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同界転生の結果

 全身に走る激痛や、噴き出す血しぶきの記憶。明確に死を悟った俺なのだが、どうしてかまだ意識がある。


 咄嗟に身体を確認したけれど、なぜか血の跡も傷痕もない。そもそも痛みすら感じないなんて、理解の範疇を超えていた。


「ようこそ、クリエス……」


 ふと俺は声をかけられている。

 声の方を振り返ると、そこには薄い水色の髪をした可愛らしい少女が立っていた。


「君は……?」

「私はアストラル世界の副神シルアンナ。シルアンナ教団の女神といえば分かるかしら?」


 簡単な自己紹介をシルアンナは口にする。

 だが、俺は眉根を寄せた。なぜなら、シルアンナ教だなんて聞いたこともない。聖職者であったけれど、俺はディーテ様一筋であって、異教徒がどのような女神を崇めているのかなんて聞いたことはないし、知りたくもなかった。


 また彼女は何とも罪深き胸をしている。自ら女神だと名乗ったシルアンナは服を脱がすまでもなく、無乳であることが判明しているのだ。


 ただ女神であることに疑いはなかった。今いる場所はアストラル世界ではないと断言できる。

 地上を監視するような窓が幾つもあり、それは間違っても絵じゃなかった。そこに映る人々は動いていたし、風に揺れる草木や小鳥たちの様子は現実だとしか思えない。加えて、俺は確実に死ぬだろう一撃を、アリスから受けたところであったからだ。


「シルアンナ教? 何だそれは?」


 俺の返答に今度はシルアンナが眉間にしわを寄せる。

 不満げな表情をして、彼女は俺に問いを返していた。


「本気で言ってんの? 聖職者だったのよね?」


「俺はディーテ様しか眼中にない。他の教団には何の興味も持ってないっての。てか、ここはどこなんだ? 俺は先ほどアリスに短刀で刺されたはずなんだが……」


「ここは天界にある下界管理センターよ。記憶にある通り、君はアリスという女性に刺されて死んだところ。輪廻へと還る前に寄り道してもらったのよ」


 やはり幾つもある窓は下界を映していたみたいだ。

 説明を受けて俺は理解した。やはり、アリスに刺し殺されたのだと。最後に感じた痛みや噴き出す血飛沫の記憶はどうやら現実らしい。失われた俺は輪廻に還るよりも前に、シルアンナという女神に喚ばれたようだ。


「天界に喚ばれた理由は? 俺が聖職者だったからか?」


「ジョブは関係ない。単に優秀な魂であったから。君の魂は召喚陣のサーチに合致し、転生する許可を得られた。私の使徒となり、再びアストラル世界に戻れるのよ」


 シルアンナは簡潔に答えている。馬鹿でも分かる話だが、生憎と俺は馬鹿ではない。

 十二分に理解したのだ。もう一度、人生をやり直せるという話。裏を返せば、この無乳女神は超絶優秀な俺をアストラル世界の発展に利用したいのだと。


「無理だ。俺はディーテ様に全てを捧げた敬虔な信徒だからな。お前の力にはなれない」


「貴方はAランクの評価を受けた優秀な魂なのよ? やり直しの人生には女神の加護を与えられるし、二度目の人生はきっと素晴らしいものになるはずよ?」


 説得を試みるようなシルアンナに俺は首を振った。全ては語った通りだ。俺は信仰を変えるつもりなどない。


「まいったわね……。同意がなきゃ転生させられないし……」


 どうやら転生は魂の同意があって初めて成されるらしい。俺が成仏を願って輪廻へ還ることを望むのなら、シルアンナは無理強いできないようだ。


「ねぇ、希望とかないの? 一応は私も女神だからね。貴方の要望に応えられるわ」


「希望?」


 ここでシルアンナが譲歩とも取れる話をする。首を振るだけであった俺に望みを聞いてきたのだ。


「何でも良いのよ? 性別を変えたりはできないけれど、お金持ちの子供として生まれたり、貴族になったりもできる。貴方が私の期待に応えてくれるのなら、私は貴方の望みを叶えられるわ」


 粘る価値ありと考えたのか、シルアンナは攻勢を仕掛けてきた。

 確かに、高貴な者への転生は人生において勝ち組だ。普通なら大喜びで受諾する場面なのだろうが、残念ながら俺の希望は小者が願うような安っぽいものじゃねぇよ。


「巨乳なガールフレンドが欲しい――――」


 俺は思いを告げた。俺が手に入れたいものは金でも地位でもない。

 巨乳な彼女ができるのなら、俺は同意してやってもいい。ディーテ様を裏切ることになるのだから、相応の対価を俺は求めるだけだ。


 生前は色々な女性と付き合ってきたけれど、一度も巨乳な彼女ができなかった。服を脱がせては愕然として、別れを口にする。ずっと、その繰り返しだったんだ。


「巨乳……?」


 耳を疑ったのか、シルアンナは問いを返していた。

 転生の特典として望むには、ささやか過ぎると思ったのか? そんな希望は生を受けてからでも叶うとでも考えたのか?


「いや、どうしてまた? 転生したなら自分で気に入った子に告白すればいいじゃない?」


「違うんだ! なぜか俺の周囲は貧乳ばかりなんだよ! それともお前は過度に盛られた下着を発売禁止にできるのか!? できないのなら、ディーテ様の如く巨乳な彼女を俺にくれよ!」


 崇高なる俺の願望を否定するような目が向けられていた。

 しかし、俺は本気だ。アストラル世界では悪魔的な偽巨乳下着が発売され、貧乳も漏れなく巨乳に偽装できる時代。女神ディーテ様が巨乳であったことが世の男性を巨乳好きにして、世の女性を偽巨乳としているのだからな。


「確かにディーテ様は爆乳だけど、捜せばディーテ様のような巨乳の恋人くらいできるでしょ?」


「ディーテ様の巨乳を愚弄するな! 大きさもさることながら、重力に逆らう美しい形状! あのような至高の巨乳がディーテ様以外に存在するはずがない! 如何なる侮辱も許さんぞ!」


「ちょっと待って! 落ち着いて! 別に私はディーテ様と敵対してないし!」


「やはり、お前は邪教に違いない! 教団名からして悪そのものだろ!?」


 怒りに任せて俺は声を張る。シルアンナ教が邪教たる所以を。


「ペチャパイな教団など認めん!」

「シルアンナ教団よ! 耳腐ってんじゃないの!?」


 気にしていたのか、シルアンナは胸を押さえながら語気を荒らげている。ご立腹のようだが、俺もまた腹に据えかねているのだ。


「チッパイナもチッサイナも変わんねぇだろうが!?」

「だからシルアンナよ! ホント生臭坊主ね!?」


 もう転生の同意が成される未来は潰えた。俺だけでなく、シルアンナさえも声を張る状況。睨み合うような俺たちが同意できるはずもない。


 ところが、不毛なこの言い争いに終止符が打たれた。不意に現れた来訪者によって。


「シル、入るわよ……」


 唐突に部屋の扉が開く。応答を待つことなく扉を開いたのは金色の髪をした美しい女性だった。


 シルアンナは発狂していたのが嘘のように、顔面蒼白である。一方で俺も驚いたけれど、現れた彼女は知らない顔じゃない。俺にとって彼女は信仰対象であったのだから。


 刹那に俺たちの声が室内に響く。現れた者の名を二人ともが口にしている。


「「ディ、ディーテ様!?――――」」


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