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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策4 神の視点は黙認の理

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7-神を否定する悪魔

広場を出た蜜柑は、入り口付近で見かけた長い栗毛の女騎士を追って地上を走る。


騒動の現場から逃げる住民達とは真逆の方向であり、流れに反した行動は本来の力を発揮できない。

だが、それを鑑みたとしても……


『あの人、普通の人間だよね……?

なんでこんな速いの……?』


頭上を飛び回る女騎士は、ずば抜けて速かった。

それこそ、神秘である蜜柑が同じ条件で競争してもかなりいい勝負をするんじゃないか……というレベルである。


もちろん、騎士であると思われる彼女は普段から訓練をしているだろうし、蜜柑は木なので立っているだけだ。

慣れているかどうか、という点も大きな影響を与えているだろう。


しかし、だとしても神秘は本来、普通の人間が敵う相手ではない。屋根の上を飛び跳ねて走る女騎士は、人間の規格の中では最高レベルの実力者だと思われた。


(あの人が向かうなら、私が行く必要はないかもね。

国王が現人神なら、騎士団には神秘もいるだろうし)


この国を守る騎士の強さを理解した蜜柑は、やや走る速度を落とす。もちろん向かうのをやめはしないが、重要度は大分下がったと言っていい。


彼女は人の流れに逆らって無理やり進むのをやめ、少し余裕が生まれてから改めて現場に向かい始めた。

やがて人がいなくなると、腕を木に変化させて伸びる腕のように使って屋根の上を移動し始める。


(今の私は人間の体だけど……

これはあくまでも、木から精神が抜け出しただけの思念体。

木であるっていう認識拡張くらい、代償なく簡単にできる)


おそらく人の目を気にする必要もなく、最初から屋根の上を移動していた女騎士は、とうの昔に走り去っている。

ようやく彼女と同じ条件になった蜜柑は、速やかに現場へと向かうべく彼女の影を追った。




~~~~~~~~~~




それから数分後。

屋根の上を木の腕を伸ばして移動した蜜柑は、問題なく騒動の現場へと辿り着いていた。


騎士団と敵対する意思はないとはいえ、一応部外者ではあるので、彼女が潜むのは移動した流れのままに屋根の上だ。


必死にオーラを抑え込み、気配を殺す彼女は、どんな状況なのか、何が暴れているのか、自分が手を出す必要はないのかなどを見極めるために下を覗き込む。


(うっわ、何あれ……!? 一応人の形をしてるけど、人間じゃないよね……!? どれをとっても、異形の怪物だよ……!!)


すると、彼女の瞳に映ったのは人型の化け物だ。

全身は人間とは思えないような青色で、背中には分厚い翼、頭には鈍く輝く角、丸太のような腕は4本もある。


さらには、体躯はそれと応戦している騎士達の軽く2倍近く――3メートルはあった。色や腕の数、翼などの追加要素をなしにすれば、それはたしかに人や猿と同じような形ではある。


また、ボロボロではあるが衣服のようなものを身に纏っているため、野生動物とは思えない。


だが、騎士達をボロ雑巾のように吹き飛ばし、大暴れする姿は明らかに人間離れしていて、人間とも思えない。

逃げ遅れた住民を踏み潰すそれは、もはや野生動物とも人間ともつかない怪物でしかなかった。


(これは流石に加勢しないとヤバそう……

あっでも、あの女騎士さんは上手くやってる。神秘の気配も近付いてきてるし、下手に手を出すのもあれかな)


次々に吹き飛ばされていく騎士達を見て、ここにいる人達では対処不可能だと参戦しようとする蜜柑だったが、先に来ていた女騎士の姿を見て考えを改めた。


自分は部外者であり、街を歩いている時は監視までされていたのだから、余計なことはするべきではない……と。

聖人らしき神秘が近付いてきていたこともあり、彼女は安心して観戦を続ける。




「あ、蜜柑ちゃん!」

『うん? わー、ガーベラだぁ。

もうテレパシーはいいのかな、ウィステリア?』


蜜柑が本格的に観戦する体勢になって数分後。

4本腕の怪物に厳しい視線を向けていた彼女の背後から、やや場違いな明るい声がかけられる。


意識の半分くらいを怪物に向けながらも振り返ると、そこにいたのは純白の翼を羽ばたかせているガーベラ達だ。

彼女達は少し離れた場所から、怪物の目に止まらないような位置取りで滑空して蜜柑の隣に降り立つ。


明るいガーベラの声と同じような、やや気の抜ける蜜柑の確認を聞いたウィステリアは、思わず緊迫感を消して苦笑していた。


「そりゃあね。だって、またなんか起こってるんだもん。

からかうな以前に、今はそんなやり取りしないよ」

『ご尤も。それじゃ、2人も見ていく?

多分、私達が乱入するのはよろしくないと思うんだけど』

「そうだね。街では視線も感じたし、誰かもわからない人が加勢に入っても、混乱させるだけだ。

相当まずい状況にならなければ、僕もこのまま見ているよ」


傍観者に徹するという蜜柑に、たった今到着したばかりであるウィステリアも同意する。


ここは屋根の上――建物の上なのだが、どうやってか蜜柑が生やした木の椅子に座って、本格的に観戦するモードだ。


そんな彼女達の眼下では、少し前に到着していた聖人らしき騎士が、女騎士と共に怪物と対峙していた。




「フハハハハ!! 死ね、悪神を崇める聖導騎士団のクズ共!!

我は今日こそ神殺しを成し遂げるのだ!!」

「はぁ……毎回撃退されてるのに何言ってるんですか。いて」

「お前にやられた覚えはねぇぞ、天然野郎!?」


怪物が自信に満ち溢れた宣言を轟かせると、それが振り回している4本腕をただの鉄の棒でいなす聖人の騎士……聖騎士は、ぼんやりとした口調で言葉を返す。


怪物の拳は街路を軽々と抉っているし、4本もあることでその危険度は常人の倍なのだが、緊張感などまるでない。


頭上からの拳は鉄棒を軽く回してそらし、横からの拳は流れるような動きで体ごと回転して接近、カウンターを食らわせていた。


一連の流れ的には、聖騎士の方が優勢に見えるくらいだ。

しかし、怪物は3メートル近い巨体であるため、いくら神秘でもただの鉄棒では分が悪いと言える。


おまけに、鉄棒を武器に棒術らしき技を使っているというのに、彼は頻繁に棒を頭にぶつけていた。

怪物が天然野郎と叫んでいることに納得してしまうほどに、明らかにズレている。


ほぼノーダメージのカウンターのあと、再び距離を取るべく後退していた彼は、何度も勢い余って頭に棒をぶつけながら無意識に挑発していく。


「というか、週に2〜3回やられててよく来れますよね。

いて。よくわかんないけど、死ぬほどタフだし……痛っ。まぁ殺すなっていわれてるからなんですけど、それはいいとして……うん、何度も来て恥ずかしくないんですか?」

「フハハハハッ!! おい小僧、随分と死にてぇようだな!?

喜べ、我直々にミンチにしてくれる!!」


これでもかと煽り散らかされた怪物は、青い皮膚に青筋を立てながら地面に手をつく。もちろん、腕は4本あるので隙はない。聖騎士を気にすることなく、堂々と力を溜め始めた。


だが、それを見ても聖騎士はマイペースだ。

度重なる自滅によって、ついに頭から流れてきた血を拭いながらも、ぼんやりと呟いている。


「手だけで……? 潰しただけじゃ挽肉にはならないですよ。

ここを襲うことに夢中で、料理とかしないのかもですけど」

「ハッハァ、潰して油に入れりゃあおんなじことよ!!」

「わぁ、メシマズの香りがプンプンするなぁ……」


"失楽園"


聖騎士が場違いな発言をしていると、怪物からは黒い波動のようなものが放たれる。それはベールのように柔らかく周囲一帯を包み込み、彼という神秘をかき消してしまった。


しかし、それでも彼はマイペースだ。

鉄棒から手を滑らせながら、ただの人間に戻ったこともまた自滅することも気にせずぼんやりと呟いている。


「……あ、力抜けてしまいますね」

「いや、さっきから何やってるんですか、カストル様!?」

「痛っ。……え? もしかして殴りました?」


鉄棒を足の指に落とした聖騎士――カストルは、怪物の気をそらすことに注力していた部下の怒鳴り声に呑気に目を向ける。


自分で自分の指に鉄棒を落としたことに気がついていないのか、怒り心頭の彼女に殴られたと思っているようだ。

しかし、当然そんなことはない。


長い栗毛を翻している女騎士は、今彼に向かって駆け寄ってくるところであり、濡れ衣を着せられたことでさっきよりも強く怒鳴りつける。


「ご自分の棒ですよッ!!」

「……ああ。いて」

「どこでコケてるんですかッ!?」

「フハハハハッ、間抜けめ!! ミンチにしてくれるわッ!!」

「人間用のミンサーとか、あるんですかね……」

「いや、避けてくださいよ、カストル様ッ!?」


体を女騎士の方に向けようとした拍子に、意味の分からないコケ方をしたカストル。無様に地面に突っ伏した彼に対して、怪物は勢いよく駆け出した。


それでもなお料理の話を続ける彼に、女騎士はもはや涙目だ。彼を庇うように前に立ち塞がるも、その細腕には怪物のようなパワータイプを真正面から受け止める力などない。


ほぼ確実に叩き潰されることを予期して、強い意志を秘めた目も、諦めずに剣を握る手もわずかに震えていた。

しかし……


「お待たせいたしました、ユスティー様!!

聖騎士長様をお連れしましたよ!!」

「ひいぃぃぃっ……!? ななな、なんで僕がここ、こんな恐ろしい敵と、たた戦わなくっちゃいいけないのさっ……!?」


怪物が駆け出した直後、彼らの頭上には2つの人影が現れた。

1人は、女騎士――ユスティーと共に聖導教会にいた青年騎士――ジエン。


もう1人は、ジエンに抱えられている小柄な男、彼が言うには聖導騎士団の聖騎士長だという男だ。


だが、彼は勇ましくユスティーに呼びかけるジエンとは真逆で、声も体も本当に人間か……? と疑いたくなる程に震えていた。


しかも震えだけではなく、その内容も恐ろしい敵、なんで僕がと弱々しさを全面に押し出した、頼りなく責任感のない言葉ばかりである。


それを聞いたジエンは、どうにか1度目を避けたユスティー達と怪物の間に、スタッと着地しながら彼をなだめていく。


「それはもちろん、あなたが最強の騎士だからです!」

「へ……!? 僕が、最強……?」

「はい、その通りです!

この国の人間ならば、誰に聞いても迷わずこう答えますよ!

最強の騎士はケルミス聖騎士長、あなただとね!」

「でも、僕はこんな小柄で内気で……」

「その優しさもあってこその最強です! ただ力を振りかざすだけのそこの怪物とは違う、人望も併せ持つ傑物です!!

そうだろう、お前達!?」


ひたすらに褒めちぎるジエンは、それでも弱気な聖騎士長――ケルミスに最後のひと押しをするべく周りの騎士達に同意を求める。すると……


「その通りです!! あなた以上の騎士はいませんッ!!」

「最強で最高の騎士!! 全人類が憧れる騎士!!」

「神の座するエリュシオンにて、最も偉大な人の英雄!!」


怪物の暴れる余波だけで吹き飛んでいた騎士達は、口々に彼を褒め称え始めた。その内容は、ここまで来ると誇張なのではないか……? と疑ってしまうほどに熱烈だ。


しかしだからこそ、小柄で内気で弱々しい上に、頼りなく責任感も皆無なケルミスに影響を及ぼせる。

彼は、その小さな体をさっきまでとは違う震えで満たすと、カストルを引きずって避けるユスティーを見つめた。


その瞳には、もはや直前までの頼りなさは微塵もない。

小柄だったはずのケルミスの体は膨れ上がり、目の前の怪物にも負けず劣らずの巨躯になっていた。


「うおぉぉぉぉッ!! 騎士団長が自己肯定感を高めたぞ!!」

「やっちまえ、我らが最強の騎士ー!!」


筋肉でジエンを弾き飛ばしたケルミスを見た騎士達は、倒れたままの格好で口々に声援を送る。

既に巨大な彼の体は、彼らの声援によってさらにその質量を増していた。


「フハハハハッ!! ようやく来たな筋肉ダルマ!!

今日こそ我がミンチにしてくれようぞ!!」

「筋肉のミンチ、珍しい組み合わせ……」

「馬鹿言ってないで離れますよ、カストル様!!」


動きを止めた怪物が轟かせた言葉に、未だマイペースに地面で転がっているカストルは頓珍漢な言葉を返す。

今までずっと引きずって避けていたユスティーは、やはり彼を引きずりながらこの場を離れていく。


彼女達が退避したことにより、道の中央にいるのは身構える怪物と、大柄ながらも人並みの身長に戻ったケルミスのみだ。


「死ねぇ、"無類の金剛力(ヘラクレス)"ッ!!」

「クク、この我が貴様如きに遅れを取るものか、たわけめ!!

身の程を弁え、這いつくばるがいいぞ悪魔!!」


4本腕で迫っていく怪物に対して、ケルミスは自信に満ち溢れた表情で右腕だけを振り上げる。

彼の身長は最初より大きくなっているが、現在は2メートルもない。


3メートル近い巨躯の怪物よりも明らかに小柄なのだが、彼はそれが4本腕を振り上げるのに対して、たった1本の腕のみを振り上げてそれと激突した。


"バチカル"


「ふん!!」

「……!!」


決着は一瞬。怪物が4本腕から繰り出した、黒い波動を纏った一撃……ならぬ四撃は、ケルミスが繰り出したただの拳にすべて叩き潰される。


拳は容赦なく4本の腕をぐちゃくちゃにへし折り、顔面を大きくへこませていた。


今更ながら、蜜柑の対策ではセフィロトとクリフォト……天使系以外は化心本編からのゲスト出演です。

大体はサービスというより、この国に来たなら流石に出てこない訳にはいかないかなという感じなので、キャラは増えますがご了承ください。


(ちなみに、本編ではまだエリュシオンに来ていないので、彼らは蜜柑の対策で初登場です、作者はバカ)


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