとっても重要な内容だろう。


「Sランクジョブに昇格すれば、補正値が加わり莫大なステータス値が加算されることでしょう。しかし、簡単ではありません。何しろジョブは世界が決めること。世界に認められることが必要だからです。貴方たちは世界に認められるよう精一杯に努力すること。自ずと示された道を歩み、世界を救って欲しいと思います」


 どうやら世界という概念が女神様とは別にあるようだ。ディーテ様曰く、女神の加護以外は世界の管轄であり、スキルやジョブの昇格はそのときどきで世界が決定するらしい。


「ディーテ様、わたくしのジョブも地球世界が選定したものなのでしょうか?」


「地球世界の固有ジョブ【JK】を世界は既存のジョブに当て嵌めて存在させるはず。従って上位のジョブが用意される可能性は高い。成長や世界の認識が新たなジョブの扉を開く切っ掛けとなります。要は努力し続けることで、貴方も強くなる可能性を見出せるというわけです」


 俺もそうだけど、次なる人生は幸せになりたい。一度死んだ身なのだ。陽菜は制約を課せられているし、きっと彼女は努力を惜しまないことだろう。


「教会を見つける度、主神に祈りを捧げなさい。使徒である貴方たちとワタシたちは繋がっております。指示や忠告もできますし、祈りはワタシたちの神力に直結しますからね。怠ることのないように願います」


 最後の指示は主神に祈ること。それは適切なアドバイスがもらえることであり、ひいては主神の力を増幅させることに繋がる。


「さあ、旅立ちなさい。見事アストラル世界を救い出したそのときには特別な褒美を授けます。貴方たちが努力を惜しまぬこと。勇気と信念により救世主となれるよう期待しております」


 ディーテ様がそういうと、俺と陽菜の身体を神々しい光が包み込んだ。


 まさに神の御業。女神であると知っていた俺たちも驚きを隠せない。

 輝きが消失していくのと同期をし、俺たちの身体が透けていく。


 今まさに新たな人生が始まろうとしている……。




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