主神ディーテ
「「ディ、ディーテ様……?」」
喧嘩中に現れたディーテ様にシルアンナは取り乱し、愛と呼ぶべき熱い信仰心を持つ俺は直立不動である。
「あら、シルはもう召喚したの?」
アストラル世界の主神ディーテ様は部屋の雰囲気を少しも感じ取っていないようだ。俺たちは口論の真っ最中であったのだが、慈愛に満ちた優しい笑みを向けられている。
「ディーテ様、俺は貴方様を愛しています!」
「あっ! こら、やめなさい!」
俺は昂ぶる感情を抑えきれず、ディーテ様の胸に飛び込んでいた。シルアンナの制止も聞かずに、豊満なディーテ様の胸へと顔を埋めている。
最高だ……。これが夢にまで見たディーテ様の双丘なのか……。
「あらあら? シル、この子は同界転生で喚んだのね?」
流石はディーテ様だ。既に状況は飲み込めていらっしゃるご様子。まあでも、ディーテ様を知る魂が異世界にいるはずもないしな。
「ええ、私は神力が足りませんし。だけど、そいつ私の使徒にはなりたくないって……」
「だって、こいつはド貧乳なんです! そんなの女神じゃない! うわぁぁん!」
「なんですって!?」
再び罵り合いが始まるかと思えば、ディーテ様はコホンと咳払いをして俺たちを諫めた。
「静かに! 二人とも仲良くしなさい! これからとても大事なお話をします。魂とはいえ、君にも関係のある話なので、ちゃんと聞きなさい……」
「自分はクリエスです! ディーテ様、俺は貴方様に全てを捧げた男です!」
即座に自己アピールだ。愛しきディーテ様に自分の名を覚えてもらおうと。
「アストラル世界は千年前にあった災禍警報時よりも危うい状況です。千年前は何とか回避できた魔王候補の覚醒ですが、此度はそうも上手くいかないでしょう。現状は災禍警報でありますが、魔王候補と邪竜が高確率で発生するなんて、いつ終末警報に切り替わってもおかしくありません。よってワタシはこれより異世界召喚を行います。副神のシルにはサポートを引いてもらおうと考え、足を運んだというわけです」
「ああ、すみません。先走ってしまいました……」
ディーテ様の話にシルアンナは頭を下げた。
やはり大は小を兼ねる。巨乳こそ正義。胸の差は明確な格差に繋がっているはずだ。
「それでシル、まだ引き直せる神力はあるの?」
「それが110しかなかったので、あとは無料のスキルガチャが一回引けるだけです」
シルアンナの返答を受けて、ディーテ様は頷いてみせる。
「じゃあ、女神デバイスを見せてくれる? 先にクリエス君のステータスを確認します。それによって、ワタシも引き直す必要がありますからね」
言ってディーテ様はシルアンナから女神デバイスという機械を受け取っている。
恐らく、それで俺の魂情報がチェックできるのだろう。
「あら? クレリックとか助かるわね。しかもAランクとか凄いじゃない?」
「ありがとうございます!」
有り難いお褒めの言葉にシルアンナが笑顔を見せている。どうやら俺のステータスはディーテ様でも納得できるものらしい。
「んん? この子どうやら呪われてるわね?」
ここでディーテ様が眉根を寄せた。ステータス評価は満足いくものであったらしいけど、どうやら俺にはマイナス面があるらしい。
「魂に付随する先天スキル『女難』もマイナスだし……」
「ディーテ様、俺が呪われてるってどういうことです!?」
流石に聞いておかねばならない。女難は死因からも明らかであったけれど、呪われているなんて考えもしないことだ。
「前世でよほど強い感情を向けられたのね。貴方には【貧乳の呪い】という厄介なものが付与されているわ」
ああ、なるほど。説明を受けると納得だ。何しろ思い当たる節がありすぎるしな!
呪われたのは間違いなく前世の最後に違いない。アリスは俺を刺し殺しただけじゃなく、強力な呪いまでかけていたようだ。
「おのれ貧乳! ディーテ様、やはり貧乳はこの世から絶滅させねばなりません!」
「落ち着きなさい、クリエス君。世界には需要と供給というものがあるのです。貴方の好みと違うからといって、否定してはなりませんよ? 仮にド貧乳であったとしても、極めてごく稀にそういった女性を好む男性が、ほんの僅かに存在するのですよ。そうよね、シル?」
「ソ、ソウデスネ……」
ディーテ様の話に白目を剥くシルアンナ。超絶板胸の彼女には身に染みる話であったことだろう。
「ディーテ様、ならば了解しました! 全身全霊でもって貧乳を保護させていただきます!」
俺は従順な下僕さ。シルアンナの命令など聞くつもりはないが、ディーテ様であれば全てを聞き入れよう。たとえ俺の信念に反していたとしても。
「あんたねぇ、私も女神なの。そこんとこよく考えてよね?」
「るせぇよ。俺はディーテ様の信徒だと言っただろうが?」
「クリエス君、シルに謝りなさい。今より貴方はシルアンナの庇護下に置かれます。布教及びワタシたちに助力すること」
「承知いたしました。ディーテ様が仰る通りに……」
不満げな表情をするシルアンナであったけれど、知ったこっちゃない。俺は勝手に喚ばれただけだ。召喚主が誰であろうと、俺が崇めているのは巨大な双丘のみ。
「それでディーテ様、呪いって危ないやつですかね?」
シルアンナが聞く。ま、それについては俺も気になっている。アリスがどのような呪いを俺にかけたのかと。
「貧乳の呪いはパーティーメンバーが巨乳であれば、ステータスダウンを引き起こすようです。また巨乳女子の数が増えると呪いのランクが上がり、更なるダウンを引き起こしてしまいます。また先天スキルの女難は女性の好感度が上がりやすい代わりに、トラブルを引き寄せてしまうといったものですね……」
身に覚えがありすぎて、俺は絶句している。自分時間でつい先ほど体験したばかり。労せずして女性を口説き落とせるのだが、結果として俺は刺し殺されているのだから。
「ディーテ様、その呪いをどうにかできませんか? 私はガチャを引き直す神力を持っていませんし……」
「もちろん何とかするつもりですよ。Aランクのサポートなんてなかなか排出されませんしね。警報中の特例を使用する予定です」
どうやら本当にアストラル世界は危機にあるみたいだ。特例が何を指すのか分からないけれど、特例という言葉は非常時であることを推し量るのに充分だった。
「どうするおつもりですか?」
「警報発令中における女神は助け合わねばなりません。下界に送り込める魂の数は女神一人につき一つまでと決まっておりますが、付与スキルに関しての規定はございませんからね」
ディーテ様曰く、女神様は五十年に一人しか召喚魂を世界に送り込めないとのこと。予定にない魂の強制転生は世界を歪めるからであり、転生魂の重さにより世界が歪むと魔王や邪竜などの存在を生み出しやすくなるらしい。最悪の場合は世界が歪みに耐えきれなくなり、崩壊に至るのだとか。
よって世界を支える女神の柱と同数までしか転生させられない。その柱に紐付けすることで、世界が召喚魂の重さにより歪まぬようにしているとのことだ。
「ひょっとしてクリエスにスキル付与してくれるのでしょうか?」
「ええ、そのつもりよ。シルは神力が充分ではないでしょう? 加護くらいはワタシに任せておきなさい」
世界の九割以上がディーテ様の信徒である。よって副神でしかないシルアンナは加護として与えるスキル分まで神力を残せなかったらしい。
「ありがとうございます! ディーテ様はどれくらい神力をお持ちなんですか?」
「ワタシ? 現状は一億ですね……」
衝撃の神力量に目を丸くするシルアンナ。どうやら身の程を理解したようだ。誰もが巨乳女神様を崇めている。貧乳女神が出る幕など、アストラル世界には少しですらないってことを。
「では早速、スキルの抽選を始めましょうか。サポート特化のプレミアムガチャを回しましょうかね」
ガチャにおける使用神力の半分は最高神や男神たちがいる天上界への寄付となるらしい。男神たちはそれらの神力を使用して、新たな世界を構築していくとのことだ。
【プレミアムスキルガチャ(サポート特化)】
【使用神力】10000神力
【キャンペーン】
・サポートスキル率99%
・★5排出率90%
・★4排出率9%
・ステータスアップや有能サポート能力を得られます。
「一回に一万神力もかかるのですか!?」
「よく覚えておきなさい。ごちゃ混ぜのガチャを回すより、ピンポイントで回した方が結果的に安くつくのよ?」
スキルガチャは確定後、30分以内に加護として与えるかどうかを決めなければならないようだ。保留しておくことができない仕様となっているらしく、即座に決断する必要があるという。
「さあ、いくわよ!」
緊張の一瞬。女神デバイスが光を放ち、直ぐさま結果が表示されている。
【根性】戦闘値3%アップ
【レアリティ】★★
【種別】戦闘スキル
「えっ?」
この結果にはシルアンナだけでなく、俺もまた唖然と固まっていた。
どう考えてもディーテ様が間違ったガチャを回したとしか思えない。サポートスキル排出率は99%であり、★3スキル以下が排出される確率は1%しかなかったのだから。
「ディ、ディーテ様でもケアレスミスをされるのですね!」
「いえ、違います。ワタシは少しばかりガチャ運が悪いのですよ……」
シルアンナの指摘は間違っていた。どうやらディーテ様は女神でありながら、不運であるらしい。しかも極小の確率を引いてしまうほど、神がかった不運の持ち主であるようだ。
「まだまだ神力は残っております! シル、ワタシの生き様をよく見ておきなさい!」
このあとディーテ様はガチャを回し続けるも、奇跡かと思える御業で薄いところを引き続けてしまう。既に彼女は一千万という神力を使用していたというのに。
「ディーテ様! ここは一旦休憩としてディーテ様の異世界召喚を行えばよろしいかと!」
流石に気が気でなくなったのか、シルアンナが進言する。想像を上回る不運ぶりに、ディーテ様が召喚するための神力がなくなると心配したようだ。
「はぁ、はぁ……。確かに少しばかり熱くなっていましたわ……」
どうやら不運ではあるけれど、のめり込むタイプのよう。だが、そんなところもイイ! 美しいだけでなく、衣服が可哀相になるくらいの巨乳を持つディーテ様。少しばかり運が悪くとも、俺は巨乳な貴方様が大好きです!
「ならばワタシの異世界召喚を先に行いましょう。対象が二人になれば、どちらかに使えるスキルが引けるかもしれませんし……」
ここで作戦変更となる。召喚した魂が二人になることで、スキルの無駄引きはなくなるだろうと。
【ハイパーエクセレント英雄召喚ガチャ(異世界)】
【使用神力】一千万
【内容】
・今ならSランクの排出超絶アップ!
・勇者や英雄、入ってます!
超絶アップとの文言にシルアンナは苦笑い。まあでも、ここは同意せざるを得ない。俺にもそれがフラグであるとしか思えなかった。
「いくわよ!!」
目が血走るディーテ様。既に美と豊穣の女神という面影はなくなっていた。
即座に輝きを放つ女神デバイスはその画面に召喚情報を映し出している。
【ジョブ】遊び人
【性別】男性
【体力】D
【魔力】E
【戦闘】E
【知恵】D
【俊敏】D
【信仰】F
【魅力】D
【幸運】E
【召喚時間】三時間
【総合ランク】E
「どぉぉしてぇぇっっ!?」
ディーテ様の甲高い声がシルアンナの業務室に響き渡る。
頭を抱えるディーテ様にはかける言葉がない。ジョブが遊び人だなんて穀潰し確定だ。既に俺は一億という神力でも足りないのではと思い始めている。
「あと八回引けるわ!」
こうなってくると俺のスキルに使用した一千万が惜しくなる。完全な無駄引きとなった結果がディーテ様に重くのし掛かっているのだから。
「いけぇぇっ!」
二度目のガチャ。デバイスが壊れるくらいの勢いでディーテ様は召喚ボタンを押す。
【ジョブ】ジゴロ
【性別】男性
【体力】E
【魔力】F
【筋力】E
【知恵】F
【俊敏】D
【信仰】F
【魅力】C
【幸運】E
【召喚時間】一時間
【総合ランク】F
「えええ!? Fランクを排出するなんて、このガチャおかしいでしょ!?」
ハイパーエクセレントだというのに、ゴミ同然の魂が排出されている。
このあとディーテ様は六回連続でEランクを引き、もうあとがなくなっていた。
「アストラル世界、滅びるかも……」
ふと漏らすシルアンナ。ここもまた同意だ。
正直に俺のスキルどころではなくなっていた。仮に俺が転生に同意したとして、救世主となる柱がいないのだ。Aランクのクレリックだけで魔王や邪竜に対抗できるはずがない。
「次よ! ワタシはここぞというとき力を発揮するの! 見てなさい、シル!!」
いよいよ最後の召喚である。どのような魂が排出されようと、ディーテ様はそれを採用するしかない。
「お願い! 最高神様、ワタシのアストラル世界をお守りください!」
最後は祈るように召喚ボタンを押す。女神の二人が祈りを捧げるという意味不明な状況。
輝きを帯びた女神デバイスは程なく画面に召喚結果を表示している。
【ジョブ】JK
【性別】女性
【体力】D
【魔力】F
【戦闘】E
【知恵】A
【俊敏】D
【信仰】F
【魅力】A
【幸運】F
【召喚時間】三時間
【総合ランク】D
【固有スキル】華の女子高生(制服を着用するとステータス20%増)
望みをかけた最後のガチャであったが、敢えなく爆死。だがしかし、ディーテ様は両手を挙げて喜んでいる。
「やったわ! シル、遂にDランクを引いたわよ!」
そういえば九回目にして初めてのDランクであった。かといって、既に引き直すこともできないし、現実を受け止める必要があるみたいだ。
「おめでとう……ございます。とても尖ったステータスのようで……」
流石にシルアンナはツッコミを入れるなんてできない。歓喜する上司にハズレですと言えるはずもないのだろう。
「それでJKってジョブは何でしょうかね?」
話題を変える目的でシルアンナは疑問を口にする。聞いたこともないジョブが何であるのかと。
「ちょっと待って。メガミディアで調べてみるわ」
どうやらディーテ様も知らないジョブであるらしい。デバイスのタスクを変更し、ディーテ様はJKについて調べている。
【JK】女子高生の略語。地球世界にのみ生息。地球世界の一部地域では無双している。
俺たちは呆然としていた。間違いなくジョブと表示されていたけれど、それが女子生徒を意味する言葉だなんて考えもしていないことなのだ。
「えっとディーテ様、本当にこの子を召喚するのですか? 確か地球世界は魔法やスキルがない世界だったかと……」
魔法が使えなければ、魔王や邪竜と戦えるはずがない。加えてジョブが学業に勤しむ者ならば、非戦闘員に違いなかった。
「魔法に関しては努力次第よ。とりあえず召喚されるのを待って、幾つか質問してみましょう。そのあとで決めたとしても問題はありません」
世界に送り込める魂は女神の数だけであり、各女神は五十年に一人だけしか転生させられない。だが、たとえ天界に喚び寄せたとしても、それは転生にカウントされないらしい。相応しくなければ輪廻へと還すだけで良かった。
「そうですね。引き直す神力も残っていませんし、何か特別な能力を持っているかもしれません」
どうやら二人は最後の召喚対象を喚び出すことにしたようだ。アストラル世界の窮地を救えるかどうかの判断は当人との面接後となるみたいだな。
対象の魂が前世から切り離されるまで三時間。女神二人が嘆息する中で、俺は居たたまれない気持ちになっていた。
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