ガチャの結末
天界の下界管理センターにある一室に甲高い叫び声が木霊していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっっ!」
叫声の主はアストラル世界の主神ディーテ様だ。彼女はSSランクスキルを得ようと欲張ったものの、現実を突きつけられている。
【淑女】魅力が3%アップ(女性のみ)
【レアリティ】★
【種別】補助スキル
「コレどうなってんの!? 男神たちは絶対に確率を操作してるでしょ!? 最高神様に訴えてやるわ! 返還請求よっ!」
五万という神力を使用し、ゴミスキルを手に入れていた。スキル【淑女】は加護として与える価値のないスキルらしい。
「ディーテ様、落ち着いてください!」
「落ち着いていられますかってのよ! シル、今から天上界へと文句を言いにいきましょう!」
本当に殴り込みに行きそうなディーテ様をシルアンナは何とか宥めている。
俺と陽菜は呆然と見守るしかできない。
「補填用のスキルガチャなら無料で一回引けます! 私たちは召喚ガチャを引いているので、無料のスキルガチャが一回だけ引けるはずです!」
有償の召喚ガチャを引けば、神力を失った女神でもスキルが与えられるように、一回だけ無料のスキルガチャを引けるみたいだ。Aランクまでしか排出されなかったものの、背に腹は代えられない。
「補填ガチャ? 何だか燃えないわね……」
「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」
渋々とディーテ様は補填ガチャを回す。何の期待もせずに淡々と。
【透視】熟練すれば全てを見通す。
【レアリティ】★★★
【種別】行動スキル
「えっと……」
「ほら見なさい? やはり無料ガチャではこんなものです!」
一応はBランクであった。しかしながら、ディーテ様が引いたそれは救世主に求められるスキルではない。
「じゃあ、私も引きますね……」
保留時間は30分しかない。とりあえずシルアンナもガチャをして、その後にスキルの配分をするしかないようだ。
【超怪力】常に戦闘値50%アップ
【レアリティ】★★★★
【種別】補助スキル
「あっ……」
シルアンナは何気なく引いただけだ。しかし、彼女は求められるAランクスキルを引き当てていた。
「やりましたよ、ディーテ様!」
嬉々としてディーテ様を振り返るシルアンナ。このスキルを陽菜に授けることで、陽菜が勇者として戦える可能性が現実味を帯びるだろうと。
ところが、鬼の形相をして唇を噛む女神様がシルアンナの視界にはいた。
「キィィィ! どうしてシルばっかり! 他に引けるガチャはないの!? ワタシはもっとガチャがしたいのよぉぉ!」
ディーテ様が壊れてしまう。シルアンナばかりが高レアリティを引いたことによって、彼女のギャンブル魂に火をつけてしまったようだ。
「ディーテ様、とりあえず神力を貯めましょう! 今回はこの二人に転生してもらい、以降については追々考えるべきです!」
今すべきことと、やるべきことは明確に決まっている。それはガチャではなく、世界に危機が迫っていると知る魂をアストラル世界に送り込むこと。それはつまり、俺と陽菜をアストラル世界に転生させることだった。
「今はこの二人に託し、アストラル世界の危機を回避しなければなりません! それに見習いのポンネルも信徒を増やそうと頑張っています。あの子がガチャを引く頃に、少しでも好転しているように私たちは行動すべきです!」
シルアンナとしては精一杯の説得だろうな。
彼女曰くアストラル世界には、あと一人女神がいるらしい。ポンネルという女神はまだ国教とした国を一つも持っていないみたいだが、それでも神託を与えるなどして、信徒を増やそうと頑張っているようだ。
そんな折、ディーテ様の女神デバイスが音を立てた。
俺には何が何だか分からなかったのだが、ディーテ様は落ち着いている。どうやら非常事態を告げるサイレンなどではないみたいだ。
「どうしたの、ポンネル?」
『ディーテさまぁぁっ! 申し訳ございませぇぇん!』
眉根を寄せるディーテ様。周囲にも聞こえる大きな声の主は見習い女神だというポンネルに違いない。
『わたし、やってしまいましたぁぁ!』
「落ち着きなさい。ポンネル、何を失敗したというの?」
慌てふためくポンネルに、ようやくディーテ様は平静を取り戻している。彼女は主神であり、ポンネルの教育係なのだという。従って新人のやらかしは織り込み済みなのかもしれない。
『わたし、集落の一つに神託を与えたんですぅ!』
やらかしと考えていたものの、伝えられる内容は別に問題のない話だ。副神以下の女神は神託を与えることで信徒を増やしていくみたいだからな。よって彼女の行動は咎められる内容を含んでいない。
『そしたらなぜか、魔王発生値が上昇してしまってぇぇ!』
そういえば、シルアンナの業務室にある魔王発生値なる値は85%となっていた。
「ポンネル、一体どのような神託を与えたのですか?」
80%以上は確定的な未来であるという。それ以降の上昇は猶予が少しずつ失われることを意味するらしい。
『村人たちはとても迷っていたのですぅ。ですのでぇ、人は生まれながらに自由だとぉ。わたし、やってしまいましたかぁぁっ!?』
「落ち着きなさい。村人は何を迷っていたのです!? 背中を押すにも内容を確認しろと言ったではないですか!?」
見習いを一人にしたことはディーテ様にとって失態に違いない。自身が側にいることで避けられたかもしれない話である。
『実は土着神信仰の勧誘を受けてまして、改宗するかを悩んでいたのですぅ。だから、わたしは背中を押したのですぅ……』
その報告にディーテ様だけでなく、シルアンナも薄い目をしている。土着信仰は女神たちとは無関係。カリスマを持つ者や自然の事象を崇めたりする信仰に他ならない。
また発生値が上がる理由はその土着神に問題があるからであろう。土着神の教えが世界を否定しているはず。いわゆる邪教に分類されるからであって、世界がバランスを崩す要素に相当するはずだ。
『ああぁ、今度は警報値が上がってしまったのですぅ! 北大陸の中央山系に魔王候補が発生してしまいましたぁぁっ!』
遂に魔王候補が発生してしまったようだ。
急展開であり、意味不明な報告であったものの、ディーテ様はまだ落ち着いている。流石はアストラル世界の主神だった。魔王候補なんて聞けば取り乱すものだと感じるのに。
「ポンネル、もう何もしないでください。どうせ魔王候補の誕生は時間の問題でした。千年前の災禍でも北大陸のデスメタリア山に魔王候補は生まれたのです。あの山は悪い気が溜まりやすいのですから……」
必死になってポンネルを落ち着かせるディーテ様だけど、慌てたポンネルの残念な報告が続く。
『どうしてなのぉ!? 今度は邪竜発生値が3%も上昇してしまいましたぁぁっ!』
追加的な報告を受けた二人は呆然としている。
嘆息しつつも、この先にある未来をこの場にいた全員が予想していた。
「「アストラル世界、滅びるわね――――」」
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