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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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決意を示すとき

 巨蛇アスラを討伐した俺は火口のダンジョンをひたすら下りていた。

 不眠不休で挑んでいたけれど、既に眠気はない。休憩は踏破してからで充分だと、俺は意気込んでいる。


「また魔物が一撃になったな?」

『そりゃそうじゃ。婿殿はもう尻穴に挑む前とはまるで違うのじゃよ』


 レベル100超えの魔物がわんさかと湧いていたけれど、俺は全てを一刀両断にしている。レベルアップだけでなく、ドザエモンの刀もまた戦闘力に一役買っていた。


「順番に並んでくれるのも助かる。ある程度の強さを得たならば、ここは最高のダンジョンじゃないか?」


『そうじゃろう? 尻穴大辞典に間違いなどないのじゃよ!』


 自慢げなイーサに俺は苦笑いだ。現状に導いたのは明らかに尻穴大辞典であり、それなくして俺の成長はなかった。尻穴大辞典は俺に新たな道を示していたのだ。


 程なく俺はオルカプス火山の最下層へと到達していた。マグマ溜まりの周囲には割と広い空間がある。ダンジョンはフラスコ状の構造となっていたらしい。


『婿殿!』

「ああ、分かってる……」


 ダンジョンの最下層に何もいないはずがない。魔素濃度が一番高い場所に何も住み着いていないわけがなかった。


 強大な力を感じる。空間を圧縮してくるかのような威圧感。俺は巨蛇以外にも強者がいるのだと分かった。


 程なく視界に影が浮かぶ。確実に存在がなかったそれは、徐々に明確な形となって姿を露わにしていく。



【イフリート】

【種族】魔人(精霊)

【属性】火

【レベル】1452



 魔眼による鑑定では魔人であり、元々は精霊らしい。邪気を帯びて悪霊のような存在となったのかもしれない。


 巨大な魔人に俺は見下ろされていた。


「イーサ、あれは実体なのか?」


 勢い任せで突っ込んでいく前に聞く。レベルは同じくらいであるが、刀が通るのかどうか分からないからだ。


『今では実体じゃの。まあしかし、気を付けるのじゃ。現れる前は明らかに存在がなかった。よって不利と感じるや、消える可能性がある』


 参考になる意見が返ってくる。冗談で返す場面ではないことくらい彼女も分かっていたのだろう。


『小童、ここが我の居城だと知って踏み入ったのか?』


 どうしてか心に語りかけてくる声。それはイーサではなく、明らかに眼前のイフリートから発せられているものだ。


「知らねぇよ。俺はここに住む全てを叩き斬るために来ただけだからな?」


 俺は強気に返している。同じくらいのレベルであれば、戦えるはずだと。


『ふはは、威勢が良いな! 強き者は好みだ。かといって見逃すわけにはならん。主人との契約に基づき、我は貴様を排除しよう……』


 どうにもよく分からない話だ。ダンジョンの最下層に住み着いた魔物に主人がいるなんてと。しかしながら、契約によって魔人化したのであれば、促した存在がいたのかもしれない。


「主人とは誰だ?」


『それを知る必要はない。我は千年からこの地を守っておる。主人にとって重要な聖域を守護するためにな……』


 質問に対する回答は濁されてしまったけれど、キーワードが潜んでいたのは明らかだ。イフリートの話に俺は頷きを返している。


「また千年前か……」


 嫌な予感がする。転生してからずっと千年前とリンクしていたのだ。千年前の災禍警報が正しい形で終息しなかったこと。千年後にまでその影響が残り続けている。


『小童、先に天へと還るが良い。ここまで来た者は貴様が初めてであり、もう二度と貴様のような強者は現れんだろう。おかげで我は最初で最後の任務を遂げられる場を得られた……』


 イフリートは勝利を確信しているらしい。俺の強さくらいは分かっただろうに、精霊であった炎の魔人は不敵な笑みを浮かべたままだ。


「ああ、そうだな。お前にとって最初で最後となるはずだ……」


 俺はイフリートを睨み付けてから、自信満々に返している。


「天に還るのはお前だからなぁぁっ!!」


 絶叫しながら、斬りかかっていく。たとえ精霊であっても必ず斬るのだと。実体があるうちに斬り裂いてやろうと。


『ぬぅ!?』


 予想していなかったのか、イフリートは俺の攻撃に声を上げた。割と深く入ったけれど、イフリートの巨躯を切り離すには至らない。


「まだだぁぁあああっ!」


 返す刀でもう一撃。今度は足を狙う。強く正確なその斬撃は魔人イフリートの左足を斬り落としている。


『ぐおおおっ!?』


 宙に浮かぶイフリートの足を切ったとして、機動力は変わらないだろう。しかし、俺の斬撃は左足と共にイフリートの自信まで斬り裂いていた。


『何たる小童! 我を斬るほどの魂強度を持っていたのか!? ならば我も本気を出させてもらう。主人様との契約を果たすときである!』


 言ってイフリートは強大な炎を喚び、俺へと吹き付けていく。

 ちょ、待てよ!? その獄炎を俺が墨になるまで吐き続けるつもりか!?


「ヒール!」


 既に防具はない。従って俺は炎を浴びるよりも前にヒールを連発していく。かなりの成長を遂げた今では一撃で失われるはずがない。けれど、確実に生き残る手段としてヒールを唱えていく。


『ヒールの熟練度が100になりました』


 ここで通知がある。それはウンともスンとも言わなくなっていたヒールの熟練度に関する通知であった。


『ヒールはハイヒールへと昇格しました』


 有り難いことに昇格がある。ハイヒールは大司教でも唱えられる者が少ないAランクの神聖魔法。前世を通して俺も初めて覚えていた。


「よっしゃ、ハイヒール!」


 イフリートの獄炎が途切れるまで回復し続ける。俺はただひたすらに耐え忍んでいた。


『婿殿、覚えたスキルを使ってみるのじゃ!』


 ここでイーサが声をかけた。彼女は俺の心配などしていない。それどころか、この戦いを終結させるべく指示を出している。


 近寄れないのであれば、遠距離攻撃しかない。俺は即座に理解していた。

 今こそドザエモンから譲り受けた刀の使い所。魔力刃を飛ばす稀有なスキルを実行するときであるのだと。


「ボインウェェエエエイイィブ!!」


 まだ炎が吹き荒ぶ中、スキルを実行。巨乳ラブと心に念じ、魔力刃を撃ち出している。加えて炎に向かって、俺は駆け出していた。


 全力で刀に魔力を込めると、刀身が純白の輝きに満ちていく。俺は大きく振りかぶって炎が吐き出される一点へと刀を振り下ろしていた。


「だぁああああぁぁああああっっ!!」


 確かな手応えがあった。飛びかかって斬った感覚。ザクリと斬り裂いた心地よい感触が手に残っている。


 着地をした俺は直ぐさまイフリートを振り返る。もう炎は吐いておらず、イフリートはただ宙に存在しているだけであった。


 程なく泡が弾けるようにして、イフリートの身体が薄くなっていく。


『何てことだ……。魔人となった我が手も足もでないとは……』


 脳裏に響く悔恨の念。イフリートはようやく現実を理解したらしい。絶対強者だと信じた心は折られ、逆に自身の立場が弱者であったのだと知らされている。


『主人様、申し訳ございません。我はこの地を守りきれませんでした。願わくば、この報告が主人様の元へ届きますように』


 言ってイフリートは爆発する。俺を巻き込むつもりなのか、炎の塊となって破裂していた。


『メガインプレッション!!』


 ところが、予期していたのか、イーサが同程度の爆発を起こして相殺してしまう。イフリートによる捨て身の攻撃は敢えなく不発に終わっていた。


「助かったぜ、イーサ」

『なあに、大したことではない!』


 結果的に俺はダンジョンボスに圧勝していた。少しのダメージも受けていない気がする。俺にとって明らかな成長を感じられる戦闘であった。


『レベル1605となりました』


 ここでもまたレベルアップを果たす。オルカプス火山に挑む前からは考えられない。俺は火口のダンジョンにて1000近くもレベルアップを遂げていたのだ。


 これには自信を深めると同時に、決意が成されることを確信している。

 俺は今一度ミアに思いの丈を告げた。


「必ず仇は討つ――――」


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