戦闘開始
天界では遂に相対した使徒と邪神の邂逅に固唾を呑んでいた。
「ディーテ様、クリエスはまだ私の使徒だって!?」
「落ち着きなさい。これは充分に戦えると思える雰囲気よ。クリエス君に言霊はあまり効果がないみたいだし」
女神たちはヒナを通してモニタリングしている。クリエスとタイラーの戦いを見届けようとしていた。
「クリエスは闇に呑まれずとも勝てるのでしょうか?」
「可能性はあります。何しろ彼は力を得ようとして魔王化したのです。それは勇者よりも魔王が上位ジョブである証し。タイラーの光属性は本来なら対魔王に絶大な力となるでしょうが、クリエス君は光属性も所有しています。問題は神格だけ。ツクリ・マースを宿した神器がその差を補えるかどうかですね」
ディーテの見解では二人は互角らしい。神格の差で有利に立つタイラーであるが、属性的不利があるという。またタイラーが完全に昇華していないこともクリエスが戦えるという根拠になっていた。
「クリエス……」
シルアンナは願っている。クリエスが闇に呑まれないように。もしも、正気を保ったままクリエスがタイラーを討伐したならば、残された人生だけでも全うできるように伺いを立てようと。何度も世界を救ったクリエスにはその権利があるはずだと。
一つしかない結末。シルアンナは祈り続けていた。
◇ ◇ ◇
俺は刀を抜く。邪神と雑談するために来たのではない。話し合いは言霊を持つタイラーの思う壺だと。
「タイラー、死ねぇぇえええっ!!」
全力で斬りかかる俺に併せて、イーサの爆裂魔法が炸裂。魔王二人の攻撃は途轍もない威力を発揮していた。
『うはっ! 魔王化した妾は無敵なのじゃ!』
「イーサ、浮かれんな!!」
斬った感触から俺は気付いていた。魔法を使ったイーサには分からなかった格の差というものを。
爆裂魔法による粉塵が収まったあと、俺が危惧した現実が露わになる。
「二人がかりで、その程度か?」
エルフの姿をしたタイラーがそこにいた。肉体がある今こそがチャンスであったというのに、俺とイーサの攻撃は何の効果もなかったらしい。
「るせぇぇっ! イーサ、行くぞ!!」
『承知!!』
俺は攻撃を仕掛けていくしかない。いつだったか相手が神であろうと戦う決心をしたままに。人生の集大成を神殺しにしようと考えていた。
しかしながら、タイラーは微動だにしない。俺とイーサの攻撃を避けることなく受け、加えて平然とそこに立っていた。
「何だよ、これ……」
『婿殿、奴は思おておったよりも神に近付いているのやもしれん』
俺はイーサの話に頷いていた。俺にはツクリ・マースを宿した神器があり、イーサはその魂に竜神を取り込んでいるのだ。まるで相手にならないなど考えていなかった。
「もう終わりにしよう。せっかくだからお前の魂を天へと連れて行く。女神の目の前で取り込んでくれよう」
タイラーは邪悪な笑みを浮かべている。俺を倒したのち、魂を引き連れて天に向かうという。
ま、悪かねぇな。久しぶりに生のディーテ様を拝めるというものだ。魔王となった俺には既に叶わぬ夢だったのだし。
「昇天の時は近い。手土産の一つとしてやろうぞ!」
言ってタイラーは何もない空間に大剣を生み出す。既に力量を把握したからだろうか。早々に決着を付けるつもりかもしれない。
「死ねぇぇえええ!!」
目を見張る斬撃。初撃は何とか刀で受けた俺だが、その重さに加えて、繰り出されるスピードはタイラーの実力を如実に現していた。
何しろ剣聖であるドザエモンを僅か十歳で斬り殺した天才なのだ。転生前から勇者であり、オールS評価であったタイラーはクレリックであった俺とは根本からして異なっている。
「ふはは、少しは楽しませろよ!」
連撃が加えられ、俺は遂に斬り裂かれてしまう。深い傷ではなかったけれど、袈裟懸けに皮膚が裂けていた。
「クッソ……」
一旦距離を取るも、打開策は思いつかない。剣術の技量だけでなく、ステータスから魂強度まで差がありすぎるのだ。まして俺の攻撃は少しですらダメージを加えられないのだから。
「チックショォォォッ!!」
それでも俺は刀を振った。攻撃しないことには討伐などあり得ないのだと。
絶望的な状況にも俺の心はまだ折れていない。
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