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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策4 神の視点は黙認の理

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6-神の座する国にて・後編

ウィステリアとガーベラが2人で街の観光をしていた頃。

彼にガーベラを追うように促すも、テレパシーは遮断されてしまった蜜柑は、1人寂しく街中を歩いていた。


『はぁーあ……せっかく現代の最大都市まで来て1人かー。

寂しいけど、お姉さんは空気読んであげますよー』


深いため息をついている彼女は、口では寂しいと愚痴りながらも、どこか嬉しそうに呟いた。

どうやら彼女からしてみれば、実際に見られないことよりも、関係性が進展することの方が重要のようだ。


見ることができて楽しいが進展がないことより、見られなくて寂しいが進展する方が幸せだとでもいうように、軽やかな足取りで彼らとは違う区画を進んでいく。


とはいえ、彼女が一人ぼっちでいることに変わりはない。

自分の意思で自由に行動できるということでもあるが、この時代に詳しくない彼女からしてみると苦行である。


当てもなくフラフラと彷徨う彼女は、どこへ行くべきか何があるのかがわからずに目を泳がせている。


『まぁ1人なのはしょうがないとして……私、この街のこと全く知らないんだよねぇ。人に話しかけるのも辛いし……うーん』


人波に飲まれている彼女の視界に映っているのは、いくつもの店や多くの人々だ。まだ昼前ではあるが、街はこの世界の中心地らしく賑わっている。


商売人、観光客、やたらと監視してくる騎士、旅人達など、話しかけさえすれば誰かしら道案内をしてくれそうな雰囲気があった。


だが、彼女は転生前の内弁慶という良くない性質を持ち越した、腐っても鯛ならぬ、事実腐った木である。

ガーベラ達のような子どもにすら話しかけられなかった彼女なのだから、こんな人混みの中で声掛けなど不可能だ。


気の良さそうな旅人、明るく笑う子ども、優しそうな女性。

どんな人を見かけても尻込みし、ただただフラフラと店などを眺めながら進んでいく。


(うーん、あの聖花騎士団っぽい人達、なんでこんなに監視してくるんだろう……? 神秘だってバレてる?

でも、私はガーベラみたいに魔人じゃないし、そもそも彼らの中には神秘もいなそうなんだけど……)


彼女はエリュシオンに何があるのかをよく知らない。

ただ、現人神が統治している、世界一強い輝きを持っている=強者が多そうという認識だけである。


そのため目的地すらも定まらないのだが、聖花騎士団の魔導騎士長――ミモザと対話したという経験はあり、監視の視線やそれが騎士であるということには気がついていた。


といっても、その誰もが取るに足らないただの人間であるため、彼女は気にせずに進んでいく。


(人材集めなら、やっぱり騎士団本部とかに行きたいところだけど……場所わからないし、話しかけられないし、監視されてるしで、もうどうしようもないね。2人もデートしてるだろうし、私もどこかでのんびりしてようかなぁ)


しばらくは悩んでいた蜜柑だったが、今日が1日目だということもあり、この国に来た目的を放棄する。

気の向くまま、落ち着ける場所を探し始めた。




~~~~~~~~~~




そんな彼女がやってきたのは、開放的な広場だ。

中心には、真ん中に神像が鎮座し、それを崇めるように囲む聖女や騎士の像が立ち並ぶ、芸術的な噴水があり、街中とは違って芝生や木々が生い茂っている。


綺麗に舗装された道は真っ直ぐとしたものばかりではなく、時に円を描き、時に直角に曲がり、噴水や動物の形にカットされた低木などを囲む。


行き交う人々はいるが、多くは芝生の上に腰を下ろしていたり噴水などを眺めていたりと、ゆったりと過ごしていた。


『自然がいっぱいでとっても開放的、なんだけど……』


だが、彼女が求めていたような落ち着ける場所、ということはなく……


「ハッハハハ!! バルバルバルーン(ほーう)、ウェーイ!!」

「ウェーイ!!」


特に開けている彼女の近くの位置では、街中よりも騒々しい集団が何か興奮気味に叫んでいた。

もっとも、彼らは迷惑集団のようなものではない。


その集団を構成しているのはほとんどが小さな子ども達で、たまに混ざっていたり、近くで見守っている親達を除けば、大人は中心にいるピエロのみだ。


そう、今日この広場では、1人のピエロによってイベントが催されていたのである。


『うーん、騒々しい。遠目に見てる分には、こういう騒がしさも嫌いじゃないけど、あのピエロ……』


その様子を見た蜜柑は、離れた場所に小さな木で椅子を作り腰を下ろして呟く。


視線の先にいるのは、グラデーションのついた派手な髪色、顔には度肝を抜かれるようなクラウンメイク、服も赤など目に痛い配色という、目の端で捉えただけでもわかる、ど派手なピエロだ。


一体全体どのような手品を使っているのか、彼はバルーン砲と叫ぶと同時に、懐から何十もの風船を飛び立たせて場を盛り上げている。


しかも、そのどれもが完全に膨らみ切っており、綺麗な球体だ。最初から服の中に仕込んでいたとしても、一瞬のうちに膨らませたとしても、どちらにしても凄まじい技術だった。


『あれ、魔人だなぁ……』


子ども達の頭上にとどまり続ける風船を見ると、蜜柑はより一層複雑な表情を浮かべ始める。

神秘である彼女には、彼が神秘であること以上に、魔人であることまでお見通しだ。


たしかにこれは、決して悪い騒ぎではない。

しかし、数日前に魔人と戦った彼女としては、騒ぎの元凶が魔人であるということに思うところがあるのだろう。


冷静に彼の性質を分析しながらも、変わらず微妙な顔をしていた。


『あのとんでも芸も、神秘だからこそなのかも。

だとしたら、アオイみたいにいい人なのかな。

……でもなー、見知らぬ魔人は警戒しちゃうよねー?

というか、なんかどっかで見たことある気もするしー……』


いい人なのかもと言いつつ、蜜柑は警戒をやめない。

彼の芸を楽しむためではなく、彼が事件を起こさないように目を離さずに監視を続ける。


その間にも、ピエロの芸は次のステージに。

袖から巨大な風船を取り出すと、子ども達を下がらせながら玉乗りを始めた。


「ハッハハハー!! 風船って簡単に割れる思うやん?

少なくとも、人を乗せるには強度足れへんやろーってな?

せやけどな、ミーの風船は特別製やってん!

ちゃっさがっちゅぬてぃん割りらんどー!」

「あはは、なにいってんのかわかんなーい!」


器用に子ども達のいる場所を避けながら、ピエロは笑いながら風船に乗って跳ね回る。やはり滞空時間が長く、落ちる時もゆっくりだからか、親達も一緒に笑っていた。


「ワハハ、すまんすまん!

ワイん風船は、人が乗ったっちゃ割れんたい!

割るにはこうしてー……」


ごちゃごちゃした口調を子ども達に指摘された彼は、横向きに回転しながら風船から跳ね上がり、軽く調子で謝る。

そして、改めてさっき言っていたことを言い直すと、またも変わった口調で笑いを誘いながらナイフを振るう。


瞬間、空高くで1つの風船が割れ、中からたくさんの花びらが飛び出してくる。風船が破裂した勢いで一気に拡散すると、子ども達の頭上に降っていく。


様々な色の花びらが舞うという幻想的な光景を見た観客は、大人も子どもも関係なく、一様に歓声を上げていた。


「きゃー、花びらの雨だー!」

「すごーい!」

「さぁさぁ、まだまだあるけんねー!

イッツ、プレゼントターイムッ!!」


ピエロは再び最後に出した巨大な風船に着地すると、今度は空中でバク転をしながら笑う。跳ね上がった彼の左手には、いつの間にか2本目のナイフが握られていた。


さらには、空中にとどまっていた風船は、飛び上がった彼の軌道の通りに列をなす。それはさながら風船の塔だ。

縦一列に積み上がった風船は、回転しながら落下する彼に次々と破裂させられていく。


すると、中から飛び出してきたのは飴玉、綿菓子、クッキーなどのお菓子類から、ピカピカ光る不思議なボール、空に道を描く雲のような神秘的なものなどだった。


それらは風船から吹き出される風に乗って、緩やかな軌道で子ども達の手の中へと吸い込まれていく。


「うわぁ、すごい!」

「あめの雨だー!」

「わたがしのくももふってくるよー!」


人間離れした芸を見て、お菓子やおもちゃまで貰った子ども達は、これ以上ない程に顔を輝かせる。

大人も子どもも関係なく、この場にいる者は蜜柑を除いて、全員がご満悦だ。


「さぁ、風船ショーのフィナーレだ!」


眼下の光景を見たピエロは嬉しそうに笑うと、最後に小さな風船の群れが割れる勢いで上空に昇った風船を破裂させる。

中から飛び出してきたのは、先程までとは違ってお菓子類やおもちゃ類ではない。


下にも落ちていかないそれは、そこまで問題にはならないであろう規模の花火だ。一体全体どうやって火をつけたのか、無数の小型花火は次々に空へ花を咲かせていった。


「うわぁ、きれーい……!!」


観客の視線は、空に咲いた花に釘付けだ。子どもも大人も、ピエロが空からいなくなったことにはまるで気が付かない。

唯一それに気がついたのは蜜柑で、彼女は花火に目をくらまされながらも慌てて木の椅子から立ち上がる。


さっきまでやっていたのが、本当にただの曲芸であったとはいえ、魔人は魔人。いきなり行方をくらませるつもりなら、見逃す訳にはいかなかった。だが……


「ミスディレクショ〜ン!

ご機嫌いかがかな、そこの少女?」


蜜柑が空を入念に探していると、突然背後から高いトーンの陽気な声がかけられた。慌てて振り返ってみれば、そこにいたのはもちろんさっきのピエロだ。


音どころか空気の動きすらも感じ取れなかった彼女は、思わず椅子だった木を尖らせて、槍のように向けながら声を上げる。


『うぇっ、いつの間に!?』


だが、当のピエロ本人は、降参するように両手を上げながらも笑顔を絶やさない。彼女が木の槍を下ろすまで、ふざけるようにくねくねとしていた。そして木が下ろされると、すぐさま愉快に騒々しく口を開く。


「ハッハハハ! ワタシは神出鬼没の神業ピ〜エロ!

ところで君は、見ているだけでは笑わないようだね。そこでどうだろう? ミーの手伝いをしてくれないだろうか?」

『え、なんで? 嫌だけど……』

「なんやて!? ははぁ、断られるとは思わへんかったわぁ」


どうやら勧誘に来たらしい彼は、蜜柑に迷いなく断られると耳から花を咲かせながら驚いて見せる。

それを耳から抜く彼を見ると、彼女は若干引きながらも笑みをこぼしていた。


『いや、なんでやると思ったの。ていうか、さっきから気になってたんだけど、そのごちゃ混ぜの方言ウザいよ?』

「馬鹿らしいやろ? 笑わしぇらるーならよかことしゃ」

『……それは、まぁ』

「わかるんじゃなぁ、えらいやん。

んで、なんでやーか思ーたかというとー」

『わかんないわかんないわかんない、普通に話してよ!?』


蜜柑が同意したことをいいことに、ピエロはさらにごちゃ混ぜの口調で説明を始めようとする。

単語どころか、話し方のテンポまでめちゃくちゃだ。


これには彼女は堪らず全力で抗議を始め、その叫び声を聞いたピエロも、流石に大人しくなって比較的普通に口を開く。


「あいよー。それはまぁ、君が寂しそうだったからサ☆」

『……それはそれでウザいなぁ』

「神業ピエロ、ショック!! でも、嘘じゃないからナー?

俺がこういうことしてんのは、子ども達の笑顔が見たいからだぜー? 君は子どもじゃないって言うかもだけど、少なくとも大人ではなーい。俺からしたらー? はい、子どもー」

『だる絡みやめてよ、ピエロさん……』

「ハッハハハ! でも、強要するのはダメだからねぇ。

次の機会のお楽しみ……ということで、アデュー!」


子ども扱いに肩を落とした蜜柑を見ると、騒がしく動いていたピエロは素直に勧誘をやめる。

彼女が反応する前に靴をカカンッと打ち付けて、飛び出してきたボールから出てきた煙に紛れて消失した。


次の瞬間には、彼はもう子ども達の中心だ。

いつの間にか出していた小鳥を片手に止まらせ、見惚れるような所作でハンカチを振っている。


『……はぁ、すごい人だ』


移動速度や技術もさることながら、彼がこんなことをやっている理由を聞いたことで、蜜柑は感嘆して声を漏らした。

ショーへの参加は断ったが、まだ鑑賞は続けるつもりらしく再び木の椅子へ腰を……


『キャー!?』

『また悪魔が来たぞ!! 逃げろー!!』

『っ……!?』


彼女が椅子に座ろうとした瞬間、どこか遠くの方から住民達の叫び声が響き渡る。パッと声のした方を見ると、広場の外……街のずっと外側の方から、煙が立ち昇っていた。


状況はわからないが、明らかに異常事態だ。

それを見た蜜柑は木の椅子を消すと、騒ぎの起こった方へと駆け出していく。


しかし、今まさに広場から出ようという頃、彼女の足を止めるような出来事が起こる。


『え、誰……!?』

「……!!」


どうやら、煙が立ち昇っている方向へと向かい始めたのは、彼女だけではなかったらしい。ちょうど広場を出た蜜柑の頭上には、建物の上を跳びながら現場へ向かう女性がいた。


それも、直前までは予兆もなかった出来事に、思わず蜜柑が足を止めてしまう程の身体能力だ。

彼女は水切りの石のように屋根の上を飛び跳ね、みるみる姿を小さくしていく。


『あの服……騎士かな? じゃあ気にしなくてもいいか』


一瞬硬直してしまった蜜柑だが、彼女も神秘であり、常識外れの出来事は日常茶飯事だ。

長い栗毛を翻す女性の服装から、騎士団の人だろうと当たりをつけた彼女は、その女騎士を追って走り始めた。


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